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死神島  作者: 不知火 初子
第1章【運命への問い】
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-1- 死神の僕は





 そこから見える景色はいつも、薄暗い闇と夜明けの様な光の境界線。

ーーーー闇の中には死者が。光の中には生者が。



 だけど、境界線はある時期を迎えると互いの境界を侵攻し合う。その時だけは闇と光が揺らめき合い、とても幻想的な景色になるのだ。



 今も、そこはなだらかに揺らめいている。



















 生者の世界では、現在世界規模での争いが起こっていた。

 僕たちはただ、生者が道を外れずちゃんと死者の世界に行けるよう、軽い道標を示すだけに過ぎない。



 そして、死者の世界から来た者が、生者の世界に入ってしまわない様に終始見張っているのも、僕たちに与えられた役割。

 人を裁くのは神様の仕事だった。







 運命は必ずあるのだろう。現に僕は、死神ゆえに死神をやっているのだから。


 ただ、本当に不思議なのは……生者の死さえも、神様の運命の上に成り立っているのか、ということだ。



 神様は万能ではない。

 それは、死神の僕たちが良く知っている。

 神様を裁けるのは、この世界で唯一無二の死神だけなのだから。







 その神様が最近、生者も死者も好き勝手に裁いて、闇と光の境界線を揺らしていると聞いた。人間の感覚で言えば、200万年ほど前のことだ。



 だから、僕たち死神は背筋をピンと伸ばす。神様を裁く時が、ついに来たのだと。



 なのに、神様は何処から監視していたのか島を隔離してしまった。

 隔離し引き離して、2度と繋がらないのではと思ってしまうくらい遠いところに、島ごと移動させてしまったのだ。




 島の長たちは神様が、自身が裁かれるのを恐れて先に僕達を裁いたのでは、と話していた。

 僕はその話を聞いて、何故かすんなりと納得していた。



 そこからの僕の行動は、とても素早かったように思う。理に適わない、道を外れたことが大嫌いな僕は神様を裁く為、この引き離された世界から抜け出す。



















 島が隔絶されてから一週間ほど経った、5月19日のこと。


 といっても彼らに時間という概念はないので、この月日は人間界の流れを知る為にと備え付けられた500年単位の表により、1人の死神の脳内で咀嚼される。



 ちょうど一週間前。5月12日に行われた総会議にて話し合われた議題と同じ内容で、担当地域別の長たちが今日も集まっていた。



「まだ纏まってないんだ」



 1人の死神は、会議を行う一角の簡易的なテントへ歩いて行き、外で様子を窺い待ち惚けている親友に話しかけた。




「ああ、そうなんだよ。神様ぐらい早く裁けよな。1人じゃないんだしさ」

「大量生産ができないから仕方ないよ」




 神様というのは、初めから神様として存在している訳ではない。と幼い頃から教えられている。



 何でも、死者の中から優れた精神を持つ者を、神界(じんかい)と呼ばれる神様達の世界へと導くらしい。時には、生者の中から優れた精神を見つけ、寿命を全うした後に直接神界へと導く場合もあるという。




 けれど昨今ではそういった精神は、勢い良く減少していた。




「だいたい神様って言ったって、見境なく人を裁いてんなら、俺たちが裁くしかないじゃん。いっそ俺らでぶっ飛ばしに行く?」

「うん行く行く、とはならないよね」

「ずいぶん物騒な話だね」




 話に夢中になっていると、テントを挟んだ向こう側から来た新たな死神に見つかる。




「げっ。かいさん」

「げっ、じゃないよ。そういう話はここでは遠慮してね。何せ長たちも予想外の事態に、神経が研ぎ澄まされてるからさ」





 新しい死神ーーかいが注意するのも当然だ。会議が行われているテント内は、普段の仲間内ではあまり見掛けない程の緊張感が、中にいる6人分ちゃんと肌に突き刺さってくる。




「それにしても、カツが来るなんて珍しいな」

「確かに」



 カツと呼ばれた死神は、自分を見る親友と先輩のかいに、一週間悩んで考えた胸の内を明かす。




「僕、ここを出ようと思うんだ」


「……え?」

と、かいは驚きの声を上げた。



「へえ?何の為に?」

なんて聞く親友の顔は、この後何を言うか知ってるとでも言いたげに口角を上げている。




「神様を裁きに」



 僕はハッキリと言い切った。



「え?」

と、今度は聞き返して来るような声を上げる、かいさん。



「おう。面白そうじゃん」

と言いながら、心底興味津々な様子で口の右端だけを上げて笑顔を見せた、親友のセコ。





「僕が、神様を裁くよ」


 今度は細々とした決意ではなく、テント内の長たちにも聞こえるように宣言のつもりで言う。


 やはり聞こえていたのか、中から長の1人が顔をのぞかせた。





「カツよ。……本気か?」

「はい。長たちが動き難いなら僕が行く」




 長であるサイラの、修羅場を潜り抜けた鋭い目から逸らさずに告げる。

 すると緊張感漂う外の様子を見に来た他の長が、ちょうど聞こえた僕の宣言に苦言した。




「お前さんは、何を馬鹿なことをーーーー」

「あんたら長たちが腰重くしてるから、仕方なくこいつが行くっつってんだろが。察しろ」




 それを横で見ていたセコが、僕の代わりに言い返す。




「本当に遂げるつもりか?」



 サイラは何かを見極めるように見た。



「遂げなければ意味がないでしょう」




 カツはそれでも顔を真っ直ぐに据えて言うと、続けてセコが、現状で何をするべきなのかと長たちに物申す。




「そもそも、そこまで渋る必要があるのか? 人を裁きまくって見境なく死者を出してる神様なんて、唯一裁ける死神(おれたち)がどうにかするしかないだろ」

「……」

「……その通りだけど、そこまでにしておけよ、セコ。カツも、生き急ぐな。お前ら、熱くなりすぎだ」




 僕とセコ。そして長たちとの間で軽く火花が散る場面で、かいさんが止めに入った。

 止められて熱が燻るセコは、かいさんにも突っ掛かり始める。




「あいつら人間は何もしてねえのに、神様とやらに裁かれまくってんだぞ!お前には慈悲ってもんがねえのかよ!」




 本来であれば、その慈悲は神様が与えるものだ。けれど今は、彼にその意思はない。




「お前は死神だろ。カツも俺も、それから長たちも死神なんだ。俺らの仕事は死者が死者の世界から出ないよう、生者が無事死者の世界へ行けるようにすることだ」




 かいさんは、自分の本来の役目を外れるなと言う。


 勿論それは分かる。フワフワと彷徨く魂を導き、次の神さま候補を導く事が僕たちの存在理由だ。


 神様を裁く権限は、死神の長たちにしか与えられていない。その肝心の長たちが未だに尻込みしているのだから、僕やセコがやきもきするのも仕方ないと言える。





「黙って突っ立ってろってか」



 セコはまだ、かいさんに詰め寄っている。



「違う。見守れと言ってるんだ」



 それに負けない気迫で、後輩の死神を諭すように立つ姿を見て、一人の長が助け舟を出す。




「かいの言う通りだ。自分たちの本分を忘れるな」




 この場合、本分を忘れているのはどちらだ、と言ってやりたい。




「長たちも見たでしょう、あの境界線が揺らめいているのを。アレは乱れてる証拠。本来まだ生きるはずの命を神様は無闇に奪ってるんですよ」




 命を導く事と、命を放棄することは違う意味のはずだ。


 カツの言葉に、サイラは一瞬気まずそうな顔をしたが、それでも長として自分の言葉を変えるわけにはいかないと、改めてさっきの言葉を繰り返した。




「じゃが、ワシらの本分はその命を、迷わせることなく死者の世界へ導くことなんじゃ」

「なら、人はいくら死んでも構わないと?」




 カツはその時初めて直接的な表現をした。それまで裁くという間接的な言葉でしか言いたがらなかったのに、今初めてカツは明確な問題を更に分かり易くしたのだ。




「そうは言っておらんが…」

「神様にも何か考えがあるやも知れん」

「神様が無差別に裁くはずがない」

「神様は慈悲のあるお方だ」




 カツの言葉に長たちがざわつき始める。そこにセコが、自分たちの置かれた状況の説明を求めた。



「だったら、何で切り離されてんだよ」

「それも、何か意味があるのかも知れない」

「意味なんてあるかよ」

「死神には、考える必要のないことだ」




 セコがどれだけ確信に触れようとしてるのか、同じ考えを持つカツには容易く分かる。


 ただ与えられた役割を熟していれば、それだけで良いのか? それで本当に、やり甲斐を、生き甲斐を感じられるのか?



 ここまで言っても尚、直ぐに結論を出そうとしない長たちに、カツはもう待つ事なんて出来なかった。




「だったら、やっぱり僕は行きます。神様を殺すとか生かすとかではなく、理由を聞きに行きます。どうしてこんなことをしているのか」




 無差別に命を奪う理由を聞きたい。納得出来たから見過ごすとか、納得出来ないから止めるとか、そういう単純な思考ではなく。



 純粋に知りたかった。



 神様が何を考えているのか、ただ知りたいと思った。







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