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動物園襲撃  作者: ふしみ士郎
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動物園襲撃…1の9

「おまえら、授業とかはいいのか。」とぼくは言ったが「え、授業?なんの。」タイキはあくびをしながらぼくの分のコーヒーもいれる。


動物園襲撃…1の9


 部屋に行くと、まだヨウコは寝ていた。で、頭をかきながらリビングでコーヒーをいれているのはタイキだった。「やけに早かったな。」と奴は言ったけど、もうすでに昼前だった。「おまえら、授業とかはいいのか。」とぼくは言ったが「え、授業?なんの。」タイキはあくびをしながらぼくの分のコーヒーもいれる。こいつらに聞くのが間違いだった。


「そっか、じゃあようやくやる気になったってわけだ。」ぼくの話を聞きながらタイキはうなづいた。「やる気っていうか、やってあげないといけない気がするんだ。」ぼくが言うとタイキは冗談とも本気ともとれる表情をした。「たしかにな。」それで小リスが戻ってくるかはわからない。でも他の動物たちは「外で生きる権利があると思うんだ。」ぼくがそう言うと、再びタイキはうなづいた。「じゃあ決行日は来月の1日ということで。」奴はそう言うとシャワーを浴びに行ってしまった。

「あれ、来てたんだ。」長いボサボサの黒髪を整えながらヨウコが起きてきた。「暑いよね。」とか言うとキッチンで顔を洗って「あれタイキは帰ったの?」と水を飲みながら聞くので、ぼくはシャワールームを指差した。「ああ。」彼女はそう言うとイスに座って、短パンから伸びる長い足を投げ出す。「おい。」とぼくは目の前の足をはらって言ったけど、ヨウコは笑いながらタバコに火をつけた。まったく、アメリカ人もびっくりのアメリカンさだよ。


「じゃあ作戦会議といくか。」タイキはティーシャツを着るとそう言った。「なんの作戦会議よ。」ヨウコは相変わらず気だるそうにソファに寝転んで答える。「なんのって決まってるだろ。」タイキはなぜか腕立て伏せを開始する。その姿を見てハハハとヨウコは笑い出し、奴の背中に座ろうとする。「重い。」とか言いながらもタイキはそのまま腕立て伏せを十回して、地面に倒れた。「もっといけるんじゃないの。シャワー浴びてくる。」ヨウコは立ち上がるとそう言って消えた。「まずはゾウが狙い目だと思うんだ、おれは。」タイキがそう言ったので、ぼくは最初なんの話をしているのかわからなかった。もちろんそれは動物園襲撃の作戦だった。


「ゾウって、ゾウ?」ぼくが聞くと、タイキはテーブルの上に座った。そして自分で大きな体を作ってみせる。「そう、エレファント。」なんでゾウが狙い目なんだよ、とぼくは聞く。「そらさ、ゾウの言うことだったらみんなも聞くからね。」意味の分からない回答だったので、ぼくは頭をかいた。するとタイキは冷蔵庫からビールを二缶持ってきて、一つをぼくに渡し、もう一つは自分で飲んだ。「狙うならリーダーからだろ。」ということは、ゾウが動物園のリーダーってわけなのだろうか。

「当たり前さ。」とタイキは言った。ぐびぐびとビールを飲みながら。じゃあリスは?と聞きたかったけど、アホらしいので遠慮した。すると「リスは偵察隊ってとこだな。お前みたいなもんだよ、ススム。」だってさ。「なんだよ、おれはリスか。」と答えたものの確かな反論もできるわけもなかった。じゃあお前はゾウで、ヨウコはライオンか?とでも言いたかったけど、その代わりにぼくもビールを飲んだ。「いやヨウコは実際メスライオンそのものだよな。」とタイキが言ったので、ぼくも一緒になって笑っていると、後ろにバスタオルを巻いたヨウコが立っていた。「なによメスライオンって。子猫ちゃんくらいにしといてよ。」と言ってタイキのビールを奪って口をつけた。


「じゃあさ、カギはススムに任せるからな。」とタイキは言って、手を振った。なんだよ作戦会議って、それだけか。とぼくは思ったけど、どうせ偵察隊だからな、って言ってやった。するとタイキはニヤって笑って「気にするな。リスはリスでかわいいもんさ。」だって。それが女の子に言ってるのならいいけど、男に対して言う言葉か。「バカ、男らしさっていうのはいざって時のためにとっておくもんだ。」ぼくはタイキにそう言うと、ヨウコの肩に手をのばして頬にキスをした。珍しくヨウコが照れたので、こちらまでなんだか恥ずかしくなった。「じゃあまた明後日だからな、偵察は。」と妬きもせず言ってタイキは自転車に乗る。「どこに行くんだよ。」とぼくが聞くと「授業だよ。」だってさ。ぼくもヨウコにさよならを言って、車を走らせガーデン・ストリクト(ガーデン地区)に向かった。



またある日の午後


 銃声が聞こえて、おれは思わず震えた。その震えが止まらないうちに、波が襲ってきた。「ビッグ・ウェイブだ。」おれは声を上げたが、もうそこにはハリオもテリーもマークの姿もなかった。マジかよ、とつぶやきながらおれは波に乗ろうとした。沼にしては大きすぎる波だ。そしておれはまるでハワイアン・サーファーのように目の前の板を使って波に乗った。「やったぜ。」と思わず叫んだけど、波の上から見ると、そこにはこの世のものとは思われない風景が広がっていた。マジかよ、おれは眼前の光景を見ながら唖然とした。



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