第三話
「ただいま〜!!」
玄関のドアを開けると、いつもは聞こえるはずのない争う声が聞こえて来た。
「だから、俺は東京に行く!」
「ダメだ!卒業までは家にいなさい。」
私と仁は状況が掴めずにいた。
でも、普段は見ないパパとたっちゃんの言い争いに泣きそうで。
仁は私の肩をそっとを抱いてくれた。
呆然としている私たちのところへ雄ちゃんが来て、事の顛末を話してくれた。
たっちゃんのバンドが東京のレコード会社にスカウトされたらしい。
もちろん、デビューを夢見るたっちゃん達は二つ返事でOKしたけど、
大学を卒業するまでは家を出ないという約束をしたパパは許さなかった。
「なんでダメなんだよ?父さんだって、俺の夢応援してくれてたじゃん!!」
「竜也の夢は応援してるよ。だけど、約束は守りなさい。」
「今行かなきゃダメになるかもしれないんだよ!」
「約束は約束だ。」
「もう、いい。」
たっちゃんは自分の部屋へ上がっていってしまった。
「大丈夫、心配しなくていいから。」
「雄ちゃん・・・。」
「有希も仁も早く着替えておいで。ご飯にしよう。」
その日の夕食は誰も話そうとしなかった。
こんなうちは始めてで、何だか切なかった。
夕食が終わっても、誰も話そうとせず、みんなそれぞれの部屋へ行ってしまった。
「なぁ、有希?」
「何?」
「お前はどっち側の意見?」
「う〜ん。どっちも分かるんだよね・・・。
たっちゃんが夢を追いかけたいのもパパが家族を大切にしたいのも。」
「だよな〜。」
「こ、聖!?びっくりした〜。」
「親父はさぁ、俺ら血の繋がってない家族の絆を大切にしたいんじゃねーの?」
「うん。。。」
「難しいよね〜。」
「淳之介!」
「竜兄にとっては千載一遇のチャンスでしょ?」
「洗剤??」
「仁は黙ってて!(笑)」
「まっ俺らはあんまり口出さない方がいいんじゃない?」
「そうだね。さすが、和也!」
「何?みんな揃ってたの??」
「雄ちゃん。」
「いや、今夜はこの部屋で寝させて貰おうかと思って。
さすがに竜也も今日は1人になりたいでしょ?」
「だね。」
「ねったまには昔みたいにみんなで寝ない??」
「はぁ?なんでだよ!」
「雄兄、俺明日テストだから勉強しないと。」
「俺も朝練あるからパスー!」
「じゃ〜ね〜。」
弟組は部屋へ戻っていった。
「みんな冷たいの・・・(涙)」
「雄ちゃん〜。じゃあ、3人でトランプしよ?」
「おっ負けたら罰ゲームあり??」
「なんで仁はそういうことしか考えないかな〜??」
「いいよ!罰ゲームありね(笑)」
「だめだよ、雄ちゃん!仁はとんでもないことやらせるって!!」
「大丈夫だって(笑)だってさ、仁は(こそこそこそこそ)」
「あっそっか〜(笑)」
「何だよ、2人で!!よし、じゃあババ抜きな!」
「うわ〜また負けた!!」
「仁、あと1回負けたら罰ゲームだからね〜(笑)」
「何して貰おうっか??」
さっき、雄ちゃんと話してたこと。
仁ってババ抜きのとき、絶対JOKERを真中にするんだよね(笑)
しかも、気づいてないし。
そうしたら、案の定、
「・・・負けた・・・。」
「雄ちゃん、罰ゲームどうする?」
「そうだなぁ〜(笑)じゃあ、1週間家事をすること!!」
「えっー!!??」
「俺だってたまにはゆっくりしたいもん♪」
「頑張ってね、仁!」
「・・・・。」
仁は黙ってベッドへ行った。
「あははは(笑)すねたし!」
「俺たちも寝ようか?」
「そうだね。」
ベッドに入ったものの、私はたっちゃんのことが気になって、
なかなか眠れずにいた。
「ねぇ、雄ちゃん?」
「どうした、有希?眠れない?」
「うん、何か色々考えちゃって・・・。」
「大丈夫、明日になったらちゃんと話して元通りになるよ、竜也も。」
「そうだよね。」
「心配しないでおやすみ。」
「わかった・・・。おやすみ、雄ちゃん。」
雄ちゃんの言葉で落ち着いた私はゆっくりと眠りの中へ落ちて行った。
次の日の朝、私は仁の声で起こされた。
「有希、朝だよ!起きろーー!!」
「ん・・・ん?じ、ん??」
「起きろー!!こっちは5時から起きてんだからな!」
「罰ゲームだってさ〜(笑)」
「雄ちゃん!仁、ちゃんと守ってんだね♪」
珍しい仁のエプロン姿を眺めながら、私は下へと下りて行った。
でも、朝食のテーブルは昨日と変わらなく静かで・・・。
たっちゃんも口を聞かず、ご飯を食べて部屋へ行こうとしたとき、
「竜也、今夜ちゃんと話をしよう。夕ご飯には帰ってきなさい。」
「・・・わかった。」
「みんなも一緒に聞いて欲しいから、早く帰ってきなさい。」
パパはそう言って、お店へ出て行った。
片付けをする仁を手伝いながら、
「仁、今日は言い争いにならないといいね。。。」
「大丈夫だって!父さんだって、たっちゃんだって昨日より冷静になってたしさ。」
「だと、いいけど・・・。」
「ほら、元気出せって!今日は俺がご飯作って待ってっからさ〜♪」
仁と話しているうちに元気が出た私は、元気よく家を出て行った。
「ただいま〜。」
夕方、家に帰ると私が一番遅かった。
急いで着替えて、席につくと昨日よりはいつもどおりになっていた家族がいた。
夕食後、パパが口を開いた。
「もう、みんなは承知のことだけど、うちは兄弟も親子も血が繋がっていない。
だけど、それ以上の絆を持っているとパパは思ってる。
みんなもどんどん大きくなって、やりたいことを見つけて巣立っていく。
それは凄く嬉しいことだと、パパもママも思っているし、応援もする。
だからこそ、一緒にいられる貴重な時間を大切にしたいんだ。
竜也、あと半年で大学卒業じゃないか。
その半年は竜也にとっても、パパやママ、みんなにとっても貴重な時間なんだよ。
だから、パパは竜也の東京行きには賛成できない。」
私はパパの言葉が重く響いて、何も言えなかった。
「・・・わかったよ。ちゃんと卒業してから東京行くよ。」
「たっちゃん。。。」
「いや、実はさ、今日スカウトの人から連絡が来て、
東京に行ってもすぐにデビューとかでは無いんだって。
しばらくはライブハウスとかでライブして、インディーズで力付けるらしくて。」
「だから今は、ライブの時だけ通うことにするよ。俺もバイト、今のトコ続けたいし。」
「ごめん、父さん。」
「竜也・・・・。」
こうして、たっちゃんの上京事件は1段落した。
「無事、解決して良かったな♪」
「本当、あのままだったらどうしようかと思ったよ(笑)」
「ってことは俺の罰ゲームもナシ?ナシ??」
「なんでよ!?あれは有効(笑)」
「えぇ〜〜!!しゅん・・・。」
それから1週間、仁の家事手伝いは続いたのだった。