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見えない友達  作者: 守一
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「生霊」

 


「サキちゃん?」


 何度目かの呼びかけに彼女はやっと顔を上げた。

 悲しげなそして労し気な目を僕に向けてくる。


『レイちゃん』

「うん」


 彼女の目が僕の後方を見据えている。

 ふと見ると他のみんなも同じところを見ている。

 僕は振り向いてみんなが見ている壁を見るも、壁掛け時計が時を刻んでいるだけで、何ら変わったところはない。


『レイちゃんは見える人なんだけど……。

 レイちゃんにも見えないものがあるの』

「ど、どう言う事?」


 僕は助けを求めるように隣のキヨシおじさんを見るも、キヨシおじさんはサキちゃんの話を聞けとばかりに顎を振るだけだ。


『そこに生霊がいるの。しかも凄く強い生霊よ』

「い、生霊……」


 もう一度改めて壁を見るも、やはり僕には何も見えない。

 ただ、みんなが頷いているところを見る限り、サキちゃんが言っている事は本当なのだろう。


『今は私たちの存在があの生霊を抑えているけど、最近ではそれが難しくなって来てるの』

「え? 抑えてるって……。

 だからみんなで僕の部屋に集まってたの?」

『そうよ。ここ半年ほどは、その為にみんなで協力して抑えてたの』


 僕に小言を言う為に集まっているのかと思ってたけど、まさかそんな事になってたとは……。


『どうして私たちがあの女性を好ましく思っていないか、これでわかってくれた?』


 え? それとこれとは別でしょうよ?

 まさか生霊の正体がゆきのちゃんだって事じゃないよな?

 なんでそうなるのよ?


「も、もしかして、その生霊がゆきのちゃんのだとでも言うのか!?」


 少し語尾が荒くなってしまった。


『そうよ。今まで確証は無かったけど、きっと彼女に違いないわ』

「…………」


 なんでまた彼女なんだ。

 何処に証拠があるんだよ。


『この生霊はずっと前からいたの』

「どう言う事なんだよサキちゃん。何言ってるか全然わかんないよ…」


 ずっと前からって、今まで一度もそんな事言ってなかったじゃないか……。


『レイちゃんが高校生の頃からずっと』

「高校?」

『そうよ。その時は今ほど強くなかったし、放っておいても何も問題なかったの。

 それに、あのくらいの生霊だったら他にもいたしね?』


 話が見えない。

 何が言いたいのだろう。


『レイちゃん、高校生の時に女の子に付きまとわれていた時期があったでしょ?』


 あった。

 確かにあった。

 あの気持ち悪さ、無理矢理忘れようとしてたけど、そう忘れられるものではない。

 手紙やぬいぐるみなんかの贈り物。

 普通だったら、そのくらいで気持ち悪いなんかは思わないけど、内容が普通ではなかった。


 手紙には僕が何処で何をしてたか時系列に沿って書いてあり、その時に隠し撮りした写真なども貼ってあった。

 ぬいぐるみも、その子のだと思われる髪の毛が中に入っていた。

 当時は毎日をビクビク怯えながら暮らしていたものだ。

 結局、もうこれ以上僕に関わらないでくれとの思いで、家の前で手紙やぬいぐるみを焼き捨ててから、そのストーカーとも呼べる行為が止まったのだった。

 正直、あの時の僕はノイローゼ気味になっていたんだと思う。

 今考えると、かなり過激なメッセージを送ったものだと、逆に背筋が冷たくなる。


 多分あの子だろう、そう目星をつけていた子がいたものの、その子が何処の誰なのかは最後までわからなかった。

 いや、わかりたくなかったのかも知れない。


 思えばあの時のストーカー騒動で女性との接し方がわからなくなった。

 女の子に告白されても恐怖でしかなかった。

 やっと克服出来たと思っていたのに……。


「もしかして、あの時のストーカーがゆきのちゃんだって言うのか?」


 サキちゃんはゆっくり頷いた。

 他のみんなも同じように頷いている。


「で、でもあの時ははっきりさせなかったけど、犯人だと目星をつけてた子は、ゆきのちゃんとは似ても似つかない顔だった。

 それでもゆきのちゃんだって言うのか?」


 当時見た子の顔は今でもはっきり覚えている。

 特にブサイクとかではなく普通の子。

 逆に笑ったりしたら、可愛らしいんじゃないかと思うくらいの子だ。

 ストーカーされているとわかってからは、注意深く周りを見るようになり、同じ女の子が遠くにいるのを良く見かけていたのだ。

 でも、ゆきのちゃんとは全く違う。

 あれから15年ほどの歳月が流れているとは言え、はっきりと言える。


『でも、彼女とお付き合いするようになってから、この生霊が強さを増していったの。

 これはここにいるみんなが感じた事よ』


 それだけ?

 それだけでゆきのちゃんの生霊だと決めつけてるの?


「そんなの偶々かも知れないじゃないか?

 そもそもその生霊は、僕に何らかの危害でも加えようとしてるのか?」

『してるぞ、玲士』

「…………」


 ミノルじいさんが厳しい目を向けて来た。

 ミノルじいさんは、こんな時に嘘を言うような人ではない。

 いつもみんなでふざけていても、決まって正論を言うのが常で、年の功とも言うべきか一番威厳がある人だ。


「ど、どんな……」


 聞かずにいられない。

 ミノルじいさんが言い切るのだ、確実に危害を加えられるのだろう。


 ただ、みんな一様に口を開こうとしない。


「もしかして命に関わるって事……か?」

『玲士くん、そうならない為にあの子と別れて欲しいのよ?

 お願いだから、おばちゃん達を信じてそうしてよ?』


 今までになく真剣な表情のアキおばさん。

 みんなにこんな顔されると流石に……。


 でも。


 なんで……。


 なんでゆきのちゃんなんだよ……。


「考えさせてくれ……」


 精一杯の言葉だった。

 それ以上でも以下でもない。

 純粋にその言葉しかなかった。


 いきなり過ぎて整理がつかない。


 それに、やはり僕の中ではあのストーカーとゆきのちゃんが繋がらない。

 だからと言って、こんな真剣なみんなの言葉を無下にできない。



 この優柔不断が後に恐ろしい事件を引き起こすのだが、この時の僕はそんな事など全く知る由もないかった。



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