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エイリアン映画1

エイリアン映画

1.

死ぬ前には映画が見たい!

昔からそう思っていたし、今だってそう思っている。だが、いざとなると、どれを見てから死ぬか迷ってしまうのだ。もう時間はそこまで残っていないとしても。

事の発端は数週間前のことだった。その日はいつも通り朝10時には起き、大学へ向かう準備をして家を出た時、ふと違和感を覚えた。が、僕は気にせず、そのまま歩いて20分の自分の通う大学へと向かった。大学へ向かっている途中も違和感は徐々に加速していって、すぐにその原因に気がついた。それは道中で見かける人が明らかに少な過ぎるのだ。大学に着いても誰もおらず、正門も閉まったままで、今日は休講だったかと思うほどだった。

僕は閉まった正門前でウロウロと考え事をして、悩んだ挙げ句、今日は休講だったんだなと勝手に結論付けて、今月公開したばかりの映画を見に行こうと思い立っていた。もう大学なんて知るか、実験とか論文とかはまぁ……大丈夫なはずだ、と葛藤しながらも踵を返して、街から離れた所にポツンと建っている古い映画館へと暇を潰しに向かうことにした。

映画館に向かっている途中で僕はようやく自分以外の街の住人に会った。ボロボロの格好の初老くらいの向こうは、とても驚いた顔をで僕に近づき、

「おまっ、お前、こんな所で何してんだッ!?」

と半分怒鳴られ気味で言われ、驚いた僕は思わずその場から走り去った。なんだよ、他の人いたのかよ。ってか、なんでいきなり怒鳴られなきゃいけないんだよ?何にも悪いことしてないだろ?週末?今日は月曜だろ?と半ばパニックのまま、走って走って、目的地の古びた映画館に着く頃には肩で息をしていた。

まさか、大学の知り合いでサボったのがバレた?とも思ったが、ともあれ、僕の映画を見るという意思は固く、今更引き返したりしないと深く心に決めてから、僕は映画館の反応しなくなった自動ドアを手動で開けた。

この古びた映画館は僕が生まれて間も無い頃からボロボロだったが、未だに取り壊されず残っており、スタッフも誰も居ないまま、数年間も放置されてあった。映画館自体はボロボロだが、上映室に設置されているパソコンへと未だに自動で最新の映画が送られてくる。この送られてきた映画をプロジェクターに送ることで、プロジェクターからスクリーンへと映像が映し出され、上映室真下の観客席にて見ることができるようになっている。まさに自分専用の映画館だった。

「今月公開は……っと。『Future』か……どんな映画だろう?」

僕は映画を選択し、プロジェクターがきちんと動いているのを確認してから、下の客席に向かった。

前過ぎず、かといって後ろ過ぎない、ど真ん中の特等席に僕は腰掛けた。両手にはポップコーンと飲み物を忘れない。

映画はおよそ2時間で終わった。内容はSFアクションといった感じで、発達し過ぎたAIが人類と争うといったストーリーが進行していき、人類もAIに対抗すべく身体を機械化するのが一般的になった社会が舞台となっていた。

序盤で人類とAIの対決が激化し、AIが圧倒していたのだが、機械化を手に入れた人類側の逆転勝利によって争いが終わる。だが話はここからで、純粋な人類は争いの中で絶滅してしまい、長きに渡る戦いの中で、感情や人間性といった戦闘に不必要だと取り除いて、失ってしまった色々なことに気付かされていくといった内容だった。

最終的に、機械人形になった人類達は悲しさを取り戻し、涙に似た液体を瞳から流すといったラストシーンで映画は幕を閉じた。

しばらくは映画が終わった感傷に浸って、流れるエンドロールを見つめながら、その場から離れられなかった。少し時間を置いて、実に良い映画だったなと心に区切りを付けて、僕は次の映画をセットしに上映室へと向かおうと座席から立ち上がり、振り返って初めて、自分の座席の後ろに他の人がいる事に気付いた。そこには高校生くらいの女の子が座っており、口を開けたまま眠っていた。

ハテナで頭を埋め尽くされ、一瞬頭が働かなかったが、どうやら僕が映画に夢中になっている間にこの映画館に来たらしい。眠っている彼女は色白の肌に整った顔立ちをしており、長い睫毛が魅力的で、可愛らしいなと思ったが、それ以上に僕は彼女に対してある感情を抱いていた。好意ではない。寧ろ怒りに近かった。

「何で……この映画で寝られるんだ……?」

正直、今回みた『Future』は今まで見てきた映画の中でもトップクラスに面白かった。『全米が泣いた』というキャッチコピーほど信用ができないものは無いと思っていたが、なるほど、これなら納得できると思ったほどの作品だった。

なのに、だというのに、彼女は眠っていたのだ。僕なら余程疲れていたとしても、夢中になって見てしまうだろうと思ったほどだった。現に後ろに回ってきた彼女に気付かないくらい僕は映画に熱中していたのだから。

僕が上映室にも行かず、その場に立ち尽くしていると、彼女の瞼がピクッと震え、ゆっくりと開かれていった。 僕の姿を一瞥し、彼女は一度ふわぁと大きなあくびをしながら、腕を挙げて背伸びした。

「えっとさ……」

とりあえず何か話すべきだろうと言葉が出かけた所で、彼女は自身の足元に置いてあった小さな手提げ鞄からノートを取り出して、せっせと何かを書き出した。しばらく待っていると彼女はそこに書いたことをこちらにかざした。

そこには「さっきの映画つまらなかった」とバッサリ書かれていた。

うっ、と腹にパンチを食らったかのような声が出たが、それでも僕は何とか言い返した。

「……じゃ、じゃあ君が面白いと思う映画は?」

彼女は少し考える素振りを見せながら、意気揚々とノート1ページを使って大きくそのタイトルを書いた。

「ミスト」と。

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