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見えない友達  作者: 守一
6/10

「狂気」

 


 ゆきのちゃんは片手に携帯電話を持ってに立っていた。

 ただ、僕を見ようともしない。

 大きな音を立てながら勢いよく出て来たので、明らかに気づいているはずだ。


「ゆきのちゃん?」


 もう一度呼びかけるも返事はない。

 その代わりゆきのちゃんの肩が小刻みに震え、小さく嗚咽する声がもれてきた。


 ここまで追い詰めてしまったのか……。

 もっと彼女を信じてあげるべきだった。


 ゆきのちゃんがゆっくり顔を上げた。

 笑ってる……?


「ゆきのって誰よ!」

「え……」


 訳のわからない事を叫ぶゆきのちゃん。

 その顔は明らかに常軌を逸している。

 化粧をしてないせいか、まるで別人のようだ。

 いや、声を聞かなかったら別人だと思ってしまうだろう。


「やっぱりあの日に気づいたのね」

「な、何言ってんだよ、ゆきのちゃん…」


 もう声も別人のようで、聞いかことのない低いザラついた声になっている。

 様変わりしたゆきのちゃんは、ゆっくり門を開けて入って来た。


「あんた、まさかまた焼く気?」

「焼く……」


 ゆきのちゃんの視線が、僕の手にあるぬいぐるみとライターへ向いている。


『また』って、まさか………。


 僕が左手のぬいぐるみに目を落とした瞬間、その視界にギラリと光るものが通り過ぎた。

 次の瞬間には焼けるような痛みが左手を襲い、持っていたぬいぐるみが赤く染まった。

 親指の付け根がパックリと裂け、ダラダラと血が流れている。


「あんたはそうやって思わせぶりな態度をした挙句卑劣に人の心を踏みにじるのよ!」


 視界が揺れ、ボタボタボタボタボタと音がした。

 地面に血溜まりが出来ている。

 右目が見えない。

 何がどうなっているのかわからないが、この血が自分のものなのだと言う事はわかる。


「ゆ、ゆきのちゃん?」

「だから誰がゆきのよ! 私はサキよ!」


 ゆきのちゃんの振り上げた手がギラリと光る。包丁だ。


 包丁に気づいて咄嗟に身を引くも、ガッと鈍い音とともに逆の方向に視界が揺れる。

 生暖かいものが顔を覆っていき、それが左目に流れ込み完全に視界が効かなくなった。

 立っているのかどうかもわからない。


「ゆきのゆきのって煩いわね!」

『レイちゃん!』


 サキちゃんの叫び声と同時に背中を誰かに突き飛ばされる。

 耳元ではシュッと風を切る音、そして右肩に強い衝撃が走り、ザザザと体が地面を擦る音。

 もう音が聞こえるだけで痛みは感じない。

 ただただ頭が朦朧としてぼんやりしている。


 ガツ、ガツ、コンコン、ガツ、コンコン……


 鈍い音と金属音、硬い物が転がる音が聞こえる。

 幻聴だろうか。

 なんだか寒くなってきた……。


「な、なにするのよ! あんた、また私を傷つける気!」

『いいぞタケゾー! そのまま追い出してしまえ!』

『タケにぃ、にわのいしもってきたー』

『おう、ありがとなショウタロウ!』


 ミノルじいさんにタケゾー、ショウタロウの声。

 どうやら彼女に石でもぶつけているのだろう。

 みんなで僕を助けてくれている。

 とにかく四人の声が聞けて良かった。


 四人……。


「そこの女! 警察だ、今すぐ凶器を捨てなさい!」

「そこにいたのね! もう逃さないわ!」

「や、やめろっ、公務執行妨害罪も……」


 周りの音が一気にボリュームを絞ったように小さくなり、そして無音になった。


 僕の意識はそこで途切れた。



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