表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5

芳さんは馴染みのスーパーの駐車場にいた。手にはさっき買った値引きシールの牛丼とパンの入った、三円するビニール袋。帰ろうと歩き始めると、後ろから声をかけられた。中学校の同級生、男子。淡い恋心を抱いていた彼が、変わらない姿でそこにいた。

「雨が降らなくてよかったな」

 そう話しかけられ、芳さんは少し迷った後、「雨でもよかったけどね」と返した。彼はびっくりしたような顔で、だけど納得したように頷いた。

「早く雨が降らないかな」

 気付けばそう呟いて、芳さんは走った。足が重く、体だけ前のめりになる。後ろで初恋の君が何か叫んだが、振り向いてももう見えなかった。

 いつしか家の中にいて、握っていた袋は空っぽになった。着ているものも脱ぎ去って、冷蔵庫の中を覗く。

「ぜんざい作ったんだ」

 後ろでさっきの彼が言った。「食べる?」

 頷いて受け取ったそれを口に運ぼうとする。そして、気付いたように「服、着るから待って」と芳さんは言った。

「見ないよ」

 窓の外が濡れている。

「ねえ、雨――――」

 陽の光で目が覚めた。しっかり寝間着を着て、一人だ。起き上がって、ベランダに出る。こんなに晴れていたら、雨なんて降らない。

「早く雨が降らないかな」

 夢の中と同じセリフを呟いてみた。目を閉じると、水っぽい匂いがして、鼻先が濡れたような気がした。もしかしたら、まだ夢の中なのだろうか。降り出した雨は答えを知らない。

 虚ろな世界へ誘う、芳さんの雨。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ