第1話
初めまして。月城真翔と言います。
今までは読み専だったのですが、自分でも書いてみようかなと思い、今に至ります。
まだ執筆に慣れていないので、文章が読みにくいかとは思いますがよろしくお願いします。
「この方が良いんじゃない?」等のご指摘もあれば、お願いします。
異世界転生――。
情報化社会と言われるこのご時世、図書館へ行かずともインターネットを見ればどうとでもなる。そんな風潮のある昨今では、ネット上に無料で小説等を掲載するサイトがあったりする。俗に言うネット小説ってやつだが、そこで良くあるテーマが『異世界転生』又は『異世界召喚モノ』。
読者としては作者が思い描く異世界の物や世界観に胸を躍らせながら、時間も忘れて文字を目で追うのだが、それはあくまで異世界という非日常的なモノに心を弾ませているだけ。
「――ここ、何処だよ」
“異世界生活”を実体験をしたいわけじゃないんだよ。そう見知らぬ土地で嘆く俺――『玄野 零斗』。
この世界へ連れて来た奴の親切心かその心まではわからないが、俺は小高い丘に佇んでいる。目の前いっぱいに広がる大地はまったく見知らぬ土地ではない。高層ビルが並んでおり、遠くに住宅街も見える。その一軒家も今まで生活をしていた一軒家と酷似している。これらの要素から察するに“未来の日本”ではないか?と俺は推測する。
現にここは未来の日本ですか。と問い掛けられれば、一瞬の間も空けず肯定するぐらい自信はある。
そんな俺が異世界へ来たと断言するのには理由がある。
ここへ来るまでの記憶がハッキリしていなければ、もしかしたら記憶の差異かなとも考えられるが、俺の場合は違う――。
「俺は車に衝突して死んだ筈じゃ……」
今でも鮮明に思い出せる交通事故の場面。そして、乗用車と衝突した瞬間の痛み。車のボンネットと激突してから数分間、意識が飛ぶまで体を蝕む想像を絶する激痛。全てがハッキリと思い出せる。
母親の下へ急いで向かおうと横断歩道を走って渡る少女。
あの子は無事だろうか。思わず思考よりも体が先に動いてしまい、少女を反対の道へ突き飛ばすように押してしまったが、大丈夫かな。綺麗な顔に傷が付いてなきゃ良いけど。
将来が期待出来るような美少女だったんだよな。見つめていればこちらが吸い込まれそうなぐらい大きく澄んだ瞳、端整な顔立ち、一際目立つ真っ黒な髪が走って扇のように広がる。どれ一つ取っても綺麗だと思える少女だった。だからこそ、俺はあの少女が視界に入り、少女へ向かって来る車に気付けた。
――叶うならもう一度、会いたい。
そう心中で願った瞬間の事だった。
高層ビルが並ぶエリアから少し離れた場所にある横に大きな建物――日本で言う空港みたいな建物から爆発音が響き、巨大な煙が巻き上がる。
「なんだっ!?」
騒動が起こると自然と人だかりが出来る。その理由を今しがた理解した。
これを好奇心というのだろう。行けば騒動に巻き込まれるかも知れないのに、足が止まらない。口角が上がってしまう。
最近の日本では事件がほぼ皆無に等しい。少し前までは色々とあったが、セキュリティー面を一新して、頑丈にしてからは情報番組でそれらの類の耳にすることがなかった。
言い方を非常に悪くすれば俺の野次馬根性が、事件に飢えていたみたいだ。
見知らぬ土地と形容したが、元から知っているかの如く人波を避け、ビルの合間を潜り抜ける。
目的地が近付くに連れて、こちらへ走って逃げてくる人が大勢いる。皆が口々に放つ言葉が、「逃げろ。革命軍だ」「あの『異能力者』が時間を稼いでくれてる間に」と言って逃げていく。
革命軍は字の如く革命を起こす軍だろうな。と理解は出来る。だが、ウェイカーとは一体何の隠語だろうか。
(とりあえず会話は日本語で行けそうだな。まだ、現地の人と会話をしてないから確定は出来ないけど)
足早にこちらへ逃走する人がいなくなり、大きく開けた場所へ辿り着いた俺を迎え入れたのは、想像を絶するような光景。
「なんだよ。これ……」
俺が走り出してからも爆発を受けていたのだろう建物はボロボロに崩壊し、至る所にテロでも起きたかのように小さなクレーターが出来上がっていた。……そして何より、辺り一面に飛び散っている赤い水溜り。その水溜りの上に力無く倒れている人。中には最早人体の原型を留めていないモノもある。
現状からこの赤い水が何を意味しているのかなんて安易に予想が付く。その予想が合っているのも。
これらの光景を作り上げたのが、逃げてくる人らが口にしていた『革命軍』って奴らだという事も、それに抗い力の無い市民を守ろうとしているのが『ウェイカー』って奴らだってのも理解した。
思わず吐きそうになるのも必死に食い止め、付近の探索を始める。
『革命軍』に抗う術を今の俺は持たない。こんな現状を作り上げる奴らには心底苛立ちを隠せないでいるが、感情に任せて無意味に突っ込んでは無駄死にだ。ならば、今の俺にでも出来ることをやる。
崩壊した施設の中へ足を踏み入れ、生存者がいるか探し始める。
まだ言語が通じるかどうか定かではないし、何より外でまだ戦闘が起こっている状況では無暗に声を出す事は得策ではないので、静かに歩みを止めずに歩き続ける。
『ウェイカー』と『革命軍』の戦いは続いているのだろう。
戦闘を行っているような音が耳に入って来る。爆発や銃声、日本で生活していた俺にはあまり関わりのない音だ。普段聞いていない音だからか、危険を察知して耳がいつも以上に働いている気がする。その音が段々とこちらへ近付いて来ている。
「あまり猶予はない、か」
市民が言っていた時間稼ぎが終わるまでに、生存者を助ける。
異世界転生なんて夢を見ているんじゃないか。心の底でそう思っていた俺に現実だと思い知らせるかのように、力強く両頬を叩き、意気込む。
『ウェイカー』の時間稼ぎが終わるまでに、生存者を全員助けてやる――。
そう心に誓い、最初の生存者の下へと足を向ける。