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Pure rain  作者: 柊羽
4/5

誰にも詮索してほしく無いことがある

…聞きたい…

…けど聞けない…



家に着くと、柚希はバスタオルと部屋着、下着を彼女に渡しシャワーを浴びてくるように言う。


「脱いだ物はカゴの中に入れておいて。石鹸とかシャンプーとかは自由に使っていいよ」

「……うん……。ありがとう……」


素直に頷きタオルと着替えを抱え、バスルームに向かう彼女を柚希は見送る。そして自分も着替える為、自室に入っていった。




自分の洗濯物を持ち、バスルーム近くの洗濯機に来ると、カゴに丁寧に畳まれたブラウスやブレザー、スカート………すべて泥まみれだった。


「どうしよう……ブレザーとスカートは洗ったら型崩れしちゃうし……あ、部屋に干しておいて渇いたら、泥を払えば大丈夫かな?」


とりあえず、ブレザーとスカートはハンガーに掛け、ヒーターを付けてある居間の隅に掛け、ブラウス等は自分の洗濯物と一緒に洗う事にした。一応乾燥機もあるので、乾かなければそれを使えばいい。(電気代が高いので今まで使ったことがない)

洗濯機を回すと、柚希はキッチンに入り、冷蔵庫を開ける。


「ベーコンが入ってた!…トマトに玉ねぎと人参もあるし、ミネストローネ作ろうかな……」


献立が決まり、柚希は冷蔵庫の中のベーコンを取った。



仕込みが終わり、後は煮立つだけとなった鍋に蓋をしたとき、彼女がバスルームから出てきた。

さっきに比べると幾分か顔色が良くなったようだ。


「あの……シャワーありがとう…」

「ううん、あ、座って」


柚希は彼女にソファに掛けるように促し、マグカップに入れた紅茶を運ぶ。


「はい、紅茶。砂糖とミルクにレモン。イチゴジャムも美味しいよ」

「う、うん。じゃ……ジャム入れてみようかな」


彼女は小さく笑い、小瓶に入ったジャムを、ひとさじとり紅茶に入れた。それを見、柚希もジャムを入れ掻き混ぜる。


「あ、おいしい……」


彼女がふわりと笑う。初めて見る笑顔に、柚希は安心する。


「よかった。あ、そうだ!!自己紹介まだだったよね。私は柚希。貴女は?」

「雪菜…です。」

「雪菜ちゃんだね!よろしく。私の事好きに呼んでくれていいから」

「そ、れじゃ……柚希って呼んでいい?」

「うん!」


会ってからまだお互いの名前すら知らない事に気づき、少しおかしかった。ようやく名前で呼び合う事ができ話も弾む。飼っているウサギの事や好きな歌手、好きな食べ物など暫く取り留めのない話をしていたが、学校の話になった途端、雪菜の表情が曇った。地雷を踏んでしまったかもしれない。


「あ、言いたくないならいいよ?ゴメンね」

「ううん……今はその話はしたくないの。私こそごめんなさい。」

「気にしないで!」

「…………」

「…………」

「あ、出来たかな?ちょっと待ってて!」


重い沈黙に耐え切れず、柚希がキッチンに向かう。少しして、二つのスープ皿をお盆に乗せ戻って来る。


「どうぞ!ミネストローネ。あ、トマトとかダメだった?」

「え…ううん、大好き!ありがとう」

「凄く熱いから気をつけてね!」

「うん!いただきます」


トマトベースのコンソメスープの中に、細かいさいの目に切られたカラフルな野菜とベーコン。雪菜はスプーンをとり、一口含む。途端に口に広がる優しい味に思わず顔が綻ぶ。


「美味しい」

「良かった!……うん!上出来!!やっぱりおばあちゃんのレシピは最高!」

「おばあちゃん?」

「うん、私、おばあちゃんに育てられたの」

「あ……と」

「私の両親ね、小さい頃に亡くなったの。飛行機事故で」


柚希はそう言うと、棚に飾ってある写真と、その近く置いてある歪んだ腕時計を見る。その顔はとても寂しそうで。雪菜はいたたまれなくなった。


「!!ごめんなさいっ」

「え?ううん。気にしてないよ!だって私にはおばあちゃんがいるし、友達もいる。それに」


柚希は雪菜を見つめる。


「雪菜ちゃんもいるし!寂しくないよ?だからそんな顔しないで」

「…っ、うん。ありがとう」

「さ、冷めない内に食べちゃお!」

「うん!!」


涙ぐむ雪菜を慰め、柚希はもう一度写真と時計を見る。


(お父さん、お母さん。私はもう大丈夫。絶対に泣かないよ……もう)


柚希は心の中で呟くと、再び雪菜と話しはじめた。




日もすっかり落ち、雨はいつのまにか上がっていた。

「私、そろそろ帰るね。なんか長居しちゃって…」

「ううん、私も引き止めちゃって。バス停まで送ろうか?」

「ううん、平気」


すっかり渇いたブラウスと泥が落ちたブレザーを受取り、雪菜は着替えるため、柚希の部屋に入っていった。柚希は後片付けをしながら、雪菜の事を考える。

なんとかしたい。でも確証が掴めない今、どうしたらいいのか…。雪菜はきっと話したがらないだろう。それにもし、自分が彼女の立場だったら同じく誰にも話せない。


(待ってるしかないよね。いつか話してくれる事を)


柚希は雪菜が幸せを取り戻す事を願った。



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