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籠の中のかたまりを大きく広げてTシャツにする。そうして洗濯をしようと意気込んだ日ほど、空は意地悪だ。外は一瞬にして、バケツをひっくり返したというより、大きな蛇口をひねられたような勢いに包まれた。呆然と、手にした衣服を籠に戻して、絨毯に腰を下ろす。部屋干しのラックを出すのも億劫で、そのままごろんと大の字になった。
折角の衣服達を生乾きで放置するわけにもいかず、埃を被った段ボールを避けて、クローゼットの奥に畳んでしまったラックを引っ張り出す。すぐにXの形になって開いたそれに、服を着せたハンガーをかけていく。始めてしまえば、あっという間の作業だった。何となく持て余して、段ボールの整理も始めた。使いかけのボールペンはまだインクがつくだろうか? 丁寧に探していくと、懐かしいものを見つけた。6で止まったインスタントカメラ。何を撮っていたのだろう、記憶になかった。手にしたまま外を一瞥し、立ち上がった。
土砂降りが傘に激しく当たる。芳さんは橋の傍まで来ていた。溢れんばかりの濁流が鴨川を一斉に駆け抜けていく。土手に下りるのは危険なので、橋の真ん中まで歩きそこから被写体を見下ろす。片手で鞄を探るが、気を抜くと傘を飛ばされてしまいそうだ。既に足元はぐっちょりと濡れていた。
主役を取り出しフィルムを巻く。小さな窓から見える景色を撮っては巻き、撮っては巻き、淡々と収めていった。数字が1になり、あと一つ何かを探す。その時、ピカッと光が過ぎていった。シャッターチャンスを逃したと残念がっている間に轟音が鳴り響く。呑気に写真を撮っている場合ではないとその音が芳さんを叱る。しかし、現れた光に芳さんは食いついてしまった。最後の一枚に収めようと、濡れたインスタントカメラを構える。また、光が足早に過ぎた。果たして、芳さんの人差し指は着いていけたのか、答え合わせは現像するまでのお楽しみ。
激しい思い出の一枚、芳さんの雨。