あなたは生まれてくるべきではなかった。
私たちはいつも理由をつけて努力から逃げる。
でも本当は失敗するのが怖くて怖くて仕方がないんだ。
また意地悪な人に、馬鹿にされるかも。また笑われるかも。また自分には価値がないんだと感じてしまうかもしれない。
すり減った自信がもっと減ってしまうかもしれない。
こんな惨めな思いをするくらいなら努力なんてしなくていい。ずっと安全圏から成功している人を攻撃している方が楽だ。
何もせずに、誰かを攻撃し続ける。そうすれば、もう傷つかなくて済む。
惨めな他人を見ていれば、自分がマシに見えてくる。
だけど、本当はいつも心の中で気づいている。一番惨めなのは、自分なんだ。
他人を攻撃しても、自分の人生は何一つ変わらないのだ。
問題は何一つ解決されない。
一歩たりとも前に進んでいないのだ。
努力をしても努力をしても努力をしても、人生は変わらないかもしれない。
頑張っても頑張っても頑張っても報われないかもしれない。
もしかしたらそもそも不可能なのかもしれない。
それでも私たちは、努力をする。
涙を飲んで、辛酸を舐めて、血反吐を吐きながら、努力する。
そして、いつか自分が暴言を吐かれる側になる。だけどその時には、失っていたはずの自信に満ち溢れている。
努力を続ければ、諦めなければ、最後に一度だけ報われる。
その時初めて私たちは思う……「頑張ってよかった」と。
[聖杯室]
「もう一回言ってください」
「あなたに才能はありません。攻撃も防御も、剣術も魔法も全部素質無しです。
チートスキルもなければ、家柄も至って平凡。これじゃあ……」
「これじゃあ……なんですか?」
「もはやあなたは生まれてくるべきではありませんでした……」
俺には才能がなかった。
目の前に開示されたステータスウィンドウには、
『攻撃0
防御0
素早さ0
剣0
盾0
魔法0
格闘0』
とある。本来は、ここに数字が表示され、そこから適性のなる職業訓練を受けるのだ。
だが、俺に適切な職業はない。
それを見て、
「いよっしゃああああ!」
心の底から歓喜の声が飛び出た。
こんなに嬉しい日なんてない。
人生最高の日だ。