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不思議と国とアリス  作者: かのえらな
【♣】翠と国のアリス【♣】
4/14

大森の姫君

―――世の中は記憶ゲーで作られた作業げーによる無理ゲーだ。


 世界には数えきれない文化があって、覚えきれない言語と数式で出来ている。

人一人の記憶力というは全く持ってそれに敵うことは出来ない。

 

 だから方程式や法則を生涯にわたってもちい、それらで知を束ね、

数多の知の糸を織り交ぜることでまとくくる。それを知識と人は自覚なく認識している。

 

 そうして出来たモノの一つ【ゲーム】だってそうだ。

 今や文明の利器は繁栄の一途を辿り、

電子世界にまで進出したキャラクターでさえ知識を使わなければ先に進むことは出来ない。

 使わずとも進もうものなら知識のある者より苦渋の道を歩む事を余儀なくされる。

 

 例えばモンスターを協力して倒すゲームなら、

モンスターの弱点部位や属性、モンスターの特性を知識として理解し武器として使わなければならない。

 

 モンスターを育て戦わせるゲームなら、

来るべき場面や敵、状況を把握、想定し育て上げなければ戦果は挙げられない。

 

 プレイヤー同士で撃ち合うゲームなのであれば、

地形マップを把握し、相手の行動パターンを掌握し、エイムと呼ばれる操作を体にも教え、

シュミレーションすることで勝利への方程式を何度も行う。

 

 そういった決められた性能と情報という手札で駆け引きが行われ、初めて戦略と呼べる。

自分が考え編み出した戦略で相手を負かし、また負かされることで当然勝敗が生まれ

それらをかてとし、また上を目指す。

相手に勝利したとき、それは他の誰でもない自分で自分を認め称えることのできる喜びがあった。

日常生活において誰かに何かを認められたことを自覚したことがないユウマにとっては自分自身の存在意義を確認出来る唯一の方法でありその喜びは計り知れないものがあった


当然敗北もあったが、勝利への憧れの前では挫折や落胆をしている時間すら惜しく

敗北から学ぶことこそが勝利への近道という持論を持つことで苦渋に感じることはなかった


 だが現実社会は違う

勝敗もわからず、終わりやゴールが見えない理不尽で退屈な世界だ。

努力は他人の気まぐれで評価が変わり、平等に配られた不平等で成り立つ社会では

同じ努力でも容姿や、評価者のご機嫌取りで優劣が変化する。

自分の納得のいく評価でも常に誰かと比べられ望んでもいない優劣を押し付けられる。

好きでもないことを強要され、やめれば逃げたと後ろ指を差される

現実という人生ゲームはとどのつまりクソゲーなのだ



前述に話を戻すがゲームは 人、時間、確率、によって戦略を変えることが出来る、生き方、進み方が出来る自由でどこまでの自己満足の世界が何より楽しかった。

 だからこそあらゆるゲームで上位ランカーを首位することが出来ていた。

 さしずめゲームは情報戦、戦いとは戦う前から7割は決まっているといってもいい。残りは技量、運、そんなところだろう。

 よくやっていたオンラインゲーム【ファンタズマ】の仲間の一人、

 『かのちょろまつり』とキャラクター名のつけられた彼がよく言っていた言葉だ。

 そのゲームでは自らの理想に似せたキャラクターを育て、

 モンスターを倒すのは勿論、

 プレイヤー同士で戦うことも出来る本格協力アクション系RPG。

 そんな協力ゲームで一人仲間も作れず高難易度ダンジョンに挑み、

 【装備破損】、【武器大破】、【アイテムポーチ】もロスト寸前の瀕死の弱小プレイヤーの自分を助けてくれたのが彼だった。

 それ以来、彼の率いるギルドに所属し、ゲーム技量の無さを情報収集部隊として動くことで一躍そのギルドを名の知らないものはいない強豪ギルドに仕立て、諜報員の地位を確立出来たといえる。

 もともと、敵のデータや最短ダンジョン攻略ルート、マップ解体といった情報集めが好きだった自分としては地位はゲーム内に置ける天職とも言っていいだろう。

 それからというもの、そのゲームにのめり込み、

 五年がたった頃にはその強豪チーム副リーダーを任される程にまで上り詰めていた。(それでもエイムや操作性といった技能は全く身に付かなかった)

 持ち前の情報収集は他のゲームでもめざましい成果を上げ、

 メモ用に取っておいたブログの書き込みはたちまち攻略サイトになる程だった。

 おかげで夜はゲーム昼は学業そっちのけで睡眠、昼夜の逆転生活が出来上がる為体。

 そんな自分に両親の関心は日に日に冷め、

 気付いた時には口出しはおろか挨拶一つしなくなっていた。

 今更そんな前の世界を思い出して、どうなのだろう。

 よく異世界に飛ばされた勇者や主人公は元のいた世界に帰る為に奮起する物語を耳にするが、

 今の自分がもしその立場にあるなら自分の世界に帰って誰かが心底喜んでくれるだろうか・・・

 まあ、そんな悲しいことは無しとして、

 やり残したゲームの攻略や敵モンスターの能力値グラフの制作が半端なままなのは名残惜しいところだが、

 退屈と窮屈だらけの毎日とは決別し、

 今までの常識が通らないこの情報未開拓の地を見て見るのはちょと面白いかもしれない。―――

 

そう思ったのはここ、リーフリリア森王国、第七階層応接室西の大部屋と呼ばれる白を基調とした大部屋に招かれてからのことである。

 ここへ帰る道中、平坦で何も面白みのない小道を風景に、

 リーフリリアの女王様が寄越してくれた迎えの馬車の中で、

 アリスから森と共に繁栄を気付いてきた国に向かうと聞いていたので、

 小さくこじんまりとした国だとばかり思っていたが、

 その想像の遥か上をいっていた。

 馬車を降りれば平原から一変、

 黄土で練り建てられた沢山の建造物や市場が立ち並び、

 外国の中世を思わせるような光景だった。

 当然中世はおろか外国など行ったことはない。

 冒険ゲームかなんかで中盤でよくある栄町、

 そんなイメージぴったりの賑わいに溢れる城著漂う町だ。

 白い巨城への通りは長く広く、横に構える建造物は同じ黄土色のブロックで整えられている。

 それはこの世界の治安の良さを示していた。

 人も多い、右往左往、沢山の人が忙しく動き威勢を挙げている。

 町を歩いてそんな繁華街が広がった王国だと思った。

 しかしこの城の従者(メイド服万歳)が案内してくれたこの城の応接室と呼ばれた部屋の大窓から見える景色は少し違っていた。

 太陽はすでに眠りに就こうと沈みかけてはいるが、

 町を囲み何者も通さんとする城壁が囲っているのは町だけではないことが確認できる。

 歩いてきた城下町以外は一面木々に埋め尽くされた森だったのだ。

 木の葉たちは西日を受け群青を捨て赤く燃えている。

 そんな防壁に沈む夕日を見送っているとこの部屋の扉が開いた


 「どう?素敵な町でしょう?」


 窓からの黄昏をそのまま映したような瞳、アリスだ。

彼女は丁寧に扉閉めると傍らで同じ景色に身置く。

 ミレディとのあの一戦以降この世界について色々聞いてみたが、


「人の話聞かないから嫌よ」


 と一蹴され、目的地であったこの国の話しかしてくれなかった不機嫌な彼女だったが、夕日に照らされる彼女はやはり美しい。

 同時にこの女の子が命を賭して守ったネフェニルという者にちょっとした苛立ちも思い出す。

 せっかく死の淵から救ったにも関わらず自分は勝負が決してすぐに迎えが来たらしく、

 顔を見せるどころか礼も無く自国に先に帰ったというのだから。

 その話を赤い兵に聞いてから顔色一つ変えず適当に相槌を打って帰ることを決めたアリスにも納得できていないところもある。

 この世界はお礼という常識概念がないのだろうか。


 再び扉が開く、メイド達が何名も入ってくると、客間の中央に設けられた部屋いっぱいに陣取る長机に収められていていた椅子を引き、座るように促してきた。

 二人は席に着くと、メイド達に紛れて一人見覚えのある姿。


 「ただ今参上つかまつりましたぁ!」


 明るい声、語尾に垂れる甘い変声。リーファだ。

 この静粛な場でも身振りそぶりは控えることを知らない。

 敬礼の手振りでアリスに一礼をすると従者が引いた椅子に宙返りでぽふんと座って見せる。彼女からは笑顔が零れていた。

 アリスは彼女の一連の動きを毎度のようにという口調で止めるよう説得。

 その後。


一室の隅に並んだメイド達の一斉の平伏を合図に、三人の招待者が入場してきた。

 アリスと同じくらいの年齢だろうか、髪もアリスと同じくらい長い、しかしその色は金に近いがそれにない秋穂のような柔らかい芒色(すすきいろ)

こめかみから降りた毛先はゆるくカールし、

 それを模するように髪全体がゆったりとした巻き髪に彼女を包んでいた。

 銀にも見える白いドレスはさながら一国の主、

 そうでなければ絵に描いたような御姫様、その形そのものだった。

 それを証拠に頭にはシルバーの小さなティアラが夕日を受け金色に輝きを放つ。


 メイドの達の制令とその風貌にユウマはすぐさまリーフリリアの国王と解し た。

 しかし一国の王として少し頼りない小さな体躯だった。

体に合った小さなドレスのショールでも華奢な肩を晒しても。

 上品な純白のセデュースはまず他の女性では入らないであろう、細い腕と小さな手が前で組まれている。

 

 「この度は、リーフリリアの危機を救ってくださりありがとうございます。」


 何処かで聞いたことのあるような感謝の定型文。

 しかしその声は澄み切った涼風のように静かさと気品に満ちた、先例のない鮮麗な声だった。

 音も立てず頭をさげる彼女におずおずとユウマも頭を下げる。

 引かれた椅子にメイド微笑みかけながらゆったりと座ると彼女は続けた。


 「まずは自己紹介が遅れてしまったこと、お詫びいたします・・・私はルルティア・アークダイト・ネフェニル。

リーフリリアの国王であり《ラプソルティズン》の所有者を務めさせて頂いています。

名前も覚えづらいですし皆様からはルルと呼んで頂いていますのでユーマ様も気軽にルルと御呼びくださいませ。」


 彼女―――ルルティアは親しげなニュアンスで微笑みかけてきた。

 自らを王と名乗っていながらも威厳や厳格なもの言いは一切なく、

 ただ年頃の女の子が上品な姿で親しげに話しかけてくる。

 そんな緊張感のない雰囲気にユウマは少し戸惑う。

 しかし戸惑いもつかの間、閃きが脳裏に繋がる。


 「ネフェニル・・・え?ネフェニルってあのミレディって人に捕まってたあのネフェニル?」


 「はい!この度はアリスの命、国の存亡、そして私の命まで御救い頂き勇者様には感謝の気持ちでなんと御礼をもうしあげたらよいか!。」


 にっこりと笑うルルティアにやはり威厳は感じられないが、

 ひまわりのような屈託のない笑顔は、胸の内にあった無礼なネフェニルという人物像を糸も簡単にかき消した。


「い、いえ!俺はたまたま居合わせただけでそんな勇者だなんて。」


つい目をそらしてしまう。

 人に直接感謝されるなんてしばらくなかったため、その不慣れに嬉しさよりも恥ずかしさのが強い、

 可愛らしい少女からの誉れとなれば尚更だった。


 「そうよ姫様、彼はたまたま居合わせただけで勇者でもなんでもないです。別に私だって一人でもどうにか出来ましたし・・・姫様が頭を下げるなんてことしなくても。」


 慣れないときめきに、ここに来てから慣れた嫌味を投げるのはアリス。


 「ですが私が彼に命を救っていただけたのは事実ですし、お礼もまだしていませんでしたので、せめて今晩夕食だけでも御一緒出来ないかと・・・召喚される前はどんな武勇の中で生きておられたのか、御話なんかも聞かせていただけませんか?。」


 明るく涼しげな口調から後半は興味に色を変えた楽しげな口調に変わっていた。

 前後の両扉からは先程のメイド達がサービスワゴンに乗せた色とりどりの料理を運んできては、テーブルに並べ始めていた。

 彼女は合わせた細い手を合わせ瞳を閉じるとさらに雄弁に思いを馳せ始める。


 「英雄様といえば、どの書説を読んでも強く勇敢に敵に立ち向かい困難を乗り越える者と存じています。魔法に宝剣、怪力、仲間を導くカリスマ性、どの主人公も素敵な方々ばかり・・・

ユウマ様も英雄の身でありながら召喚に呼ばれたということはどんな不思議な力を御持ちなのかとずっと気になっていたんです!。手から電撃?実は闇の一族?ゴムのように体が伸びたりするのですか!?まさか!・・・最強の拳術の伝承者!?」


 姫の興味は思想から妄想に進化を遂げわからないことへの探求心で開かれた瞳は朝日のように燦々と輝き早口になっていた。

 

「いや・・・魔法とかは・・・」


先までの輝いた真っ直ぐな瞳がこうも心に刺さるものとは思いもよらなかった。

 どうやら彼女は本当にユウマにが特殊な力のあるものだと思っているらしい。

 それも漫画やアニメに出てきそうなチート能力ばかり、

 当然ユウマは一般人そんな【oretueeeeeeeee】的な異能は持ち合わせていない。

 期待に圧された眼差しに劣等感を感じずにはいられなかった。


 「まさか、最後の戦いで己の魔力をすべて使い切り今は新たなる旅の途中だったのですか・・・。」


 溢れんばかりの妄想の数々を口にしながらときめきと喜びの中で厨二感漂うフレーズ。

 だが当然彼女は悪ふざけではない。本気でそう思い本気で身を案じてくれている。


『ほんとは何もないの!ごめん!!マジごめん!』


 なんて言いたい喉元には唾を飲んで黙らせる。

 助け舟の視線をアリスに漕いでみたが、彼女ははこちらに目を配ることは無く、

 並べられた料理をナイフで小さく切り分け口に運ぶ度に、

 嬉しそうな顔を繰り返すだけでい一向に救難信号に気付いてはくれない。

 するとアリスの向かいに座っていたリーファが両手にフォークとナイフを握り、

何から食べようかと品定めをしながら救難ボートに津波を起こす


 「あ!姫様!ユーマ様は勇者じゃありませんよ!私が間違えて連れてきた一般ぴーぷるです。」

 

 救難ボート沈没。


 「おい!なんでこのタイミングでそんなばっさり言うんだよ!純粋な心を踏みにじってるみたいでどうしたらいいか考えてたのに!もっと普通、こうオブラートに・・・」


 オブラートを手で作りながら思考が一停する。

 今なんと?


 「もしかして俺を穴の中に蹴り飛ばしたのって!」


 「はい、わたひ、でひゅへど?」


 もぐもぐとおいしそうに野菜を頬張るリーファ


 「お前か!ウサギを追いかけてただけなのに!!」


 血相を変え席を立つユウマにリーファは慰撫傾げに続けた。


 「あ、ちなみにそのウサギも私です!」


 ゴクンと大きく飲み込み答える。


「じゃあウサギなのにあの挑発的行動はお前の仕業だったっていうのか!」


 あの日、ウサギをただ追いかけていたのには理由があったからだ。

 目の前にしゃべるウサギが現れてたと思ったらいきなりウサギに中指を立てられなんともいえない人を小馬鹿にしたような態度。

 それを追いかけたのがことの発端だ。


 「挑発?違いますよ!あれはあなたの世界に置いてあった書物

【喧嘩統一・河川敷の男達final】

に書いてあった

『相手をこっちに呼ぶ方法』

という挨拶の仕方をしただけです!。」

 

 自分なりに工夫した挨拶を挑発といわれるのは納得できないリーファは眉をしかめ不満気。

 相手を呼ぶということに関しては間違えていないが・・・この場合はなんというかそう・・・間違えている

 どう説明したら良いかわからないがそれよりも少し残念そうに瞳を伏せるルルティアにさらに頭を悩ませた。


「そうですか・・・すみません私の早とちりで・・・で!、でも世界は救えなくてもこうして私たちはユウマ様に御救い頂けた訳ですし私にとっては勇者様は勇者様ですから。だからあまり気を悪くなさらないでくだいね!」


 時に人の優しさはむなしくも悲しいものだと不思議な悟りが心の中で開かれ始めた。

いや、しかし

―――世界を救う?

 ゲームでのストーリーモードの最終目標としてよく使われるその言葉に興味を惹かれる。



「この世界何かピンチなんですか?」


 特に何のためらいもなく聞いてしまったが、

 どうやらそれは地雷を踏んでしまったようだ。

 一同食事の手が止まる。ルルティアはそもそも食事に手を付けていなかったが。


 「アリスから御説明はまだだったのですね・・・分かりました・・・

私がお話いたします。もともと勇者様には御話しし、御力添えを御願いしようかと思っておりましたから・・・」



ルルティアはゆっくりと優しげな声でこの世界の成り立ちを語り始める―――

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