異世界召喚
就職面接154戦全敗。仕方なくお金のためにキャバクラで働き始めるも、鳴かず飛ばずの芹沢 百合香26歳。彼女が突然、異世界に聖女として召喚された。元来の勘違い体質の百合香は、せっかくの守護精霊の加護をめったやたらと断りまくる。「結構です。間に合ってます。必要ありません!!」そこにドS鬼畜王が現れて・・・!!しかも百合香をいたく気に入ったらしい。なんとか異世界で仕事を手に入れた百合香は王城の侍女として、将来、超・侍女になるために頑張り始める。しかしそこにドS鬼畜王の婚約者まで現れて・・・百合香の異世界生活どうなるの???!!!
芹沢 百合香 26歳。
思えば4年付き合った元彼と1年前別れてから、ずーっとついてない。
大学卒業してから新卒で就職した中小企業は、ちょうど元彼と別れた直後に潰れた。それ以来、再就職に向けて何百社と面接をしたが、全て断られた。
あまりに落胆し、人間としての尊厳すら危うくなってきた頃に、ポストに一枚のチラシを見つけた。
楽に稼げる楽しいアルバイト
高待遇・高給料 空いている時間で、お小遣いを稼ごう
時給 3000円~
キャバクラの求人チラシだった。
当時、私も25歳・・・もとい後4ヶ月で26歳だったが、まだまだなんとか若い部類に入るはずだと思った。
なけなしの退職金が底をつきかけてきて、現在の貯金通帳は既に4桁に突入してしまった。
私が大学生の時に両親が亡くなり、一人っ子だった私には頼れる人が誰もいない。
背に腹は替えられない。
そう思って半年前始めたキャバクラの仕事だったけど、向いているとは到底いえない有様だった。
大学時代に鍛えた、お酒の強さや話題の豊富さでナンバーワンになるのも楽勝だと楽観的に思っていた、あの頃の自分をぶん殴ってやりたい。次のまともな仕事が見つかるまでの繋ぎだと、合間に就職活動に励んだが相変わらずのご縁がありませんでした・・・の連発に、やさぐれていた。
今日も終電でアパートに帰るため、12時にあがらせてもらい駅に向かう途中だった。マネージャーも私のことは女の子の頭数くらいにしか思っていないのだろう。終電前に帰ることはすんなり承知してくれた。
ああー今日もお茶を引いてしまった。(キャバクラ用語で、指名無しのこと)
岸田さんと吉水さんは、この間楽しく会話して盛り上がって、次は私を指名してくれるって約束したのに、今晩はきりえちゃんを指名してた。
私だって昔はけっこう美人だって言われてちやほやされてたのに、いつの頃からか男の人に声もかけられなくなった。何が悪いんだろう。化粧方法変えようかな?
キャバクラ勤めのままずっといられるわけないし、こうなったらキャバクラでエリート捕まえて結婚するしかないよね。
都会の夜はまだまだ人が多く混雑している。人ごみを掻き分けて駅への道を急ぐ。歩道橋の階段を駆け足で登っていくと、目の前に知らない女の人が突然立ちふさがった。
かなりきつい顔の美人で、着ている服も格の違うブランド品だらけだ。どこかのモデル雑誌から抜け出てきたような、流行の化粧と髪形をしているその女性は開口一番こう言い放った。
「あなたが 芹沢 百合香さんね」
挑戦的な目で見る。
「・・・はい・・」
この状況、何度も経験したことがある。嫉妬に狂った女性が牽制に来たんだ。そういうことだ。こういう場合は、いつもあの元彼・・・あいつのせいだった。
「蓮条 健司さんと、別れてください」
あーやっぱり、そうくるんだ。みんな同じセリフを同じ顔をして言う。
「・・・私、1年も前に彼とは別れて、それきり会っていませんが・・・」
夜の街をじぶんの思い思いの路へ足を運ぶたくさんの人たちが、私達のことなど興味が無いとばかりに通り過ぎていく。歩道橋の上なので場所に限りがある。稀に歩行中の人が肩にぶつかりながら、振り返りもせず去っていく。
迷惑だなーー。この人・・・。
「貴方のせいで健司さんは、誰ともお付き合いしていらっしゃらないのよ」
はああー。 と、溜息をつく。私の話を聞かないところも、みんな同じ。どう説明したらいいものやらと、考えを巡らす。今までの経験上、このタイプの女性は話も聞かずに一方的に言い散らかす。自分が満足するまで言えば気が済むのか、皆一様に帰っていく。なので黙っていると、その様子が怒りに火を注いだらしく、ますますヒートアップしていく。
あまりの罵詈雑言に何も言い返せないでいると、突然その女性が私の肩を押した。運の悪いことに、背の高い男の人の肩が私のほうにぶつかってきた時と同時だった。
重なった力で同じ方向に押された私は、そのまま歩道橋の欄干を越えて落ちていく。私の身長は164センチとかなり女性にしては高めだ。その上今日は夜のお仕事の為10センチヒールを履いている。
この欄干の高さでは私の体を支えるのには低すぎたのね・・・などと、なぜか頭の中は冷静に考えている。歩道橋の下は、国道の8車線道路。
最後に目の前に移ったのは、たくさんの星空。
こんな大都会でも、こんなに満面の星空が見えるなんて素敵。
そう思ったとたんに眼の目の空間が歪んだ感じがして、背中に衝撃が走る。
「いたっ!!!」
硬い道路だと思ってついた手に、思いがけず柔らかいものが当る。
「なに?これ・・・」
満面の星の夜空・・・は同じだったが、辺りの景色は360度違っていた。
「ここは・・・一体。どこなのぉぉーーーー!!?」