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第2話 




 その男を初めて見た時、私は形容し難い気分に陥った――。





「こうなりゃ、ざまぁねぇな。『異能力者(ウェイカー)』様もよ」

「くっ……」


 数人の『革命軍』は倒す事が出来た。が、疲れを隠せなくなっていた所に一人、『革命軍』が現れた。その軍の人が今、目の前にいて私を追い詰めている人だ。

 この人との戦いの最中、いつものように手を翳し能力を発動しようとするも、連戦の疲れからか『異能』が使用出来ない状況に陥る。

 『異能』が使えないと悟った男は、弱者を甚振るように『呪術』を発動し、残り少ない私の体力が尽きるのを待っていた。

 遂には力尽き、地に縫い付けられたかのように足が動かなくなる。


「今のお前を殺すのに、そこまでの威力はいらないと思うが、お前には同胞を何人もやられたからな。最大火力を持ってお前は殺してやる」


 そんな私を確実に始末する為に、男は文字通り最大火力の『呪術』を発動させる。


「ほら、喰らっとけ!!」


 『革命軍』の一人が放った辺り一面を焼き尽くす事が可能なぐらい大きな炎の塊が近付くのを見届けるしかなかった。最早、指一本も動かす事は叶わない。


 刻一刻と迫り来る死のカウントダウン。



 まだ生きていたい――。



 心の底でそう思った瞬間。彼は一陣の風の如く目前に現れた。

 そして、手に持っている大剣を大きく振るい、巨大な火球を一刀両断する。

 行き場をなくした火球はその場で爆散し、辺り一面に火の粉として降り注ぐ。誰一人として存在しない大地へと。




「大丈夫か?」


 その男は全身真っ黒な服を身に纏い、右手には身の丈程の大きさを誇る剣を握り締めている。


 彼が所持している大剣を私は知っている。『革命軍』との正面衝突になるであろうと事前に予想して来たため、ここへは私の他にも多くの『異能力者(ウェイカー)』と共に訪れた。その言わば軍隊の一人が彼の手に握られている大剣を所持していた。これが俺の命を預ける事が出来る獲物だよ。と自慢気に言っていた。

 命の次に獲物が大事だと言わんばかりの勢いだった彼が手にしていた大剣を彼が所持している。それが意味するのは……。


「な、何なんだよ。てめーはよ。急にしゃしゃり出て来やがって」


 大剣を持った少年が来るまで私と対峙していた『革命軍』の一人が、激昂する。仕留めたと思った『異能力者(ウェイカー)』が無事で、その前に正体不明の男が現れた。恐らく私が敵の立場だったなら、私もそう思うはず。


「……悪いけど、もう少しだけ待っててくれる? 今まで生存者の救助で待たせてた分の働きはするから」


 生存者の救助――。


 彼がそう口にした直後、私は荒れ果てたターミナルの内部に気を張り巡らせる。

 施設内に人の気配がない事を察知した後、この辺り付近の様子を探ると、既に戦闘を終わらせて救助に向かったであろう『異能力者(ウェイカー)』の数人がターミナル内部にいて負傷した生存者の救助を手伝っていた。

 その負傷者の中に、彼が持っている大剣の所持者がいて、息がある事に安堵した。想像した最悪の展開でなくて良かったと。


「ま、待って。私もたたか……」


 『異能力者(ウェイカー)』ではない、見知らぬ少年一人では危険だと立ち上がって戦闘を行おうとするが、連戦を行っていた私の体は悲鳴を上げている。両の足で立つ事もままならない。

 何を思って一般人の彼に武器を託したのか『異能力者(ウェイカー)』の一人を問い詰めたい気持ちを抱かずにはいられない。

 “一般人が『対呪術』用の獲物を手にしても使えない”。学園で共に習った筈なのに、彼はどうして一般人の彼に手渡したのだと。




 ――その瞬間、私は矛盾している事に気付く。




(どうして、彼は最初の一撃を切れたの……?)





「大丈夫だよ。この獲物の使い方は理解してるから」



 私が疑問に思っている事を読み取った少年は、自らの手に視線を移し笑顔を零す。



「だからさ、待っててよ。俺が君を護るから」


 そこで初めて私は少年の顔を目の当たりにした。

 真っ直ぐに向けられた純粋で穢れのない黒い瞳。その瞳からは絶対に護り通して見せるという信念が篭っていた。

 こんな風に純粋な気持ちをぶつけられたのは初めてだ。


 その男は他の男とは違い、私を私として見てくれている。

 ただそれだけで、この男は他の私を遺伝子でしか判断しない男達とは違うのだと理解した。

 今は私が『藤白(ふじしろ)』の一人娘だと認識していないだけで、知れば欲望が解放される。そんな恐れを一切感じさせない程、彼は清廉潔白としていた。


 思えば私――『藤白(ふじしろ) (かなで)』は、この瞬間から運命を感じてたのかも知れない。


 彼なら……私を遺伝子と見ない彼なら、私の唯一の相棒(パートナー)として一蓮托生の運命を共に歩いてくれるのではないかと。

 この機会を逃がしてはいけないと本能で悟ったのか、私の口は自然と言葉を紡いでいた。


「き、君は……」

「俺の名は零斗。ただの一般人だよ」


 そう言うや否や、彼の姿が一瞬にして消え去った。



 ――直後。



「ぐはっ!?」


 いつの間にか呪術を展開し、攻撃を開始しようとしていた『革命軍』の男。だが、その攻撃は光の如く姿を消した少年……零斗によって阻止された。

 零斗は剣を持っていたはずの右腕を男に向けて大きく振りかぶっていた。右腕による強打を受けた男は地面にその体を何度もぶつけては撥ねてを繰り返し、既に倒壊したターミナルの壁に大きく減り込んだ。


 何度も地面を擦って威力は軽減されたはずなのに、あの威力……。


 ただのパンチの威力が桁違いな事も十分に凄いとは思う。でも、それ以上に、この一撃を放つ前に取った行動の方が常識を遥かに凌駕している。

 零斗に視線を移していた為、視界に入っていたはずの男の行動に私は気付けなかった。そして、零斗もまたこちらに視線を向けていた。



 それが意味するのは……。



(目で捉えず普通に会話をしながら、気配だけで察知した)



 常識の枠を外れた行為。息を吸うように出来る者は限られた者しかいない。けど、彼には出来た。それは、彼が強者であるから。

 もし、彼と一緒に入れるのなら、私も……。




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