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肩こりが酷い

作者: りるこ

初投稿です。

ジャンルがよくわからなかったので間違っていたらすみません。

肩こりが酷い。それはもう、ガッチガチにこっている。肩っていうか首も痛い。頭がまるで重石のようだ。

今日も残業で終電を逃した。

べつに会社がブラックってわけじゃない。俺の仕事が遅いのだ。その証拠にオフィスに残っているのは自分だけ。パソコンの稼働音が虚しく響いている。‬

入社3年目、同僚たちの視線は冷たい。新人たちからも腫れ物扱いをされて、それでもこの椅子にしがみついている。クビになったらどこも行くところがないし、求職活動はもうしたくない。みじめだし仕事は終わらないし頭は重いし……。

はあ、ストレッチでもしてせめて肩を軽くしたい。‬

ブラウザを呼び出して検索する。肩こり解消、オフィスでできるっと、おっ、出てくるじゃないか。ああ、ツボかあ、いいな。親切な図解にならっておしてみる。おおう、確かにこれは効きそうだ! 仕事をそっちのけに夢中になって手当たりしだいに試していく。深夜テンションってやつかもしれない。‬

まあこのページに載ってるのを試し尽くしたら仕事に戻ればいいだろう。……なになに? 次は禁忌のツボ? 「おすとすごく気持ちがいいです。人前でおさないでください。強くおさないように注意!」と。こりゃあ期待が高まりますな。頭と首のつなぎめあたり、頭を手のひらで覆うようにして親指で……ふむ、ここかな。‬

そのツボを軽くおしたとたん、突き抜けるような強い刺激が走った。

「おほォ…ッ!!」

誰もいないオフィスに間抜けな声が響きわたる。き、きもちいい!なんだ、今のは。もう一度、慎重に圧してみる。

「アアッ!」

声を出さないようにしていたのにこのザマだ。やばい。やめられない。自分の体にこんなツボがあったとは。‬たしかにこれは人前ではできないな。強くおすなって書いてあったよな。でも強くおしたらもっと気持ちいいんじゃないか? なんたって禁忌のツボだもんな。今なら人もいないし……ドギマギしながら手を添える。思いっきりおしたら肩こりなんて一発でフッ飛びそうじゃないか……!? そう考えると誘惑に勝てない。一度くらい、一度くらいいいだろう…‬…


声を漏らさないよう、歯をくいしばって、思い切り、おす。‬


思っていた気持ち良さはない。ただカチッと音がして突然視界がぐりんと動いた。

なんだ? なにがおきたんだ? なんだか視界がグラグラする。とりあえず落ち着こうと深呼吸して、俺は机に頭を置いた。え? なんで頭が取れてんだ? えっ?‬

慌ててた様子で手を動かす自分の体が見える。首から上がない。机の上から自分の体を見ている。えっなんだよこの状況。肩はめちゃくちゃ軽くなったけど取れちゃ駄目だろう、頭は。えっ、まじで? 俺の体、動いてるし、頭とれてんのに。ちょっといやかなり気持ち悪いぞ。

いや夢か? これ。‬ああそうか、いつのまにか寝てたんだな。夢の中なら慌てることねえや。

頭もくっつくかな?意外にすんなりと自分の手が伸びてきて、危なげなく頭を持ち上げる。首の上に乗せて、ぐっと押し込むとカチリと音がした。見慣れた視界。ああ、よかった、なおった。しかも肩こりもすっかりなくなっている。頭が妙にスッキリして爽快だ。‬

安堵したら急に仕事のことを思い出した。

夢のなかでも仕事はあるのだろうか。見ていたサイトを閉じればさっきまでと同じ、停滞していた書類が表示される。あれ?でもなんかすごくわかりやすい。なんであんなに苦労してたんだろってくらいすんなり頭に入ってくる。いや、でも夢だからか? これが明晰夢ってやつかもしれない。

するする仕事が進むのが楽しくて、目を覚ますのも忘れて打ち込んでしまう。あんなに何時間もかかっていたのが嘘みたいだ。夢の中の俺、優秀だな!?あっという間に残していた仕事が終わる。やばい、楽しい。内容を忘れないうちに目を覚ましたい。どうすりゃいいんだ?‬

頰をつねったり頭を机に打ち付けてみたりしたが痛いだけで目が覚めない。いやまてよ、夢のなかで寝たら目が覚めるかも。実際すごく眠たいし。俺は椅子に座りなおすと机に突っ伏した。意識が落ちるのに時間はかからなかった。‬


「おい、起きろよ」

誰かに肩を揺すられている。

「昨日と同じ服じゃないか。帰らなかったのか。仕事は……なんだ、できてるじゃないか」

ハッと起きると朝のオフィス、パリッとした格好の先輩が俺のパソコンを確認している。やばい、昨日あのまま仕事せずに寝ちまったのか!

え、今先輩なんて?‬

慌てて自分でも確認する。終わってる!どういうことだ? 夢の中でしか仕事してないぞ。混乱しながら先輩を見つめると「顔洗ってこい、寝癖ついてるぞ……しっかりしろよ」と顔をしかめられた。一体どうなってるんだ?‬ 頭を捻りながら洗面所に向かったが、顔を洗ってサッパリしたらなんだかどうでもよくなった。仕事は終わってたんだしとりあえずいいだろう。始業までに少しでも身なりを整えねば。俺はそのまま最寄りのコンビニへと向かった。‬


なんだかおかしい。仕事が捗る。同僚たちも驚いた様子でチラチラみてくる。

「終わりました、チェックお願いします」

上司に声をかければ「適当やってるんじゃないだろうな……」とぶつくさ言いながら受理される。しばらくの沈黙のあと「なんだ、やればできるんじゃないか……」と困惑された。‬「今まで手を抜いていたのか?」と胡乱な目を向けられたがそんなわけはない。「俺だって好きこのんでサビ残なんかしませんよ。なんか、急に頭がスッキリしちゃって」とへらへらする。上司は「頭でも打ったのか?まあちゃんとやってくれるならなんでもいいか」と次の仕事を渡してきた。‬やばい、嬉しい。仕事がこんなに捗るなんて初めてだ。

しかし足取り軽くデスクに戻って「はて」と首をかしげる。べつに頭を打ってはいない。たぶん、あれだよな。頭が取れたやつ。夢じゃなかったのか。実は頭って取れるもんだったのか? そっと首をなでる。取れた痕跡なんてなく、ちゃんとくっついている。‬


その日初めて定時で帰った俺は、久しぶりに自室でニュースを眺めながら首元を探っていた。昨日のツボ。またおしてみるべきか。頭がほんとうに取れるのか確かめる必要がある。もし取れるようなら……どうしたらいいのだろう。帰りの電車で検索したが、やはり頭がとれるなんて話はヒットしなかった。人間にはない機能らしい。

ともあれ慎重に頭を手のひらでしっかりとおさえ、昨日のツボを強く押し込む。カチリと音がして、視界が浮いた。やはりとれる。こうなってくると気になるのは断面。グロテスクなものを警戒して薄目になりながらゆっくり頭を傾けていく。

結論から言えば機械のようだった。なんだかよくわからない、メカメカしい断面。俺は…ロボだったのか?現実感のなさに目眩を感じてそっと首を元に戻した。カチリと機械っぽい音がする。俺は、人間じゃない?あまりのことに愕然とする。もしかしたらこれずっと夢をみてるんじゃあないか?‬


のろのろとスマホを取り出し、電話帳から親を呼び出す。あの人たちなら知ってるはずだ、真実ってやつを……。呼び出し音のあとに久しぶりに聞く母の声。

「もしもし、珍しいわね。電話なんて」

「母さん、俺、首が取れたんだけど」

「あら、まあ。ついにばれちゃったの」

「俺、人間じゃないの?」‬

固唾を飲んで答えを待つ。


「じつは人間なんてもう絶滅しちゃってるのよ」

明かされたのは衝撃の事実だった。俺たちは絶滅した人間の生活を模倣しているロボだったのだ。

「いっそ人間って思い込ませて育てたら面白いかと思って。でもそのせいであなたずっとメンテナンスできなかったのよ、ふふ」

そんな世間話みたいなのりで笑われても困る。

ちなみに頭はみんな取れるらしい。‬

なんのことはない。俺が今まで処理速度遅かったのはメンテナンスをしていないせいだったのだ。みんな週に一度は頭を外すらしい。そして人間らしくないその行為の話題は禁忌なのだと。母によればより人間らしい振る舞いをすることがロボの使命ということらしいが、息子に対する教育としてあまりにも酷い。‬

子供で実験めいたことをするなよと思わずなじったら母は嬉しそうに言った。


人間らしくてすてきでしょう?と。‬


俺は人間じゃなくてよかったのかもしれない。‬

お付き合いいただきありがとうございました。

最初考えていたものだとロボでなくデュラハンだったのですが話が長くなりそうで、途中でおもいきり舵を切りました。ちょっとまとめかたが強引だったかも。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝見いたしました。 発想が斬新で、とても楽しく読ませていただきました。書き方も、あの書き方でしか出し得ない独特の味があって良かったです。
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