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 鈍いノックの音で目が覚めた。時計を見やれば既に夕方だ。昼食後、随分長く寝たものだとおぼつかない思考が巡る。ところで、誰だろう? 重い体を大きく伸ばし、芳さんは玄関へ向かった。

 はりついた瞼をはがすようにパチパチと瞬きをして覗くものの、そこには誰もいなかった。チラシや不在表も入っていない。あれは夢だったのかとぼんやりリビングに戻る。先ほどまで抱いて寝ていたタオルケットがごろりと床に転がっている。喉が渇いた。冷蔵庫から麦茶を取り出して、ガラスのコップに注いでいると、また耳に届いた。ぼつ、ぼつ、ぼつ。音の先は窓だった。いくつもの水の流れが出来ている。その流れに指を沿わして追いかけるのが楽しい。ノックは次第に激しくなり、コップを片手に何となく返事をしてみた。

 芳さんは窓の外をじっと見つめる。

 向かいの歩道に、水色の細い傘と紺色の太い傘が並んでいる。前者の下はよれたプリーツスカートと、びしょぬれになった靴下、ローファー。紺色はハーフパンツからむき出しの足と泥が跳ねたスニーカー。予報通りの雨だったのだろうか、朝はあんなに天気だったのに。雨粒が、地面に着くより先に車のボンネットで弾かれる。ワンテンポおいた寒色の傘達は横断歩道を足早に渡って、窓の枠からフェードアウトした。

 ふと、今朝、買い物に出かけようと思っていたことを思い出した。一気に気持ちは重くなる。かねてより冷蔵庫はかなり寂しい。腹部は元気に動き出した。行くべきか、確か冷凍庫に氷をまとったうどんが一つ、存在していたはずだ。答え合わせはまた後で、空のコップを流しに置いた。

 リモコンを手に取ったが、押さずに小さく振ってみる。鳴りつづけるノックを消したくないと思った。

 姿が流れる来訪者、芳さんの雨。


2016年7月から配布していたフリーペーパー小説です。全5編。

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