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不思議と国とアリス  作者: かのえらな
【♣】翠と国のアリス【♣】
9/14

最初の夜―――後篇



 「これが私たちの世界のバランス。

 こうやって互いを牽制することで自国に敵国が侵入されるのは勿論、

 【決闘(ゲーム)】に持ち込まれること自体を避けてるのよ。」


 アリスの口調はどこか説明慣れていた。

 おそらく過去にこの世界にきた新参者を何人も案内してるのだろう。

 


 「それだけ強い力を持った【キングクラウン】なら、

 リーフリリアはどうなんだ? それなりの牽制力なんだろ?。」


 「勿論リーフリリアにもあるわよ。」


【リーフリリア】

 ・死生有命の権利

 所有者及び所有者の国民はゲームの駆け引き以外で命が絶たれることはない。



 なんというか。なんだかパッとしない。

 他の国は皆牽制力やゲームにおいても武器となる願いを具現化した力ばかりなのに、

 《ゲーム以外で命を絶たれることはない》

 というのはなんとも弱い感じがする。


 「不満そうだけどそれで私たちの国は守られてきたのよ。

 この世界では戦争による殺戮は禁止されてるけど。

 暗殺や単純な果し合いによる殺害は有効かもしれないでしょ?

 そういう言葉のあやのような揚げ足取で命取りになるのは避けたかったの。

 それにこういう風に明記しておけばこの世界の盟約のⅡ―――」


 「挑まれた者には拒否権があり、いかなるゲームやレートを開示されても避けることが出来る・・・か。」


 ゲームの盟約【絶対盟約六条(アブソリュートアリオンス)

を復唱し彼女の意図を汲み取る。

 だが先ほどから自分たちで決めた世界のルールという割にはどこか他人事のようにも聞こえる。


 「だからあのミレディとの一戦私は殺されなかったのよ。

 正確には殺せなかっただけど。」


 「で。ついでに俺の命をゲームの賭け皿に乗せれば盟約そのⅵが適応され、

 ミレディって王は俺という賭け品を簡単に殺せないって算段だったわけだな。」


 先程のルミクの言葉を思い出す。


 「でも最近スペードファルシオンがかなり交戦的で、ハートレリアによくゲームを挑んでるのよ。

 加えて何故がゲームに直接関係のない兵力も日に日に力をつけてきてる。

 また何等かの方法を見つけて戦争を起こそうとしてるんだと思う。

 せっかく戦争のない平和な世界が作られたのに・・・」


 アリスはテーブルの上のマグカップの柄を握り閉める。

 それは震えとなり、ユウマ前にも置かれたラテの表面が小さく波紋を作る。


 恐らくハートレリアは隣国から迫る見えない脅威に()てられ少しでも対抗策を講じようとリーフリリアを手中に入れようとしている。


 「でもリーフリリアにはゲーム拒否権がある上にゲーム以外で命を失うようなことがないならほぼ無敵じゃないのか?ピンチ要素ないだろ?」



 「そこで誘拐よ。

 ミレディはルルティア姫を国境付近に呼び出して自国に誘拐してるのよ。そうすることでリーフリリアの王の命と王政権を賭けた戦いを強制的に行わせるの。」


 聞けば過去4回姫様はハートレリアに誘拐されているという。

 どこぞのキノコ王国の桃姫様かと思ったが、

 どうやらその4回はすべて強引なものではなく、

 話し合の場を持ちたい、相談に乗って欲しいなどと言われ、

 一人隣国に侵入してしまうという。

 相手国の領土に侵入してしまったら相手国の王政権の効果範囲内に入ることを意味する。


 その都度、姫を助けるゲームでアリスは王政権を賭け、

 ゲームに過去4回勝ち姫様の奪還を成功させているというのだからなんとも変な話である。



 「リーフリリアの姫様はアホの子なのか?」


 「失礼ね。そうじゃないわ・・・姫様は・・・優しいのよ。」


 アリスはいつの間にか肩を下しリラックスしている印象だった。

 先程のマグカップを割らんとする勢いだった握りも、今はそっと淵に添えられている。


 「優しいなんて理由で国民と国土賭けられるか普通?。

 俺が明日言ってやるよ!もっとちゃんと世の中のこと考えなじゃダメだってさ。」


 なんとなく王様に一言申すという発言はちょっとかっこいい気がした。

 ついでに少し冷めかけのアップルラテを豪快に一気飲み。


 口に広がるアップルの酸味の後にくる

 甘さ・・・

 そして舌を満たす甘さ

 ・・・そして甘い口どけ

 ・・・甘い・・・甘い甘すぎる!

 口の中が甘すぎて味覚障害になるかと思うくらい甘すぎて気持ち悪い。

 よくこんなものを涼しい顔で飲んでいられるな。


 そんなことはお構いないように上品にラテを口にするアリスはその容姿もあってどこかのお嬢様のようだ。

 ただしここは酒場、雰囲気などはない。


 「止めておきなさい・・・貴方じゃ勝てないわよ。」


 「いや勝つって別に喧嘩吹っかけるわけじゃない。話をするだけだ。」


 「話をするだけなら私だって従者だって何度もしてるわよ。もう行かないでってね。

 でも姫様の行動はどうあれ意志は固いの。

 止めるならゲームで勝って強引に言うしかないわ。

 とりあえず私もこれから用事があるし今日はもうお開きにしましょう。」


 二人は酒場を後にした。夜街は昼までの賑わいは無く、

 等間隔のランタンや民家の玄関先の松明で淡く染められ石畳みは影を作りながらも足元を飾る。


 歩く道中自分が今夜寝る場所の話を聞いた。

 森の中のとあるログハウスらしい

 この国は人間が住む【城下町】

 そしてその先のはなれでは農業が行われている。

 それ以外は森林が広がりその森の一部を

 半獣種(ガジュード)が生活拠点としている。

 自分がこれから向かうのはその生活拠点区域の森の中。

 そしてそれらを高い外壁で囲んでおり、リーフリリアの王都と呼ばれている。


 丁度その森の入口に入ろうとしたとき一つ気になったことがあった。

 森の入口に横一列に柵が打ち付けられていたのだ。

 柵の作りは丈夫だが所々錆びている。察するに大分前に作られたものだろう。

 柵自体は高さは無く超えようと思えば容易だが、

 森と町から少しは離れただけなのに何か決定的に柵の向こうは空間が違うような、そんな気がしてならない。


 「これは?」


 あっても無くても同じような鍵の無い格子戸を開くアリスに問う。


 「ここから先は半獣種(ガジュード)の生活区域よ。」


 聞けばリーフリリアの人間は半獣種(ガジュード) と不仲という。

 だが、双方が互いにという訳ではない。

 半獣種側は人間を嫌っている訳ではなく、

 人間側が彼らとの共生を良くは思っていないのだ。

 その理由は諸説あるが明確な理由は、

 過去の対戦において半獣種が大きな戦果をあげたこと。

 当然リーフリリアを救った救世種ではあるがその象徴はアリス。

 その他加勢組に分類されるのが彼らだ。

 高い兵力であるスペードファルシオンの兵力をも打ち負かす種族がいれば心強いがそれが人間ではないという事実が、人の恐怖心を煽る。

 ましてや人間と違い身体に特徴がある半獣種ともなればそれらは

 マイナスな印象になりその恐怖心に拍車がかかる。

 その大戦後、

 半獣種の要望によって同じ王都ので生活が先代国王に認められ今に至っている。

 アリスや現国王のルルティアも半獣種との共生を国民に訴えてはいるが、

 英雄や王姫の言葉と言えど自らの命の尊守の前では届きはしない。


 そんなうやむやな惨状がこうして差別出来ない差別の形

 ―――高くない柵とし具現化されていたのだった。




 「見えてきたわ、中のものは好きにに使っていいから鍵は開いてるし後は勝手に休んで。じゃあ私は行くから。」


 彼女の視線の先には木々の間から差し込む月光の輪を1人占めをしているログハウス


 「想像してたよりちょっと立派な家だけど誰か住んでたりしないよな・・・」


 ここは半獣種(ガジュード)の生活区域。

 話を聞いていてわかったが半獣種には、

 ネコ科のような鋭い牙や爪をもつ者もいると聞いて、

 正直少し怖い。ましてや人間と不仲と聞けば尚更だ。


 「ここ何年も誰も住んでいないわよ・・・今はもうね。」


 そういうと彼女は簡単に別れを済ませ森の闇へと消えていった。



 ユウマはログハウスの小さな昇降板を上り扉をおそるおそる開くと入口脇のカンテラにマッチを付け中を照らす

 質素な作りと家具が置いてあった。

 石膏で組まれた暖炉、

 その前に置かれた木目調のロッキングチェア、

 フローリングに敷かれた目に優しい深緑のカーペット、

 4段式の木タンス。

 だがどれも埃をかぶっていない。

 それだけじゃない、出窓に寄せた配置のベットは大きく膨らみシーツも新しさを伝える白


 「誰も住んでないんじゃないのかよ・・・

 誰か住んでたら完全に不法侵入だぞこれ・・・」


 首をすくめ様子を探りながら中へと歩を進め、

 燭台に火をくべるとようやく室内は明るく温かみのある空間が広がった。

 生活音なし、生活臭なし、もの影なし、戸締りよし


 部屋を一通り見て誰もいないことを確認したユウマは大きく一息つくと思いっきりベットに全身を投げた。


 全身が羽毛布団に飲まれる、

 抵抗する力も体制を変えようとする意志も重力に沈むベットの奥底に落ちていく。

 入れ違いに入ってくるのは圧倒的な疲労感。

 思えばここに来てから神経をずっと使っていることに気が付いた。

 知らない世界、慣れない情景、もといた世界とは縁のない物や行動。

 どれをとってもこの疲労感の理由に値する。

 その最もな理由は


「もーう無理だ・・・あんな行動派人間やるの。」


 ユウマはハートレリアの中庭に落ちてからずっと行動をしてきた。

 だがそれは疑念という意思がそこにあったから、

 もともとユウマという男は何でもやってみようというタイプではない。

 効率厨とまで言われた男が一つの事をを効率的に何度もシュミレーションはあっても、

 分からないことだらけの問題を手当たり次第に行動に起こしたりはしない。

 一つのことや事象について最善の答えをだすことは得意でも

 一つの事象とはどういう事象なのか一つ一つ調べるなんて非効率な行動は得意ではないのだ。

 探究心はあって探求心はないのだから、

 慣れない今日のその非効率な行動は疲労の原核にあたる。


 とりあえず明日は最低限のことをしてぐうたらしよう。まずは城で―――


 意識も疲労とベットの暖かさに飲まれユウマは深い眠りへと就いた。

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