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オルフェウス号の伝説  作者: 梶 一誠
12/22

ジーナ・ラディッシュ中尉とオルフェウス号の子供たち


 「今、何時だ?」アレクサンデルが隣の席に座っているヤンに訊ねた。

「たぶん、もう昼過ぎだろう……いや、夕方に近いかな……」

「何で……こうなる?」

「オレに聞くな!オレク。みんなあのわからず屋の女中尉が騒ぎ立てたからだろうに」こう言うとヤンは無造作に上半身を机の上に投げ出すようにして突っ伏した。

 二人は今、手錠を掛けられた上に腰紐で粗雑な造りのパイプ式チェアに結わえ付けられた拘禁状態になっていた。ポーランド海軍の士官である、アレクサンデル・コヴァルスキ少佐とヤン・レヴァンドフスキ大尉は、二人してこの狭い西側に窓が一つしかない殺風景な一室に朝から閉じ込められて、長机一つに小学生みたいに仲良く並ばされた格好で、取調べを受けていた。これまた粗雑な造りの机の上には電気スタンド。そして吸殻で山盛りになった灰皿もある。これに日本風にカツ丼が加われば、まさに”取調室”のステロタイプの完成である。

「さっき話した男の司令官か?中佐だったかな。あっちは物分りが良さそうだから、オレ達にかかった嫌疑は晴れそうだが」と、言ったのはアレクサンデル。

「そうでなきゃ困る!見りゃわかるだろう!どう見たってれっきとした海軍軍人だろうがよ。うん?海賊じゃないし、ましてや人攫(ひとさら)いの悪党じゃねえんだぞぉ!」今度は勢いよく身を起こして半分涙目になったヤンがアレクサンデルに詰め寄った。

「オレに言うなあ!……まあ確かにヒゲ面ばかりの人相の悪い連中がいきなり領海内に乗り込んできたんだからなあ……それと」ここまで言って首と肩ををがくっと落とすと副長は

「とにかく誤解を解かにゃぁならん。しかしマリアの……あの状態は……まずかったよなぁ」と、リノリウム製でライトグレー色の床面に目をおとしてボソリと言った。これにはヤンも

「……確かに」と認めざるを得ずその大柄で丸っこい身体をパイプチェアの背もたれに預けた。半分錆びたチェアが彼の体重に耐えかねて悲鳴を上げるみたいに”ギィギイ”させる音と容赦なく差し込んでくる如何ともしがたい疲労感を誘う西日だけが室内を占領していた。

 彼ら二人が不当ともいえる扱いを受けることとなった経緯(いきさつ)を説明せねばなるまい。

 9月18日、すっかり日の昇った8時過ぎの頃にエストニアの首都タリンを肉眼で確認できる所まで辿りついたオルフェウス号は、その湾外で出動してきた同海軍の駆逐艦からの”何者であるか”との無線連絡を受けて、自分たちがポーランド海軍の正規潜水艦である事を告げて更にハーグ国際協定に基ずく交戦国の権利を主張。24時間以内の入港、修理と補給の要請を行なったのである。

 この要請は認められて駆逐艦の先導の下、潜水艦は浮上したままで堂々とタリン港内へと入ることに成功した。

 (あらかじ)めオルフェウス号の副長から正式に艦長へと指揮権を移譲されたアレクサンデル・コヴァルスキ少佐の連絡により、艦長であったクナイゼル中佐の下船及び、入院療養の手続きと準備が成されていた。

 オルフェウス号に割り当てられた桟橋へと横付けする時点で、すでにその場には車体に赤十字マークのあるカーキ色の野戦病院仕様のジープと港湾を管理警護を任とする数名の士官及び水兵一個小隊が待機していた。

 潜水艦がエンジン代わりのモーター駆動を止め、(もやい)を行ってから年季の入った手摺(てすり)つきの渡し板が陸地と艦を繋いだ。

 オルフェウス号の艦橋上にあったコヴァルスキ艦長と今度は正式に副長兼先任士官となったヤン・レヴァンドフスキィ大尉の二人は桟橋上で待機中のエストニア海軍士官に対して敬礼で挨拶した。

 洋上にあってはなかなか判らないが、敬礼を返しているエストニア側の人間を見下ろしている自分たちとの落差が10メートル近くあり、水面からけっこう高い位置にいることに気付かされるのだった。

 受け入れる側エストニアの士官の方も二人である。一人はでっぷりと太っていて、たいこ腹が目立つ中年男性で、紺色で統一されている海軍の制服がはち切れんばかり。もう一人は対照的に若くて小柄、一見すると少年のように見える。こちらはカーキ色の制服姿で、肩から斜めに負革が付くサム・ブラウンベルトに略帽(ピロートカ)を被っている。

 敬礼もそこそこにして、担架を携えた衛生兵を伴ってずかずか乗り込んできたのは小柄な士官の方だった。

「ちっ田舎者め!」アレクサンデルが舌打ちした。こいつは礼儀を知らぬという訳である。本来なれば潜水艦側の指揮官が渡し板のこちら側で待ちうけ、乗り込んでくる相手と握手してから艦内へ招き入れるのが仕来(しきた)りというものであろうに。

 アレクサンデルは伝声管を通じて艦長室に一番近い船首側の甲板の水密扉を開けるように指示してから、慌てて艦橋を降りたのだ。

「タリン軍管区衛生管理中隊、防疫担当ジーナ・ラディッシュ中尉であります」水密扉を降りる前、オルフェウス士官の二人が走り寄るのを待ってからこう自己紹介した、若手の士官と二人は初めてここで握手を交わした。その手を取った時にアレクサンデルはその華奢(きゃしゃ)な手の触感と春の好天の中で響き渡る雲雀の囀り(ひばりのさえずり)に似た明るく快活な声に驚いて

「女性の方でしたか」と、思わず言ってしまった。

「わたしはジーナと名乗ったはずですが」彼女はこう返してきた。ニコリともせずに。なるほどこの中尉は金色の髪を短く刈上げて男のようにしていた。化粧もしてはいなかったがよく見てみると卵型の輪郭にやや吊り上がったアジア系に近い(まなこ)。ただし瞳の色はブルーで、端正な顔立ちをした美人である。年の頃はやはり20代前半と見るのが妥当と思われた。広いおでこが印象的で知的な印象を相手にあたえる。

 このジーナ・ラディッシュ嬢が野暮な軍服でなく、明るい春色系のブラウスをまとい、ハイヒールを履きほんの少し化粧をしてタリンの街を歩くだけで、街中の男共が放ってはおかないだろうと、アレクサンデルはそんな感想を抱いてじーっと彼女の顔を見つめてしまっていたのだ。

 そんな彼をよそにラディッシュ中尉は目線をわざとらしく足元の水密扉に下げてから、黙って二人の顔を見た。”早く案内しろ”の意だ。これを察したヤンのほうが先に立ってその階下へと降りていった。

 艦長室の引き戸を開けると、ラディッシュ中尉は二人を押しのけるようにしてから、元艦長クナイゼル中佐のシャツの胸元を開き、制服の胸ポケットから取り出した自前の聴診器を当てた。中佐は意識が昏倒(こんとう)していて中尉にまったく気付いていない様子だった。

 簡単な初診を終えると彼女は軽く「チッ!」と、舌打ちし眉間に皺をよせ

「衛生兵!患者を運び出せ。急ぎ軍病院へ搬送せよ。結核患者用の隔離病棟だぞ」と、てきぱきと指示を飛ばすと屈強な衛生兵二人が慣れた要領でクナイゼル中佐を担架に乗せ船外へと運びだしていく。

 その作業を見守りながらジーナは、この艦の二人の新たな責任者を前に

「よくもまぁ、こんな状態になるまで……」と言いながら二人の顔をわざとらしく非難するようにしてねめつけてくるのだった。

 ジーナは更にオルフェウス号のお世辞にも清潔とはいい難い船内の様子をぐるりと眺めながら 

「空気も良くない!(ひど)い臭いだ。ディーゼルと汗の臭いなのか、これは?動物園の飼育小屋でもここまで臭くはない。話には聞いたことがあるがこれほどの状態とは……な」との感想を、二人にあてこすってくる。

 アレクサンデルとヤンは”そんなのいまさらどうのしようもない”と憮然として黙っていることで彼女に対抗して見せたのだった。

「そちらのクナイゼル中佐殿だが、こちらで身元の確認が取れしだいハーグ協定に基づく保護下に置かれるでしょう。捕虜の扱いは受けないから安心していい。ただ治療そのものは最低でも半年はかかる。お国にはしばらく戻れませ……えっ!?」彼女は自分の視界の片隅に、たった今信じられないものを発見して診察の初見報告を思わず中断させてしまった。そして、その物というか存在に信じられないとばかりに目を凝らした。

 ジーナの視線の先には6歳の女の子で薄汚れた赤いブラウスを着たアンナ・コヴァルチェクが立っていて、こちらを物珍しげに見つめてきている。アンナはジーナと目線が合うとにっこりと微笑んでから

「マリア、モニカーッ、女の兵隊さんだよ!珍しいよ見てごらん」と、ついさっき通り過ぎた艦長室のすぐ後ろ、薄い生地のカーテンで仕切られていて、内部が見えない部署の方に声をかけた。

「アンナ、皆さんのお仕事の邪魔しないの。こっちに来なさい」

 ジーナは確かにカーテンの向こうから、この全くもって不衛生この上ない潜水艦の内部には場違いな、目の前の幼女よりも落ち着いて年かさな感じの女性の声がするのを聞き取り

「ま、まさか…信じられない」と、アンナに駆け寄るとアンナがすっとジーナの手を取ってさも当然であるがごとくに、カーテンを開けて自分とは血の(つな)がっていない姉代わりのマリアと引き合わせた。

 マリアは盲目でもいつもと違う雰囲気の息遣いをする人物の存在を感知して、その場に腰かけたまま

「……どなた?」と、聞いた。

 マリアはつい先刻、解決したばかりのレイプ未遂事件のあとで、未だに目は泣きはらしたままで、コヴァルスキ少佐から借り受けた外套(コート)を羽織っている。やや俯きかげんでその場にいるであろう存在を把握しようとやや不自然に視線を動かしている。

 マリアの隣にはもう一人の少女、メガネっ子のモニカが座っていて彼女も珍客の姿を認めてにっこり微笑んでみせた。

「潜水艦に……子供だと!?どういう事か?」やや怒気を含ませてジーナ・ラディッシュ中尉はアレクサンデルを睨みつける。

「これには事情が……説明を」

 ”さっ”とアレクサンデルの顔の前に手をかざして、ジーナは彼の次の言葉を封じるとその場でしゃがみ込んでアンナと目線を合わせてから、アンナの身体を頭から順に撫でて口を開けさせたりして、その健康状態をチェックし始めた。

「わたしはジーナって言うのよ。お嬢ちゃんお名前は?ちゃんと言える?」この問いに、アンナは元気良く、自分の本名と年齢を自己紹介して、続いてアンナは口の利けないモニカをジーナに紹介してあげた。その後にマリアはややおずおずと自分から名を年上の女性中尉に告げた。

 衛生管理中隊の隊長を務めるジーナには子供たちがこの全く不衛生な状況にあっても健康状態には問題なくて明るい様子に一応は安堵したが、彼女らの着衣の汚れ具合とどうしても鼻につく体臭は拭いきれない。無理もない、ここ二週間以上、この艦の乗組員同様、風呂やシャワーなど浴びる機会なぞあろうはずがない。日々を狭い艦内で過ごし、敵機から駆逐艦から、はたまた敵のUボートからの追跡、攻撃を必死にかわしてきたのだから。

そして、ジーナは只一人マリアの物怖(ものお)じしている様子が気にかかり今度はマリアに近寄り、彼女の隣に腰をおろすと

「衛生管理中隊のジーナ・ラディッシュ中尉です。マリアちゃん、いやマリアさんの方がいいね。ちょっといいかしら。大丈夫よ。同じ女性です。正式な軍医ではありませんが……」

 優しく言葉をかけながらジーナはマリアの外套の前をゆっくりと開かせた。その中の状態を一度見たジーナは全てを察したのか、マリアをぐいっと自分の胸に抱き寄せて

「怖かったね……。安心してもう(むご)い事は二度とさせないからね」と、言うや否やすっくと立ち上がり傍らに状況説明をしようとしていたアレクサンデルに向って

「どこの港あるいは貨客船から、この娘たちを(さら)って来たぁ!海賊どもがぁ」

「いやっだから、そうじゃない!説明させて……」ジーナはまった聞く耳を持たずに、目の前のポーランド海軍軍人たちを海賊と決めつけて制服の胸ポケットからホイッスルを取り出すと間髪いれずに船内中はもとより、船外までタリンの港隅々に届くらいけたたましい音を鳴らした。

「衛兵!この上級士官二名を拘束せよ。身柄を確保ぉ急げぇ!」次に、ジーナは迷わず自分のホルスターからトカレフ自動拳銃を抜くとアレクサンデルの顔面に狙いを定めた。

 いきなり銃を突きつけられたアレクサンデルは反射的に手を上げたが、衛生管理隊、いわば通常なら医師と看護士中心の部隊にしてはずい分慣れた手付きで、この狭い艦内にあって無駄な動きと迷うことなく拳銃を構えることのできるジーナ・ラディッシュ中尉に彼は少し違和感を覚えた。

 外の甲板上に待機していた、警護の兵隊がなだれ込んできてあっという間に新艦長と先任士官を後ろ手に押さえつけた。

「未成年者略取、及び婦女暴行、誘拐の容疑で逮捕する」トカレフをホルスターに戻すジーナに

「だから話を聞けぇ!このわからず屋め。事件を起こしたのはオレ達じゃないんだ!別にいるんだってぇ」こう食って掛かったのはヤンのほうだった。

「話なら海軍基地本部で聞いてやる。たっぷり締め上げてやるからな!女の子たちにひどい事をしやがって!本来なら即決裁判で縛り首もあり得るんだぞ海賊め!」表情を険しくさせて二人を思いっきり嫌悪感たっぷりの目付きで睨むジーナはそのままぐるりと士官室を取り囲んで、不安げに様子を(うかが)っている他の乗組員たちにも向って

「貴様らも艦を降りるのを差し控えていただく。不服従の場合、また脱走の場合は容赦なく拘禁するからそのつもりで。……あと、子供たちは私が預かる!着替えと……そして先ずは風呂だ!こんな不潔なところに置いておけるか!」

 ”風呂”この言葉にマリアとモニカはぱっと表情が明るくなったがアンナだけは新参の女中尉を睨みつけて、アレクサンデルの手にすがりついて

「父ちゃんを返しなさぁい!」と、抗議したが、これはかえって逆効果になってしまったようで

「と…父ちゃんだぁ!このコヴァルスキ少佐のことか?どういう関係だ?貴様らはよくよく絞り上げんといかんようだ!連れて行け」と、命令を衛兵に告げたあとは態度を一変させて子供たち、マリアとモニカを旧知の友人のように両脇に抱え込んで

「さあ、お姉さんと基地の厚生棟でお風呂に入ったあとは暖かい食事を採ろうね!アンナちゃんにもケーキを頼んであげようか」と、にこやかに言うと、アンナはさっきまでの態度をコロッと変えて

「食べるぅーっ」3人のあとにくっついて昇降梯子を上っていったのだった。

 この時アンナの脳裏には大好きな”父ちゃん”ことアレクサンデルのことなぞ小指の先ほどにも残ってはいなかったのだ。

 *                *               *

 タリン港の西の水平線に太陽が半分隠れて、辺りをオレンジ色に染め上げるような刻限になってから、二人はやっと解放されて、今は薄暗がりの中自分たちの潜水艦への帰り道である。ほぼ一日中拘禁されて体中がガチガチに強張っている彼らは腕をさすったり、腰を伸ばしたりしてとぼとぼ歩いていた。

 解放された主な原因は、子供たちの特に年長のマリアの証言が功を奏した。彼女はジーナ・ラディッシュ中尉に自分たちが潜水艦に回収された経緯(いきさつ)から、艦内における自分たちの日々の生活と処遇に関して暴行や陵辱(りょうじょく)といった不当な扱いは受けていなかったことを強く言及したことが大きかったようだ。

 アレクサンデルとヤンの両脇には二人の少年がお供にくっついて歩いている。レオンとフィリプであった。

「ずい分身奇麗になったじゃないか!その服、どうした?」と、ヤンが訊ねたのはレオンの方だ。フィリプはいつもながらのマイペース。前だけを見て歩を進めている。

「マリア姉のせいだ……」レオンはやや俯き加減にぶつぶつ言いながら不服気に言う。彼ら少年二人はアルメから潜水艦に乗り込んだ時から”着たきりスズメ”の薄汚れた着衣から一新されて、上のジャケットからシャツ、七分丈のズボンに何と子供向けの紐靴までが真新しい。そして彼ら二人からは微かな石鹸の匂いがする。

 レオンとフィリプも女の子たちがタリンの海軍基地に入ってからすぐに、これもマリアからの要請でエストニアの水兵に引っ張られてオルフェウスを離れたのはお昼前の時間帯であった。

 ヤンは無言でレオンのトレードマークになっている鳥打帽をさっと取り上げるとそこには今朝まで耳を覆い隠すまで伸びきってフケだらけの頭髪がさっぱり刈り取られて、いわゆる”五分刈り”頭が登場したのだ。

「やめてくれーっ!オ、オレのセンスを、美意識をーっあのマリア姉は『この子もさっぱりやっちゃて下さい』って、基地に出入りしている床屋のオヤジに言いやがったんだぁ」レオンはそう言うとひったくる様にしてヤンから帽子を奪うと深々と被り直してそっぽを向いている。

「今のほうがいいじゃないか。さっぱりしていて」アレクサンデルが言ってもレオンは納得せず、首を振るばかりで

「おれの頭はでこぼこしてるからカッコ悪いんだよぉ……。それをあの(あね)さんはよぉ!」と、ぶつくさ言うばかり。

「……あのねぇこの服、みーんなジーナさんの弟さんのお下がりなんだ……。『いろいろ実家に残してあってよかった。あいつのガキの時分のやつだから遠慮なく着てちょうだい』って貰ったンだぁ」こういったのはフィリプのほう。彼も今では大分乗組員たちとは打ち解けて、会話するくらいになっていた。風変わりで普通の子より多少時間はかかるが、じっくりやればコミュニケーションだって充分取れる少年なのである。

 二人の士官はそのジーナ・ラディッシュ中尉の上官、桟橋にいた太った中佐から解放される際にいろいろ聞かされていた。先ずはこういった誤解から拘禁騒ぎになったことには「まぁよくあることだよ」と、軽く片付けられた。

 元艦長アレクセイ・クナイゼル中佐は無事にタリン市内にある立派な大病院に収容が完了したこと。事件を起こしたセルゲイ水兵はここの官憲に身柄を拘束され刑務所に移送されたこと。そして肝心のオルフェウス号は朝の停泊場所から修理のために移動させられて、港湾の一番奥にある屋根つきのドックに収容されていることを告げられていた。

 その最後に二人の少年と艦に戻ることを許可されたのだった。

 艦長と副長のコンビは未だ不服であった。レオンとフィリプを連れてきたのがラディッシュ中尉本人ではなかったことだ。彼女から何らかの謝罪があって(しか)るべきと思っていた二人に対して、エストニアの中佐は

「中尉は今、女の子たちに掛かりっきりだよ。風呂に入れてサッパリさせて、食事を採らせてからというもの、あの子達はまるで着せ替え人形だよ。実家から自分の古着を持ってきては”ああでもない、こうでもない”ってな。」と言ってタイコ腹を揺らせて愉快そうに笑った。そして更にこう付け加えた。

「……そちらの艦の修理、補給が済むまでは彼女たちは基地内の施設で寝起きさせるから。……うん?大丈夫だ。港内から別の施設へ移したりはせんよ」

 このあと4人は基地事務所を追い立てられるようにして後にしたのだった。

「レオン…、お前達は例の”エニグマ”に関して何か聞かれたか?」

 アレクサンデルは自分の艦が収容されたというドック施設へと歩を進める中、エストニア海軍の事務所内では口に出来なかった事を問うた。レオンも事の重大性は充分認識しているらしく、話しを始める前にぐるりと周囲をみまわしてから

「いや、何も。……今の所はね。マリア姉たちと風呂の後で一緒の昼飯の時にいろいろ訊かれたけど……姐さんはそのことに関しては触れていないぜ。オレ達はアルメに水の補給のために潜水艦が立ち寄った際に飲料水を提供をする代償として、収容してもらったことになってる」と、話した。

「風呂ぉ!?…何、お前ら二人も女の子達と一緒にか?マリアって……どんなんだよ?見たんだろう」ヤンが歩きながらレオンの肩を抱き、ゆさゆさ揺らしてはマリアの成長具合を聞きだそうと、いやらしく微笑みながら褐色の肌の少年をのぞき込むと

「ち、ちげぇーよ!オレとフィリプは男子更衣室のシャワー室に放り込まれて、水兵連中から雑巾みたいに扱われたんだよ。大人用の下着姿で飯食ったンだぞ!マリアたちはきれいな寝間着までもらってさぁ天と地ほどの待遇の差があったんだぜ」レオンは顔を真っ赤にさせていた。

「そのあと、この服もらったの。モニカもアンナもマリア姉ちゃんといっしょ。エニグマのこと黙っていた」フィリプがスキップしながらいった。

「よし…わかった。ところでフィリプ、お前の進捗状況は?完成しそうか」アレクサンデルがこう訊ねた後にフィリプはいきなりスキップを止めて、その瞬間に年齢がいきなり五歳くらい上がったような落ち着き払ったような態度に変わると、声色まで若干低くなって

「マリアからもらった『火の物語』のパーツ、凄く複雑。全体の4割以上、エニグマのほぼ心臓部にあたるんです。3個のリングローターの接続手順を初期化、再構成するに今しばらく掛かるでしょう」この要点だけ告げるとフィリプはまたスキップを始めて

「ねえ、チーフ・オレク、入院した艦長さんがいたお部屋使ってもいい?あそこテーブルがある。あとコンセントも。今度の作業、ハンダゴテを使うから」彼はいつものマイペースに戻ってしまっていた。

「うーん、あそこはマリアの個室に割り当てようと思っていたんだが、まあ、いいだろう。しっかり頼む。完成させろ」アレクサンデルは本来であれば自分専用の部署になるはずの艦長室をいとも簡単に明け渡した。

「バカ!もう”チーフ(副長)”じゃねえ!正式に艦長になったんだぜ。”カピタン(艦長)・オレク”だろ」こういったのはレオンだ。その後少し気恥ずかしげに顔を伏せると

「カピタン・オレク。あ、あのさぁ……姐さんに個室なんて割り当てたら、夜ごとにフランツの(にい)やんがさぁ……ああ!ちくしょう」何故かレオンはいきなり隣で歩くフィリプの背中を思いっきり引っぱたく。

「そうだぞ。へたすりゃマリアは子供を(はら)んじまうぞ。マリアはチビ達といっしょの方がいい!」これはヤン。

「ふふっまさか。誰の……」と、この手のことには(うと)いアレクサンデル。

 ヤンとレオンは半ば呆れて二人して首を振り振り歩を進めた。後、彼らは無言で数分歩を進めると、オルフェウス号が停泊しているドックが見える所までやってきた。

「何だよ、ずい分内陸側の奥まった所に収容しやがったなぁ……」ヤンとアレクサンデルはほぼ同時に似たようなことをぼそりとつぶやいたのだった。

 彼ら二人が取調べを受けている間に移送された潜水艦は、かまぼこ型の大きな丸屋根が三つ横並びになっている修理用ドックの一つに横付けされていた。

 真っ白な水銀灯の光が彼らから見て一番手前側、丸屋根一つ分の区画だけを照らしている。修理用ドックには今はオルフェウス号一隻のみのようだ。

 アレクサンデルはドックに横付けされた潜水艦を見るのが好きだった。特に夜の。辺りはもうすっかり暗くなっており、水銀灯の白っぽい光が水面をきらきらと耀かせていた。その中で浮かびあがるオルフェウス号はこのドックの中にあっては黒々とした船体が彼には異様に大きく感じられた。大海原では対比するものが無くいかにも貧相で頼りなさげに波間に翻弄(ほんろう)されている印象が強いが、一度こういった施設の中に収められるとこのオーゼル級は潜水艦の部類の中でも大型に類する船種であることを新めて痛感させられたのである。

 ただ一つ気に入らないことが……。歩哨がいる。彼らが近づくと目に入ってくるその人数は確実に増えていった。舳先、司令塔の付け根付近、船尾側の搬入口、船尾と、甲板上に4名。渡し板のドック側、工作機械やらが煩雑に置かれているコンクリート製のプラットホーム上にも数名いる。

 大人二人と子供二人がそのカマボコ形態の施設の中に入ろうとすると、その区画全体を金網式のフェンスで区切っているその一箇所だけの通用口にも兵隊がライフルを肩に担いでいる。歩哨は彼らを一瞥するとおざなりに敬礼して、にやついてこっちを小バカするような顔を向けてきた。

 アレクサンデルはそれを無視して歩哨の脇を抜けて扉の向こうに歩を進めたが、ヤンはその歩哨を睨みつけて二人はしばらく無言で対峙した。結局、後ろから子供二人がヤンの尻を押すようにしてその場を離れたが、へたをすれば掴み合いの喧嘩になっていたかもしれない。

 一行がドックの中へ入ると長い一本の廊下が建屋の端から長く伸びていていくつものドアが並んでいる。廊下のちょうど真中のドアからだけ光が洩れていた。彼らはそこに向かった。

 ドアの向こうは広い休憩室になっていて4、5人掛けの長椅子とテーブルが数基づつセットになって置かれていた。そこに自分たちの部下たちがあちこち散らばって座している。人数はざっと10人ほど。その中に航海長のレフ・パイセッキー中尉と下士官のヴォイチェフ・グラジンスキィがいた。

 そこに居合わす面々は、彼ら二人が連行された時とはうって変わってヒゲもなく、小ざっぱりしている。辺りには石鹸と男性用香水の香りが立ち込めていのだ。

 二人は艦長と先任を見つけると周囲に気を配りながらよって来て、事後報告をいくつか入れてきた。

「補給は順調です。飲料水、燃料は今日中に終わりました。意外に協力的です。……不気味なくらいです。あと、お二人が連行されてから、オランダの造船技官が来て機関長といっしょに例の場所を見ていきました。同じパーツの在庫があるそうで、一両日中には作業が完了しそうなんですが……」ここで息を潜めてから

「どこにでも歩哨の連中が付いてくるんですわぁ……。しつこいくらいです。船内にも何人かいます」

「機関長が中で張ってます。艦内の備品を勝手にいじられちゃかなわんってことで」と、言ってきたのはグラジンスキィ。彼は続けて

「奴らしきりに魚雷の本数やら、備品棚にあるライフルの数を聞いてきたり……お前らの知った事かって言ってやりたかったです」と、言ってからアレクサンデルに耳打ちして

「これが一番やっかいなんだが」と、前置きしてから容易ならざる事態を報告してきた。

「水兵のヤコブ・マズゥールが、脱走した。ちょい待った。……ヴァノック来い!」

 フランツ・ヴァノック一等兵曹が略帽を取って、それを胸の前でいじりながら彼らの所にまで着てから

「す、すいません。まさか本当にいなくなるなんて。もっと早く掌帆長に報告を入れるべきでした」と、言うと新艦長と先任にぺこぺこ頭を下げている。グラジンスキィ掌帆長はフランツに詳しく話すように促すと彼は

「あれは、あのセルゲイの野郎が連行される時だったんですが……」と話し始めた。

 *                *               *

 「あのマヌケ!もっと上手くやればいいものを!」

この聞きなれただみ声にフランツは振り返った。彼は艦橋にいて通信用アンテナを清掃中であった。基部やら丸い真鍮製のアンテナ本体は年中潮風にあたっている、小まめにブラシでサビを落としてやらないといけないのだ。

 フランツ・ヴァノックのすぐ背後には鼻ヒゲに前歯が二、三本抜けていて下卑た笑みを浮かべているヤコブ・マズゥールがポケットに手を突っ込んだ格好で立っていた。彼らの眼下では船首方向にある水密ハッチから、マリアを前部魚雷発射管室で押し倒し、陵辱を加えようとした張本人セルゲイ・ブファーノフがエストニアの官憲に引っ立てられていく所だった。犯人は首をうな垂れてすっかりしょ気ていた。

「マリアが襲われたと聞いたときは真っ先にあんたがやったのかと思ったよ」フランツはヤコブの方には目もくれずに目の前のアンテナに集中させていた。

「バカ言え!俺ならもっとうまくやる。途中で逃がさずにしっかり()るよ!いい女に仕込んでやるさ!」声だけで奴がにやにやしているのを察知したフランツは、唾棄するようにして

「あっち行け!クソ野郎」と、いった。

 その後、しばらく黙っていたヤコブは(おもむろ)

「……これまでだ。ユダヤのチビとガキ共のために命かけられっかよ」と言った。

「故郷も消えてなくなる。国と海軍への義理ももうねえしな……。あとは俺の信条で動かせてもらう。おいヴァノック騎士様よ」

ヤコブの呼びかけに無言で嫌悪の視線だけ向けてフランツは奴が次に何を言うのか待った。

「お前らはドイツ軍の非道を叫んでるが、俺は違う。いい機会だと思ってる」

「……何が言いたいんだよ。あんた」

「ヒットラーの奴におれたちの国にいるユダヤ人共をきれいさっぱり掃除させたほうが得策だと思ってる連中は大勢いるってことだよ。……しばらくは奴らに好きにさせる。どうせいずれはドイツ軍も疲れ果てる。そうなったら今度はオレ達が連中を追い出せばいいんだ。余計なクソ共がいなくなった新しいポーランドが再生されるんだよ」ヤコブはそう言いながらタリン港の外、バルト海を見ている。

「そう、うまくいくかよ!ココ、おかしくなったか?」フランツは自分の頭を指先で突っついて見せたが、ヤコブはフランツの方を見ようとはしない。

「いずれ分かる。誰もが本当はジャマな連中を取っ払ってほしいと思っているんだよ。ナチスはそれを正当な国の法律で実行しようとしている。表立っては口を閉じてはいるが心の中では喝采を上げているポーランドの人間だって、ごまんといるってことがな」

「……」

「おれもその一人だ」ヤコブはそういうと(きびす)を返して艦橋をおりていく。

「まぁ、騎士様は姫とチビ従者を守ってやんなぁ。無事にイギリスまでたどり着けるといいな」この言葉がフランツが最後にきいたヤコブの声だった。

 確認ができたわけではなかったが、ヤコブはその後に乗り込んできた、リトアニア在住のオランダ造船技官たちが潜水艦を出入りしている間に行方を(くら)ましてしまったらしい。

*                *               *

 エストニアはタリン海軍基地の司令部区画の一室にて、ジーナ・ラディッシュ中尉は窓辺に寄りかかり夜の更けた港の灯を見ながら紫煙を天井に向けて吹きだした。

「子供たちは?例の物の存在は確認できたのかね?同志中尉」こう切り出して彼女に問うたのは、この部屋の主である初老の将軍だった。白髪と顎からはよく手入れされているヒゲが伸びている。こちらも透き通るように白い。将軍は執務室の豪奢な椅子に掛けたまま、よく磨かれている机に軍靴を投げ出している。その執務デスク一式の前には客人用のソファ。そこに腰かけている太った例の中佐が制帽を脱ぎ、恐縮してかしきりにハゲ頭の汗をしきりに(ぬぐ)っていた。

(さか)しい子供たちですよ。あのマリアという盲目の少女によく仕込まれているのか、連中の”探し物”に関しては、おくびにも出しません」

「遠慮はいらん!子供なぞ締め上げればよかろう」と、声を荒らげる将軍。その声に彼女の上司で中間管理職にあたる中佐はいっそう身を(こご)めてしまっていた。

ジーナは少しも臆さず、目を外の風景に向けたままシガレットを(たしな)んでいる。そして

「閣下……。子供には『北風』より『太陽』です。と、相場は決まっていますよ」と、薄笑いを浮かべる余裕をみせた。

「子供たちは、基地内の医務室にて身柄を確保してあります。潜水艦のほうはご指示通り、港内奥のブンカーに収容を完了。兵員を配置しております」と、機嫌の悪い将軍に汗だくになって報告を入れたのは、太った中佐である。

「子供たちは、今はよく眠っていますよ。よっぽどベッドが嬉しかったのか、しばらくはしゃいでいましたけど……」そう言うなりジーナは、軍高官の前でも遠慮なく声を立てて笑い始めた。思い出してしまったのだ。つい小一時間前のことを。

 ジーナはこの会合に出席する前に子供たちの様子を見に、医務室に立ち寄った時のことだ。三人の女の子たちは久しぶりの快適で広々とした寝床の感触にはしゃいでいた。寝付くどころではなかった。

 特に一番年下のアンナとモニカは腹いっぱいになってじゃれる子猫みたいにはしゃいでいた。マリアは白いシーツの病棟型のベッドに横臥して、目は見えずとも二人の楽しげな様子を眺めるようにして笑っていた。いつもは閑散としている簡易型病棟はアンナとマリアの声であふれている。

 ジーナが病棟に入るとアンナが駆け寄り、人懐っこくジーナの腰に抱きついてきた。屈託のない全く自然の子供が持つ笑顔に迎えられてしまったジーナは、仕事、任務を忘れて自分の母性本能の赴くままに彼女らとの世間話に興じた。

 マリアが横になっているベッドの端に彼女が腰を下ろすと、それと横隣のベッドにはアンナとモニカが登ってきた。自然、話は普段の潜水艦内のこととなってゆくのだが、その内にジーナはマリアが14歳にしてはずい分と大人びていることが気掛かりでつい

「マリアはさぁ……彼氏とかおるん?」と、もうまるで自分が4人姉妹の長女のような気分になってド直球でマリアに聞いてみると、マリアは顔を真っ赤にして

「ええーっか、彼氏っていって好いのか……なぁ」いきなりもじもじして毛布を頭から被ってしまうと、モニカがジーナに手招きして見せてから、アンナが「フランツ兄ちゃんって言うんですよぉ」と言うと、二人は抱き合い互いに身体をくねくね揺すらせてキッスする仕草を真似て”このお姉ちゃんはこんなことしてますねん!”とジェスチャーでアピールしてくるのだ。

 ジーナはそのじゃれ合いの様子を思い描きつい吹き出してしまったのだった。

「ずい分とまあ、お優しいじゃないか。マスクヴァ(モスクワ)の犬め!赤軍の若手士官をあれほど吊るし上げ、シベリア送りにしておきながら」そう皮肉たっぷりに揶揄(やゆ)してきた将軍に対して、(まなじり)をキッと上げたジーナは態度を一変させて

「同志スターリンのためです。彼らは共産主義に恭順せずに反乱を意図していたことは周知のことです。それと私は正式にNKVD(内務人民委員部)から派遣されていることをお忘れなく」と、将軍に轟然と詰め寄る女性中尉に、今度は初老の将軍が

「チェキスト(悪名高いロシアの秘密警察)には変わりない!小娘風情がいい気になるな。エストニアは立派な独立国だぞ。亡命艦艇の処遇までモスクワの指示に従う(いわ)れはない!」椅子を蹴るようにして立ち上がり自分の娘ぐらいの年の女性と相対した。

 しばし二人は無言で睨みあう。

「えーっこの件に関して、あちらには連絡を入れたほうが良いでしょうか?」と、間の抜けた声でおずおず訊ねてきた太ったハゲの中佐の態度に将軍はついに堪忍袋の緒が切れて

「必要ない!そこまで連中にしてやることなどもっての他だ!放っておけばいい。ポーランドの連中もまったく厄介な物を持ち込んだものだ。このタリンでドンパチ始める前に補給と修理を完了させてさっさと追い出せ!好いな」と、怒鳴り散らした。会合はここで幕引きとなった。

 対峙していた将軍の勢いに気圧されっぱなしで恐縮している中佐の背を尻目に、ジーナはまた、窓際ままで下がり宵闇が深くなってきたタリンの港に視線を注いだ。港中そこかしこに光るガス灯はすっかり闇に支配されている沖合から流れてくる深い靄に包まれてその灯が微かににじんで見えていた。

 ふと、ジーナ・ラディッシュ中尉は自分がいる執務室のすぐ階下の灯りも未だ煌々と、司令部周辺の港を照らし続けていることに気が付いた。

 階下は電信室と事務所が併設されている区画になっている。この時間になってもモールス信号のキーはカタカタと鳴り続け、担当者たちが文句一つ言わずに黙々と電信を受け、防諜レベルの高い文書を作成しては、各部署に走っていた。その報を受け取るタリン内陸部のエストニアの政府機関と、モスクワにあるスターリンの番犬にあたるNKVD(内務人民委員部)、あるいはベルリンの情報部と政府高官たちとの間に、様々な秘密文書の内容が電信にて交換されているはずである。

 オルフェウス号という潜水艦一隻の出現が、このバルト三国の政治的な帰趨と安保に多大で深刻な影響を与えていたのだ。扱いを間違えればこの小国の名目上の独立は、現在のポーランドと同様に東西の独裁者によって踏みにじられる可能性は看過できぬほど大きく、現実味を帯びた脅威であったのだ。

 「遅くまで……ご苦労なことだこと……。明日は騒がしくなるかな」階下の明かりを見ながらジーナは、新しいシガレットに火をつけた。

 


 

 

 

  

 


 


 



 

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