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動物園襲撃  作者: ふしみ士郎
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動物園襲撃…2の1

もちろんそれはタイキの提案で「勝つってことさ。」と奴は格好をつける。

動物園襲撃…2の1


 うちでトンカツ・パーティーを催すことにする。もちろんそれはタイキの提案で「勝つってことさ。」と奴は格好をつける。「それはいいけど、なんでうちでやるんだよ。」とぼくは言った。でも奴は「こっちは狭いからな。」と答える。「ま、ユキさえいいって言ってくれたらいいんだけど。」とぼくは言ったものの、彼女がどう返事するかわからなかった。するとタイキはぼくの目の前に立ってこう言った。「なんでも女の言うとおりなのか。」なんだそれ。「でも世界は女で回ってるんだ。」とぼくは反論したものの、劣勢は覆せなかった。


 結局ユキは”All right. I like TONKATSU very much.”(「いいんじゃない。トンカツ大スキ。」)と言ってくれて、うちでトンカツ・パーティーをすることになる。「参加費は無料、ただアメリカン方式に従って、来る人はビールなり差し入れを持ってくること。」という伝言ゲームによって集まったのは、もちろんタイキにヨウコ。そしてマサヒコやゲンちゃんだった。「日本人ばかりだな。」とタイキが言っていると、そこにユキの友達のキムやキム(二人ともキムという女の子だ)が現れた。「アジア人ばかりだな。」とタイキが言うので「じゃあ白人でも呼べよ。」とぼくが言おうとしたら、そこに現れたのがデビッドとレーチェルだった。”Hey, guys. What’s up?”(「やぁみんな、元気?」)と言ってラフに登場した彼らは、大学の英語コースで留学生たちの世話もしているアメリカ人学生だった。


”Hey Kim, Kim.”(「やぁキム、キム。」)などと声をかけていくのは、みんなも彼らのことは知っているからだ。特にタイキは留学生という枠を超えて、普段から白人連中ともツルんでいる。”He is crazy. Don’t you think so? Is the person like him usual in Japan.”(「奴はクレイジーだよな、そう思わないか。彼みたいな人、日本では普通なの?」)などとアメリカ人の彼らに言われる始末だ。それでだいたいぼくはこう答えることにしている。”The person like him is very usual. He is typical Japanese.”(「奴みたいなのはとても普通で、典型的な日本人だよ。」)

「なんか言ったか?」とタイキがビールを飲みながら言う。ぼくはユキの料理を手伝いながらビールを飲む(ユキはとても料理がうまい。そして今日はトンカツの他にも得意のクッパも作ってくれた)。「ようタイキ、何か音楽かけてくれ。」とぼくは奴に言う。するとタイキがゲンちゃんと一緒にCDラックからセレクトしたのは、もちろんティピカルなニューオリンズバンド、ネヴィル・ブラザーズだった。そう、ゲンちゃんは音楽をやっているので、この音楽の町を愛していた。


 音楽をかけると、すぐにデビッドとタイキが踊りだす。それにつられるようにレーチェルとヨウコも腰を振った。ゲンちゃんはテーブルをドラム代わりに叩いている。ダブル・キムはシャイなのでじっとソファに座ったままだ。マサヒコ?彼はカメラマン志望なので、すぐにカメラを取り出してカチャカチャとシャッターをきった。みんなビールを飲んでご機嫌になってきた。そしてトンカツの登場になり、「おー!」という歓声が上がる。「われわれはわれわれによる、われわれのためのトンカツを、われわれのために食べる。」とタイキがなぜか日本語で言って、最初笑ったのは日本人だけだった。それからぼくが通訳をして、やっと白人二人とダブル・キム、そしてユキも首を振ってクスクスと笑った。


 このトンカツ・パーティーの意味を後から考えるとおもしろい。そう、これを機会にぼくらは「動物園襲撃」の応援をみんなからもらえることになったからだ。そうわれわれの動物園を、われわれの動物のために、われわれが解放するのだ。「で、実際には誰がやるの?」とヨウコが聞くと、酔っ払ったタイキがみんなを指さして”We do. All of us.”(「おれらだよ。ここにいる全員。」)と言ったので、一瞬の静寂が訪れた。それから軽い歓声が起こり、拍手になった。おいおい、みんな本気なのか。とぼくはカギと小リスのことを頭に浮かべながら、みんなが動物園に入っていくさまを想像した。



そして津波の後に


 波が揺れている。船の上へと助け出されたおれは、みんなを見渡した。彼らは演奏をしながらも、あいているギターを見ておれに合図している。おれは首を横に振る。すると目の前で、自分の頭を手に持ったKがニヤっと笑う。「なんだよ、お前は自殺したんじゃ…」と言いかけると、後ろでハリオがポロロンとピアノをひく。もちろんマークはリードギターで、テリーも楽器ができないはずなのにドラムを叩いている。「おいおい。」とおれが言うと、Kがベースラインを鮮やかに弾き出した。しかもご丁寧におれの前にマイクスタンドまで立ててある。なんだよ、歌えっていうのか。よく見ると船の上にはキレイな服を着たご婦人や紳士たちがいて、おれらに向かって拍手してるじゃないか。


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