Ep.
――夢を見た。それは何度と見た夢。ずっと私を待続けてくれた彼女とユラン節が導いてくれた奇跡の夢なのである。
夕日に包まれた部屋の向こう。バルコニーに立ち、遠くを見つめている少女の後姿。山吹色の一つに結った長髪を風に靡かせ、飴色に染まった海洋をただ見つめている。傍らには籐椅子が二つ並び、そのもう片方に着く者――私のことを待っていた。
「スフィア」
私が名前を呼ぶと彼女はゆっくりとこちらに振返った。その顔は夕陽の色に染まり、飴色に輝いた大粒の涙がその美しい瞳から溢れ出していた。
「ただいま」彼女の下まで行くと私は言った。「待たせたな」
「もう、遅いよ」と少しいじけた様な顔をするが、それでも最後には笑ってくれた。「おかえりなさい」
そしてバルコニーで私は彼女を目一杯に抱締めた。
「話したいことが沢山あるんだ」
「うん。私もだよ」
いつしか私の声は震えていた。
「謝りたいことが沢山あるんだ」
「もう、ホントだよ」
いつしか私も涙を流し始めていた。
「俺はたまらなく弱い人間なんだ」
「そんなの知ってるよ」
いつしか私たちは橙色の光に包まれ、抱寄せた彼女の姿が徐々に攫われていく。現実に引戻されていく。
「だけど、だけど――」
「ほら、甚六」
彼女はその名を呼ぶと、私の頬へ両手を添えた。
「スフィア、君のことをずっと愛してる」
「奇遇ね。私もよ」
その輪郭が陽光に溶かされていく最中、私は最愛の人物の、最大の笑顔をこの目に焼き付けた。
「さようなら」
九龍街――それは人々の恩情と少しばかりの不可思議で成立つ珍妙な街。私はこの街を愛し、そしてこの街に住む彼らのこともまた愛しているのだ。そんな彼らに囲まれて、私がこれから先もまた生きていくなどということは、もう言わずもがなであろう。
自明の理を徒に語っては、この限られた寿命を浪費してしまうではないか。
小説自体は出来上がっていたものの、更新するのが突然面倒くさくなって二年間くらい放置してました。ところが今朝、二日酔いで目覚めてやることもないのでPCをカチカチしていたところ、ふとこの「九龍街のメイド」という作品がファイルから出てきて、「そういえば、なろうの更新が止まっていたな」と思い出し、二年間の時を経て、更新が停まっていた分を一気に投稿した次第です。
これは私が高校時代に書いた作品ですね。もう百年くらい前の話です。
読み返すとかなり初々しくて恥ずかしなってきますが、ここで自分の作品には余りイデオロギーを出さない方がな良いなと学びました。いつかこの作品もリメイクしたいですね。そして話の続きが書けたら尚良き。まあ十中八九ないでしょうけど。一応、二部ではナーニャのお姉さんが帰朝してくるプロットを作っていました。
こんな作品を読んでる人は一人もいないでしょうけど、最後に、
「九龍街のメイド」を読んでくれて、ありがとうございました。