最初の夜―――前篇
「まずはどうやって生活していくかだよな」
薄汚れた木椅子に腰を落とす。
リーフリリアで一番繁盛している酒場で今後の生活をどうしたらいいか考えることにした。
異世界と言ったらギルドで簡易クエストでもこなしながら、
魔王なり強大な竜を倒す力をつけていくものだが、
そんな魔王様はここでは農家大好き人間。
奥の席で自分の収穫したトマトを
「血潮を受けた鮮血と悪魔の果実」
などと配下らしき他の悪魔達に自慢をしている。
ギルドがないなら酒場で一杯やりながら、
なんて流れが実に冒頭の勇者っぽい。
そんな気持ちでここに来た
「住む場所は確保してあるからしばらく使いなさい。
後は自分で働いて生活費は確保しなさいよね。」
向かいの席に座るアリス、
周りの席のむさくるしい男や、
派手な格好をした女性ばかりの為、
彼女の存在はいつになく浮いて見える。おそらく自分の黒服も浮いているだろう。
だが、周りはそれを特別見るようなことはない。
「いらっしゃいアリス、ご注文は?。」
メモ帳を片手に黒のエプロンをかけた女性が尋ねる。
アリスより1つか2つ上くらいだろうか動きやすそうに髪が短く茶髪の癖毛。
酒場の賑わいに負けない大きくはっきりした声からは仕事が板に付いてることを感じ取れた。
「私はアップルラテでいいわ。」
「またまたかわいいのをー。・・・んでアンタは?。」
「え?あ、俺は・・・」
そういえばメニューを知らない、
それ以前にお金がないことに気付いた。
こういう時は異世界人が出してくれたり、
ゲームなら少しばかりお金がもらえたりするものだ。
こんな時は少し申し訳ないがアリスに
「彼は文無しだから何も出さなくていいわよ」
「あ・・・そう。」
男としてのメンツが丸つぶれである。
流石に初めて入る店とはいえ、ちょっとした見栄で
あたかもよく来てます雰囲気を出して何気なく入ったが、
メニューがわからず。さらに店員に文無しとばれる。
不思議そうな顔をされてしまっているが何も言い返せなかった。
「それはそうとアリス、また姫様助けに行ったんだって?
アンタも大変ねー、それでまた旅先案内人でしょ?よくやるわよ。」
「別に慣れてるしいいわよ。それに今回も楽勝だったし。」
「何が楽勝だよ、あんなに悩んでたくせに!」
釈然と答えてみせるアリスに横やりを入れるが彼女の顔色は変わらない。
「別にいなくても平気だったわよ!、
それより私のおかげで殺されずにすんだんだから感謝なさいよね。」
「それは俺のセリフだっての!
大体この世界は殺戮禁止なんだろ?
だったらむしろ俺は巻き込まれただけであんな馬鹿げた裁判なんてでることもなかったろ!。」
「おっと、それは違うぞ青年!。」
注文を聞いていた茶髪のウエイターがテーブルに片腕を付き出し身も乗り出して割り込む。
「アリスはキミの命を賭け皿に乗せることで殺されることを防いだんだだよ。
こう見えてアリスは面倒見はいい子だからね。ちゃんと御礼をいうんだゾ。」
「・・・ルミク?。」
アリスの鋭く滑らせた横目に彼女―――ルミクはわざとらしくびっくりしたという身振りを見せる。
「おおっといけない仕事仕事!じゃあ青年ごゆっくり!
あ、でも文無しはだめだよ?今回はサービスしとくからさ!」
「青年なんて呼び方はよしてくれ、ユウマでいい。」
後ろ足で下がりながらルミクは答える
「おお、私はルミク、この酒場の美少女看板娘!
仕事でお困りならうちにおいで!んじゃねユウマ。」
ルミクは手に持ったメモ帳を旗のようにひらひらと手を振ると人ごみへと消えていった。
「・・・御礼した方がいいのか?アリスに」
「いらないわよ、別に・・・」
「でも俺の命を賭けたのってアリスの意図だったとは・・・」
彼女に返事はない。テーブルにアップルラテの注がれたマグカップが届くとアリスは再び口を開く。
「まあ、人助けをしておいて悪者扱いされるのも嫌だから言うけれど、
ハートレリアでは人は殺されるし殺せるわよ。」
「だって殺戮禁止の平和な―――」
「殺生与奪の権利」
アリスはカップを手に取りに上品に口をつけると変わらぬ態度で話しを続けた。
「姫様も説明した三つの王政制約権このうちの一つハートレリアの
【キングクラウン】の力でこの世界の殺戮禁止の制約を彼女は・・・
いや、あの国は無視出来るのよ。」
「4大国の王様がそれぞれ持つ三つの力のことだよな。
でもそれじゃあゲームも盟約の意味ないじゃないのか。」
アリスはわかるように丁寧に説明してくれた
各国の持つ王政制約権は三つすべて限りがある。
特に一番力の強い【キングクラウン】は、
世界の制約そのものを捻じ曲げる力を持っているが、
効力が発揮されるのは
【所有者の自国内】と【所有者自身】
のみである。
ハートレリアを例に挙げるなら、
殺戮行為が出来るのは自国のみで、
殺戮行為は可能だが他国ではそれは出来ない。
他国でするならそれは所有者に当たるミレディ一人しか出来ないのだ。
そして同じように、
【スペードファルシオン】【ダイアモンドダイス】にもキングクラウンの力が明かされている
【ハートレリア】
・殺生与奪の権利
ありとあらゆる生命の命を扱う権利は所有者にある。
【ダイアモンドダイス】
・我価値高奉の権利
ダイアモンドダイスにおける全ての財産は他国より、
万物の価値が二倍となる。
【スペードファルシオン】
・絶対不変の権利
どんな力や能力もこの権利の前では、
この権利の所有者も含め、皆対等に与えられる、もしくは平等に使えなくなる。