動物園襲撃…2の2
翌日みんなでスムージーを飲みながら、ミシシッピ河の畔に向かった。
動物園襲撃…2の2
翌日みんなでスムージーを飲みながら、ミシシッピ河の畔に向かった。車は三台で、ぼくとゲンちゃんとあとはデビッドがそれぞれ運転した。ぼくの車にはもちろんユキ、それから韓国人チーム(つまりWキム)、ゲンちゃんの車にはデンジャラス・ニホンジンカップル、つまりタイキとヨウコが乗った。そしてデビッドの車にレーチェルとマサヒコという組み合わせ。しめて十名になります。
ぼくらが河川敷に着くと、タイキがサッカーボールを持ち出して蹴った。それを無邪気に追いかけていくWキム。”What?”(「なに?」)と反応したのはレーチェルだ。”What are they doing? We gonna check out the zoo, right?”(「なにしてんの?動物園を偵察に来たんだよね。」)と矢継早に言う。「まぁまぁ。」と言いながら(というか無視しながら)タイキが再びボールを蹴る。ゲンちゃんはタバコを吹かしているし、マサヒコはミシシッピ河に向かってカメラをかまえている。このバラバラさ加減にもヨウコは「まぁいいんじゃない。」と女性陣をなだめながら、スムージーのストローをくるくる回している。デビッドはといえば車の調子がおかしいらしく、ボンネットを開けてチェックしている。
「なかなかいいコンビネーションだ。」とタイキが言う。どこがだよ、とぼくは思うが口に出したのは「動物園は?」という言葉だった。でもタイキの返事はいつものように「でもサッカーやるには一人足りないんだよな。」目の前の芝生ではWキムがボールを蹴り、それをマサヒコが写真に収めている。ぼくがユキを見ると女性陣は三人並んで散歩し始めた。いつもの通りラチのあかない不自然さ。競争にならない陽気さ。やる気のでない暑さ。色んなものが重なって、ぼくはなぜコノニューオリンズにいるんだろう。
「そうだ、あいつを呼ぼう。」と言ったのはやはりタイキだった。「誰を?」とぼくが聞くと、奴は少し天を見上げてからその名前を告げた。「ユキ。」まるで天使にチクるみたいに。ああ神様。「オーマイゴッ!」とぼくは叫んでいた。思わずゲンちゃんやマサヒコがこちらを見たくらい。ぼくは頭を振る。「なんでユキを。」彼女は言わずと知れたぼくのエックス(前の)ガールフレンドだ。「いつまでも元カノのこと引きずってる場合かよ。」とタイキはぼくにとどめを刺しに来る。「引きずってるんじゃなくて、呼ぶ必要ないってこと。ユキもいるのに。」ぼくは声をひそめる。「一人足りないんだよ、一人。」タイキはへこたれずに言ってくる。なんでユキなんだよ、とぼくが言うと奴は笑う。「女が足りない。」どうしろって言うんだ。とうとう堪忍袋の緒が切れた。「一体なにがしたいんだよ。」ぼくは怒って言う。「決まってるだろ、サッカーさ。」ぼくは頭をかかえこむ。この長い前フリの果てに、カギを何個も作ってきて、偵察にまで来て、リスにエサをやってリスを探して(それは自主的な行為だけど)、そのすべてがサッカーのためだったのか。第一級殺人多発の町、ニューオリンズで。
「なんのためにトンカツ・パーティーまでしたと思ってるんだ。」とぼくは言うとタイキはニヤっとしている。「動物たちはどうするんだよ。」とさらにぼくが聞くと、奴はまだ笑っている。「だから動物を助けるための、サッカーチームを作るんだ。」ぼくは思わずポカンとしてしまう。まったく奴は天才かバカのどっちかだ。少なくとも、ぼくみたいな常人には考えられない。「どっちでもいいけど、ユキはダメだからな。」ぼくが念を押すと、タイキは再びボールを蹴った。そのボールは芝生の上を転がり、向こうのユニフォームを着た連中のほうに転がっていった。まるでゲームが開始されたようにさ。
そして津波の後に
挙句の果て、船の上で演奏するとは思わなかった。ただおれは自分を信じて、そして仲間を信じてマイクを手に取った。しかし演奏が始まると、客たちは一斉に立ち上がりブーイングし始める。「だから言わんこっちゃない。」とおれがバンドを振り返ると、やつらの姿がなかった。ブーイングはおれだけに向けられていたのだ。あわてておれが何か言おうとすると、客たちは石まで投げ始めた。石だけじゃなく、カップやお皿やボトルやフォーク、ありとあらゆるものをおれに向かって投げている。「危ないな。」と思わずかがみこんだら、そこには階段があった。とっさに階段を下りると「ヘロー。」という声がする。ふと見るとそこにはハリオと連中がいた。