【知恵競べ】《サジェスト》
【知恵競べ】《サジェスト》
ワートンダイスランダーで親しみのあるゲームであり、
子供から大人の喧嘩や決めごとでもよく行われる庶民的なゲーム。
ルールは簡単、お互いにクイズを交互に出し合い、
解答者が間違えるか回答が出来なくなるまで続けるというゲーム。
例として、
出題者(A)はクイズを出題、解答者(B)が答え、
正解なら、解答者(B)が【アドバンテージ】(リーチ)となり、
次に問題を(B)が出題し(A)が答えられなければ(B)の勝利。
(A)が正解の場合は振り出しに戻るというもの。逆の場合もまた然り。
平たく言えば野球の延長戦のようなものである。
出題出来る問題に決めごとがなければ自由だが、
出題者側は、
【常に答えが変化し続けるような問題】
【答えの存在しない問題】
【答えを証明や解析できない問題】
を出題した場合はペナルティとなり即負けとなる。―――
「お先にどうぞ?」」
金髪に隠れた耳を肩に寄せるアリスと自分の周囲は、
いつの間にか、カラーライトに照らされたように薄い緑の光が一帯を包んでいた。
これは【愚者の円卓戦場】による空間閉鎖で、
今回はこの空間そのものがゲームでありのボード上なのであるとアリスは言った。
「なら遠慮なく!行かせてもらう」
先方・ユウマ
「六面のサイコロを三つ投げて全部同じ目が出る確率は何パーセ―――」
「2.7パーセント」
まずは小手調べに数式から・・・
え?探り合いに持ち込む前に即答で答えられた。勿論正解である。
ゲーマーと【ファンタズマ】のチームメンバーから言われ、
何をするにも効率を求めすぎた為
いい意味でも悪い意味でも効率厨と呼ばれた所以がここに来て武器になるとは思ってもいなかった。
問題であるサイコロはゲーム内でのモンスターのアイテムドロップ率の応用で、特別ユウマは頭が良いわけではない。
だが即答されるとは想定外だった。
出題権はアリスへ
「8枚のコインがあります。うち一枚が偽物で他の7枚のコインより軽いです。
偽物を見破るために天秤を使って測る場合、
最低何回計れば偽物がわかるでしょうか?」
ユウマは拳を肘に押し当て一考する。
普通に答えれば三回測ればいい。
コインを“4-4”で測り、
浮いた方の四枚で、“2-2”で測る。
最後に浮いた二枚を“1-1”で測れば浮いた1枚が偽物と分かるからだ。
だが3回と答えるのはいささか気が早い。
なにしろ確率の問題を暗算で即答するような相手だ。
小手調べにしては簡易的過ぎる
それに【最低】という点から簡単にわかる3ではないならば―――
「答えは二回だ」
「どうやって二回で偽物を割り出すの?」
眉を高くし少し得意げなアリス
「仮説法で割れる。
まず、“3-3”で測る。
この時、天秤が釣り合った場合は6枚が本物だから残りの測っていない2枚をそれぞれ天秤に乗せる、それで浮いた1枚が偽物。
もしも最初の“3-3”で傾きが変わった場合は、
浮いた方の3枚を次の天秤で測る、
このときも3枚の内“1-1”で計る。
釣り合えば計っていない一枚が偽物。傾けば浮いた方が偽物だ。」
ユウマは少し得意気ば顔で答えた。
よく使うゲームで追加された未知のモンスターとの戦いで弱点属性を割り出す際に似たような仮説法を思い出せてよかったと内心ほっとしている。
「ふーんもしかしたら、脳みそ入ってるのかもね」
「いや!もしかしなくても入ってるわ!俺を何だと思ってんだ!」
こうして攻守交代を繰り返し互いに問題を出し続けた。
数式、なぞなぞ、ひっかけ問題、
4つの関数を用いる難問もあれば、
分かれば「それだ!」とすっきりするような楽しい問題まで、
幅広いクイズゲームは熾烈を極めること35問。
ようやくゲームの流れが変わる。
ここまで来ると流石に出題側でさえ問題に悩んだ。
だが得られた情報も多い。
問題を出しながらユウマはアリスの特徴をそのゲーム脳を持って考察していた。
数式に関する問題では、
とても暗算では出しえない答えを彼女は早押し問題かのように即答で答えている。
また彼女の出題問題の傾向として数字がよく絡んできていることから彼女は理数系に強いことがわかった、それも異常なまでに。
だが、逆に道徳的や、感情論を挟むような問題でよく悩む。
例えるなら、数学は出来ても国語は苦手、という具合だ。
そこまでわかれば感情論だけで正解パターンが一つ
それでいて相手を納得出来る問題を出せばいい。
それがこれだ
「一つのホールケーキがあります。
これを二人の兄弟で分け合うようにと母親から言われ、ケーキナイフを渡されました。
ですがこの二人の兄弟は空腹でずるく、
いやしいのでどちらも相手より多く食べたいと考えています。
では、二人が喧嘩をせずお互いに文句もない納得のいく分け方をするにはどうしたらいいでしょう?」
「弟をナイフで刺して兄が―――」
「待て待て待て!」
ダメだろそんな非人道的な発言は
仮にも勇者なんだから、女の子なんだから!。ましてや即答とはこれいかに。
「それだと喧嘩はなくても弟が納得出来んだろう」
先程まで計算で悩むような考え方をしていたが、今回の場合は違った。
明らかに考えがまとまっていない。
眉を眉間に寄せ口がへの字になっている。黙っていれば本当に可愛いのに。
と、一考のち
「大体母親が悪いでしょその問題!」
「え!?」
「だって二人とも空腹なのケーキって育児放棄もいいところじゃない?、
それに普通切り分けてあげたらいいじゃない。
どれだけめんどくさがり屋なの?」
問題の解けない苛立ちをまさか母親に向けられるとは、
「と、とにかく二人を納得させる切り分け方、わかったのか?」
「お兄ちゃん権限みたいなのはだめ?
それなら弟も納得するでしょ?切った後小さいほうが弟の分みたいなやつ」
「あ、もうそれでいいのな。それがお互いに納得出来る切り分け方って答えね?」
流石に35問もやってきていると早く戦いを済ませたい気持ちも強くはなってくる。
アリスは自分で出した答えに、
納得は言っていない様子で何度も考えたが。
どちらも多くいやしいというキーワードが引っかかり答えが出せす、
渋々答えを聞く。
「正解は、兄がケーキを切り分けて弟がケーキを選ぶ。でした。」
「・・・そんなの弟が多く切られた方選ぶわけだし弟しか得しないじゃない?だって切り分けてもらってから好きな方を選べるんだから。」
「だから兄は全力で綺麗に半分に、正確に切り分けようとするだろ?
サイズが不平等なら小さい方を食わされるのは自分なんだから。」
あ、という顔。
感心するのもつかの間、ここにきて負けたことを思い出し、彼女は反撃に出る。
「さ、さっきから変な問題ばっかり出してきて、いいわ!私もとびっきの問題出すんだから。」
出題権は後がないアリスへ。
「歴史問題よ。
この国の先代国王ファフニールは9年前隣国【キリトネ】に行き、
(○○○○○○○○○○)
した。
その後互いの国の友好関係は強くなり現在に至るまで数少ない貿易関係国になりました。
この空欄にあてはまる空白の歴史を埋め、真実を答えよ。」
答えは
「キリトネ国王と会談、キリトネに流れる大河を利用しての水産貿易交渉にに成功」
当然真実の答えであり、答えの証明は城の書物に書き記されているので問題はない。
ここに来て日のないユウマが知りえない答え、
当然国民は皆知っている常識問題。
勝ち方としては多少汚い部分もあるかもしれないと気がが進まない出題ではあったが、
この世界は勝者が正義、正義は勝つのではない、勝つから正義なのだ。
そう世界の理を自分い言い聞かせる。
「私と勝負をした時点で勝敗は決まってたのよ。
貴方の歴史問題はここでは証明出来ないし、貴方が出せる問題は数字を使う問題か謎々に限定される。
使える知識の数がまるで違うのよ。」
目を強くつぶり、小さく呻くユウマを見て緊張を解く、
それは彼が初めて苦悩する姿、
もしかしたら、と思っていたが流石に分かるわけがない。
アリスはひとまずの勝利を確信した。
「騙し合いの世界なんだって改めてわかったでしょ。
でも、流石にハンデが強すぎる問題だから、
ヒントくらいならあげるわヒントは―――」
「答えは【ま】だ!!!」
ぎっちりと瞑られていたユウマの瞳が大きく開く。
一時の静寂
「なによ、【ま】、ってそれ答えなわけ?
答えはおろか文章でもないんですけど。」
期待外れの答え、
そもそも答えられるなんて思っていなかったが、
征服したとか、会議に出席しただとか、
そんなありきたりの答えを待っていた為、変ながっかり感がアリスの肩にのしかかった
「いやここの世界の歴史問題で起きた真実を答えたらいいんだろう?
じゃあ【ま】!!だ!文章ではないが答えにはなる。」
「あっそ、不正解。だって【この国の先代国王ファフニールは9年前隣国キリトネに行き、(ま)したってそんなふざ・・・け・・・」
問題と解答を照らし合わせ気付く
「ほら!答えは行きましただ。真実だろ?」
「ちょ!そんなふざけた答え―――」
「真実を答えろってしか問題に出てないだろ、
よし俺の勝ちだ願い事は何にしようかな」
頭の後ろで手を組む
気が付けば【【愚者の円卓戦場】による空間は消え、
辺りは先程と同じ夜の闇が広がっている。
それはゲームそのものが勝敗を決定したことに他ならない。
意味するのはアリスの敗北。
「またそんないかさまで勝つなんて・・・」
「騙し合うゲームなんだろ?騙し合いもいいけどゲームってもっと楽しく思った方がいいぞ。だってゲームなんだから。」
ユウマは夜街へと歩き出した。
城内とは変わって今度がアリスがユウマを追う
こうしてこの世界の最初の夜が始まった。