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世界はいつでも終わらない

作者: Rouge

ある男の話をしよう。

取り敢えず便宜上その男の名をKとする。

中学校の頃に出会ったKは言葉遊びが上手いただの読書家だった。読んでいた本は100は下らないだろう。私とKは本が好きなことがきっかけで互いの本を貸し合い、借り合いしていった。


読んでいくとまだ完結してない本に出会うこともある。その時は続編が出版されるまで首を長くして待っていた。

そうしているうちに自分で書けば待つ必要はなくなる、と言う考えに取り憑かれた。

それから私とKは拙い文章を操り始めた。


高校に入り、お互いが顔をあまり合わせなくなってからも私とKの親交は続いた。


私は頭を必死に捻って断続的に文章を書き続けた。そしてKと互いの力作を読み合い、感想を述べ合った。しかし、途中でアイデアが出なくなる文章がたいはんだった。いつしか私の執筆頻度は減っていった。


私と違い、Kは文章を書き続けたようだった。途中で終わってしまうのも気にせずに彼の思うままに物語を描いていった。

いつの間にかプロローグしか無い物語は数えきれなくなった。


◇◇◇◇


私は久しぶりにKと会った。ゲームのこと、勉強のこと、様々な話をした。そして話は創作の話になっていく。

私は最近はあまり書いていないことをKに打ち明けた。

Kは続きがないプロローグだけのものをいくつも見せた。

お互いの変化を戸惑いつつ私たちは受け入れた。


私はKのプロローグしか無い物語をなんとか正当化しようとした。もはやふざけの領域だったが、思いの外話は盛り上がった。


Kがプロローグしか書かない理由は書けないではない。

物語は世界の創造だ。完結させるとそこで発展は止まってしまう。

世界は発展しなければその世界は死んでいる。

変化のない世界を生きているとは言わない。

世界はいつでも終わらない。

だから無限の可能性を残したプロローグだけという形になったのだ。これは既に1つの作品だ、と。


Kは面白がって聞いていたようだが、その言葉はいつまで経っても脳裏に残っていたようだ。

それはいつしかKのポリシーになっていった。

しかし同時に、私の言葉は甘い毒でもあった。Kは自身を正当化する大義名分を得てしまったのだ。永遠の世界を創る、故に書かない。一見矛盾するかの事柄だがその実、筋が通っている。


前提として、先を描く事のないプロローグなど空箱に過ぎない。中身もなければ、今後何かが入る事さえないのだから。


私はKの書く文章が酷く空虚な物に思えてならなかった。


その事実にK自身気づいているだろう。だが、必死に目を逸らしながら物語を創っている。

今はそれでもいいだろう。数多くの世界を創造するだけして、ほっぽりだす。

確かに世界は終わらないだろう。しかし、Kはそれで納得するだろうか。ただ、"世界を終わらせない"と言うたった1つのことしか守れない自分を。


事実、Kは物語を紡ぐ事を辞めた。

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