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第三十一話 再び川を下る

 恭順を示したカムラ王国を巻き込んだクラッサ王国のホレス侵攻は失敗に終わった。

 巻き込んだカムラ王国の王兄の娘ロズワグンが傭兵を率いてホレス側に参戦した為だ。

 聖騎士団すら投入されなかった程に楽観視されていたホレス侵攻が失敗に終わった事は、クラッサ王国を本気にさせるには十分な出来事だった。

 だが、本腰を入れた戦いとなれば、多くの時間を有する。

 それは、征四郎一行がジーカに向かい戻って来るだけの時間は稼げたことを意味していた。



 あの侵攻してきた連合軍をロズワグンが追い払ってから一週間が過ぎた。

 ホレス王城で後方担当の責任者であった王子マイワスが執務をしていると、慌ただしく迫る足とが聞こえた。

 マイワスの弟のハーナンの物である。


「兄上! 連中に報奨金を与えたと言うのは本当か!」


「功労者には報いる物だ。それに、短期決戦で戦費も浮いた、次に備えるために無駄遣いは出来んが、功労者を称えるくらいは使わんといかん。信賞必罰は武門の寄って立つ所であろう?」


「そ、それはそうだが……しかし!」


「ハーナン、お前はあの姫に袖にされて悔しいのだろう。だが、お前はホレスの王族、些末な事に拘るな」


 マイワスはじろりと視線を投げかけ、弟を嗜める。

 ロズワグンの戦場での物言いを伝え聞き、確かにマイワスも驚きはしたが、何処か納得もしていた。

 彼の姫は、カムラの女性にしては明らかに強い意志を宿しているのが見て取れたからだ。

 ホレスの王族として蝶よ花よと育てられた弟に御せる筈も無い。

 自分でも無理だろうとマイワスは冷静に算段する。

 ならば姫個人やその仲間たちの才能を評価し、恩を売って置くのが得策だと言うのがマイワスの達した結論である。


 事実、ロニャフの巡回騎士だと言うエルドレッドと言う男を通じて、ロニャフから援助を受ける事が可能になった。

 ロニャフとは、二方面作戦等と言う馬鹿げた事をクラッサはしないだろうが、互いに連絡を密に取り合い、クラッサの動きを封じるのが重要だと言う認識でも一致している。

 傭兵を用いた短期決戦でホレス側の人材の損失は然程なく、戦費も浮き、強力な同盟国まで得られた。

 開戦直前では考えられない状況の逆転。

 マイワスにしてみれば、ロズワグンとその仲間たちは幸運をもたらす神の使いに等しい。


 一方のハーナンはそうと割り切れなかった。

 あのような扱いを受けた事は生まれて初めてであり、その意趣返しに兵を出さなかった事が逆にロズワグンの声望を高めたのだから。

 だが、猪突猛進、根っこの部分では素直なハーナンは、兄の言う事も、ロズワグンに言われた事も最もだと言う自覚はあった。

 自覚はあれども、認めがたい。

 故にロズワグンを誉める事も出来なければ、思い切って力づくで叩き潰す事も出来ずにいるのだ。


 言葉を詰まらせてしまった弟にマイワスは更に付け加えた。


「もう姫達は出立するのだ。水に流せ。――黒髪の二人は残って貰いたかったが致し方あるまい。何せ、聖騎士を殺す術を探す旅だからな」


 そう弟に告げると、マイワスは小さく笑い書類に視線を落とす。

 戦場で見た黒い髪の剣士、征四郎の活躍はハーナンから見ても見事な物であった。

 剣の腕、少数ながら陣頭に立って兵の指揮もこなすのだ、中々に得難い素質である。

 そして、今一人。

 戦場に立たず、メイドと共に王城に残っていた黒い髪の商人、ロウは如何やらマイワスの仕事の手伝いをしていたようだ。

 基本的に軍隊の食料は現地調たちが基本ではあるが、国土を護る防衛戦においてはそれは不味い。

 故に戦場まで補給物資を運び入れるのがマイワスの仕事の一つであったが、その方面で彼は非常に有用であったのだと言う。


 残念ながら、彼等は旅立つがマイワスはその目的だけは聞いていた。

 聖騎士殺しの術を探す。

 その目的は、クラッサ王国と相対する以上は是非とも知らねばならない情報である。

 ならば、援助を与えてその情報を共有できることが一番望ましい。

 ハーナンも、聖騎士の恐怖は間近で感じた一人。

 その目的が知れれば、それ以上に怒りを露にする事は無くなった。

 今回の戦とて、聖騎士団が来ていたら、負けていただろう事は理解できているのだ。



 ホレスを離れて、スルスリ川を南下する船に乗り込んだ征四郎一行。

 ホレスの争乱を切り抜けた一行がジーカに辿り着くのに、四日も掛からないだろう。

 果たして廃都ジーカで待つ物とは何か、聖騎士を殺す術は見つかるのか。

 離れ行くホレスの地を眺めながら、征四郎は自身が何故この地に呼ばれたのかを考えていた。


 一方のロズワグンもスルスリ川の水面を見据えながら考えていた。

 戦いに勝ったあの時の高揚感と、征四郎に告げられた重々しい言葉を。

 あの日、勝利に喜びロズワグンを称える面々の前に姿を現した征四郎は、ロズワグンに告げたのだ。

 

「周囲を確りと見ろ、地に伏す骸の一つ一つが君の作り出した物である。その自覚こそが兵を指揮する者には必要だ」


 真っすぐに向けられる赤土色の瞳には、怒りこそ無かったが厳しさがあった。

 ロズワグンは頷きを返えすと、漸く征四郎は口角を吊り上げて笑い、おめでとうと口にした。

 自覚。

 何故己は兵を指揮したかったのか。

 何故、戦場の狂騒の最中、あそこまで落ち着いて……いや、郷愁にも似た思いを抱いたのか。


 不意に水面に映る自分の顔が何処か腑抜けている事に気付いたロズワグンは、両手で頬を叩き、気合を入れた。

 自分の想いもしっかりと見定める必要があると、決意を新たにしたロズワグンは顔を上げ、狐耳をピコピコと動かして征四郎を探した。

 そして、ホレスを眺めているその背を見つければ、傍に寄り告げた。


「余は未熟ゆえに、多くの事を学ばねばならん。セイシロウ、色々と教授してくれんか?」


 征四郎からすれば唐突な申し出に、驚いたように振り向いたが。

 直ぐに笑みを浮かべて頷きを返すのであった。


【第三十二話に続く】

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