表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議と国とアリス  作者: かのえらな
【♣】翠と国のアリス【♣】
12/14

開戦は花園の中で

 リーフリリア城中庭園―――


 寸分たがわぬ剪定された生垣と隙間なく敷き詰められたタイルの小道

 どこまでも規則的な造形物に白い花々がいろどりを添えられ中央には噴水も見える


 芸術性すら感じえる整えられた庭木達生垣の中心に4人の姿はあった。


 白花達に包まれたガーデンアーチと噴水がガゼボと呼ばれるガーデンテラスの存在を

より際立たせていた。


 「初めてじゃないですか?ここでお茶会するの」


 白の彫り飾れた椅子で両手の平を合わせ屈託のない笑顔のルルティア


 「あなたの頭の中と同じきれいなお花畑ね。火でもつけたらもっと綺麗になるのに」


 居心地悪そうに腕組み、中指に下唇を軽く乗せながらため息をするミレディ


 「どうして私がいない間にこんなことになってるのよ!」


小声で話してるつもりだがその耳打ちも周囲に駄々洩れのアリス


「わからん!、でもいいんじゃないか。戦争なんかになるよりずっと平和だ」


 実はこの場を作った張本人であるユウマ



 アリスは先程まで国民の避難誘導で慌ただしく動いていたのであろう

長い髪が少し乱れところどころ髪が跳ねている

 本人も自覚しているのだろう、時折手櫛で髪を撫でているが≪ぴょこん≫と跳ねるばかりで

女の子らしい仕草に少しだけ目を奪われた。


 広大で少し寂しさすら残るこの静かな花園で四人は丸テーブルを囲んだ。


 全てのゲームにおいてこの世界ではありとあらゆる遊具が際限なく召喚可能である。


 トランプであれば新品のものを何度でも。チェスなどのボードゲームであれば

木材、金属、ガラス、あらゆる材質、とサイズの指定が出来る。



 今回はトランプ


 この世界に罰として存在概念をゲームとして固定されたジョーカーの力は人々の生活の一部と化し生活に馴染んでいる様子だった。


 テーブルの上には花型にあしらわれたハイティーンスタンド

 そこからケーキや焼き菓子が並べられ、


 ルルティアがケーキを取り分けていると紅茶を注ぎ役をかって出ようとするアリスを


 「私が作ったのですから私がやります!」


 と少し拗ねた子供のように断り楽しそうに並べた。


 「紅茶なんてどうでもいいからアリス、あなたはカードをさっさと配って頂戴。」


 むすっとした顔がすぐに出るアリス。


 この中庭に向かう城中ミレディはいくつか条件を出していた


・カードをそれぞれ四か所に配り、その中から一番初めにミレディが選ぶというもの

・リーファはアリスの後ろにいる事。しゃべることも移動することも禁止とすること

・王政権に関わる全てをゲームの報酬の対象から除外すること

・ドローで捨てたカードは全て公開すること

カードの配当に偏りやイカサマの可能性を未然に防ごうと釘を刺し

加えて王政権を遵守する考えである。

アリスはそんな不正はしないと反論したがルルティアは快諾し渋々ディーラー兼プレイヤーとなっている。


 ルールはポーカー

 全員に10枚のコインが配られ参加料1枚を支払いゲームを開始する

配られた手札を確認し・ルルティア・アリス・ミレディ・ユウマの順に

今回はレイズ・コール・フォールドの三択のみで行う


増額レイズ

掛け金を選択し1回の勝負金を高く釣り上げることが出来る

例えば最初にアリスがレイズ5枚と宣言した場合、

アリスも含め参加者全員が5枚賭けの勝負を強制出来る。


参加コール

勝負に参戦をする宣言である。

先にも例を挙げたアリスがレイズ5枚の宣言を出した場合

コールを宣言すると5枚賭けの勝負に乗り自分も5枚賭けた状態で次の順番に回す


棄権フォールド

相手が賭けてきた勝負に対して自分の手札に自信が無い時、勝負が不利と感じた時にゲームを降りることが出来る宣言。

ただし初めに払う参加費、そのゲームでレイズ、もしくはコールで上乗せした金額は手元に戻らず

ゲームの勝者の手に渡る。


このゲームを5戦繰り返し最後にコインを多く持っていたものが勝利するというものだが

追加のルールとしてゲーム終了後に1ゲーム勝利ごとにコインを5枚獲得することができる



「命のやり取りもないんじゃスリルも興奮もあったものではないわね。」


ミレディは配ってもらったカードに悪態をつき肘をテーブルについて面倒さそうに手札をみた。


『このままこいつらの思うがまにされるのは納得いかない。』


ミレディはぎゅっとトランプ達にしわを作った。


 正面に座るルルティアとは何度か手合わせしたことがある。戦歴は五分五分。

さらってきた際、退屈しのぎに何度かゲームをしたが勝敗にムラがあった

 

チェス等のボードゲームには全く歯が立たなかったが

トランプとなれば何故かほとんどこちらに軍配が上がる。勝算は十分にある。


 横にいるアリスもルルティアを賭けた勝負で6度ほどしているが全敗している。

だがそれは1VS1の話、今回は他二人を出し抜き勝てばいい。

負けたとしてもラプソルティズンを失うことはない

正直なところ王政の存在を危ぶまれることさえなければ敗北を恐れることなどない。


ただ一人、ユウマと呼ばれる男、この男だけは野放しには出来ない。


先日の裁判で勝率100%の確信があったゲームで邪魔をし、計画を台無しにした男。

確かにあの時はへんてこな発想で負けこそしたが、馬鹿と天才は紙一重、この男がどちらなのか見極める為に

このゲームに乗ったというのが半分本音である。

ハートレリアの女王としてこれ以上、どこの馬の骨かもわからないような人間に侮られるようなことがあってはならない。


この男を見極め雪辱を果たす復讐心が自身をこの場にとどまらせている。

そうでなければ自分はこんなメルヘンな場所、鳥肌が立っていられない。


 「そのそもゲームは平和に恐怖のない世界が無いようにと作られた掟。

命のやり取りは本来世界が望むものではありませんよ。レイズ追加2枚で、合計3枚で勝負です。」


ルルティアはどのケーキにしようか悩みながらコインを中央に置いた


「命のやり取りを始めたのはダイヤモンドダイス。あの国はとてつもないスピードで成長している国であり全ての国で一番裏がありそうな国。出来れば関わりたくないけどどこかで対峙するときは来るでしょう。このまま放っても置けないし。コール、姫様と同じく枚数3枚で勝負。」


【命のやり取り】この場でそう呼ばれる行為とは、読んで字の如く命を懸けたゲームを意味する。

 リーフリリアでは禁止事項として国の取決めをしているらしい。

アリスは相変わらずの無表情でコインを置き、カップの紅茶に口をつけた。


ミレディ自身の手札はJが2枚のワンペア。参加費に1枚、レイズで2枚入れたら手持ちは7枚、

次のゲームのことまで考えれば仮にこの勝負に乗って負けた場合1位の者は3枚払って12枚得ることになる

ユウマという男が参加するかどうかはさておき残り7枚と19枚を持つ者との勝負は

倍以上コインを所有するもの方が圧倒的に有利。そのあとの2戦で全額宣言オールインなんてされては駆け引きもあったものではない。


 平和を主張する姫という割には全く勝負師な姫様だ。

様子見に棄権フォールドという選択肢もあるが降りることをハートレリアの王がするわけがない。私は下りない。


 「レイズ。掛け金4枚に変更。賭けで勝ち得る物に関しては一切興味もないけれど。ユウマ。といったかしら?お前には少し興味がある。私を退屈させぬよう取り計らえ」



 わざわざ名前まで呼んでやっているというのにこの男は中途半端に

「あ、どーも」と相槌をする始末、


『私を馬鹿にしているのか』

 目を細め男の心情を探るが奴は私の視線より自分の手札の方が気になるのか

こちらを一切見ようとしない。


『こちらに気取られないように表情を隠しているのか。それとも手の内を見せないようにしているのか。賭けた内容が曖昧なせいででゲームがどこまで本気なのかもわかぬ』



「じゃあ俺は全額宣言オールインで」


そういってユウマは配られたコインを10枚中央に置いた。


全額宣言オールイン

それは所持しているコインを全て支払い勝負を挑むということ


本来であればオールインは自信が他プレイヤーとの勝負の中でで跳ね上がった賭金が自身の所有する金額を上回り、コール、レイズすら出来ない時の苦肉の策として

『自分の有り金全部賭けるからゲームに参加させてくれ』

というもの

もしくは絶対に負ける手札ではないという確固たる確証があって行う必勝宣言

だがゲームにおいて必勝方なんて存在しない。

≪ブラフ≫だ

自分の手札がどんなに弱くても平等に勝ち得るチャンスがある。

それが嘘、ハッタリだ。

弱い手札でも嘘、演技一つで恐ろしく強い相手に見せる。


本来ゲームを行っていく中で個性や特徴をかぎ分け、聞き分け、見極めるポーカーで

初手オールインなどゲームとして破綻してるという他なかった。


 「あなたルールわかってるの?。一順した後で再度カードの引き直しが出来るのよ?

必要のないカードを捨てて捨てた分だけカードは山札から引ける。掛け金の引き上げなんて次の回からだって出来る―――」

 「別に交換なんて必要ないよ」


アリスが呆れた顔でユウマに助言するが、彼は眠そうに大きくあくびをするだけだった。


「ユウマ様はよほど強い手札なんでしょうか?私は長く楽しみたいのでフォールドを選択します。」


そういってルルティアは持っていた5枚の手札を裏に伏せ。少し残念そうにするのもその時だけで

お皿に乗せられたケーキをようやく食べれると至福の表情でフォークを取った。


「私もフォールド。こういう空気が読めない相手とゲームするのほんと苦手なのよね」


アリスもカードを伏せ肘をテーブルにつき不服そうに作った拳を顎に乗せた。


「空気が読めないとかいうな!ちゃんと考えてやってるわ!」


「ちゃんと考えているかどうかは手札を見た時にわかるわよ。それでハイカード(役無し)

だったらとんだハッタリ男だって再認識することにするわ」


「こればっかりはアリスに同感するわ。開幕でオールインなんて少し驚きはしたけれど私も馬鹿に付き合う気はないわ。このゲーム降りるわ」


ミレディは雑にカードテーブルに滑らせるように投げる。


「ミレディって名前ですっけ?私を楽しませろとか言っておいて結構ビビりなんすね」


「・・・今・・・なんて?」

ミレディは表情を変えずに眉だけをピクリと震わせた

三人からもらった9枚のコインを手元に引き寄せながら流し気味に言ったユウマの一言に

ミレディを含めアリス、ルルティアも少し驚いた様子で彼の言動の行方を探ろうと目を大きく開いた


「いや、だから胸の谷間とか出して大胆な感じで持ってる王政も威圧感あるのに

中身は普通なんだなぁって。おんなじ人間なんだってちょっと安心したっていうか」


悪びれることもなくにへらぁっと笑い同調を誘っているようにも見えたその顔が不快でたまらなかった


「私とお前が同じ人間・・・そういいたいのか?」


「あ、身分とかそういうことじゃあないですよ。根っこは同じってことです。気を悪くしないでくださいね」


 「ふざけるな!!誰がお前と同じだ!」


 ミレディは勢いよく立ち上がり白い椅子が倒れ石畳に打ち付けられた

黙って二人のやり取りを聞いていたアリスとルルティアも同時に驚き、ルルティアはフォークにさしていた

ケーキのかけらを落としそうになったが慌てて口で迎えに行きパクリと食べた。


「私はハートレリアの女王、四大国の王!、その私がお前と同じ!?笑わせるな!

私はお前ともリーフリリアのような平和という名の堕落を謳歌する者とも違う!殺戮の王ぞ!

今すぐに首を跳ねてもいいのだぞ。そのお前の首から流れ出る血でこの花共に水のように撒いてやろうか!」


ミレディは憤怒をまき散らしながらユウマに詰め寄りでたらめに胸倉を掴んだ。

引っ張り出されるように立たされた



身長はほとんど同じ二人だが、かなり底の厚いピンヒール履いているミレディが見下ろすように

ユウマを睨んだ。


「殺戮の王?

じゃあなんでゲームが基礎となったこの世界であんたは折衝与奪なんて王政を選んだんだ。」


「なんだと?」


「他の領地じゃその効果は使えず他国を侵略したとしても殺生が出来るのはあんた一人だけだ。

一見、攻撃的で理にかなった武力政治だが中身はスカスカで国領に入ってきた者しか殺せない。

殺生与奪は国民全域に権利があるから国民同士での殺し合いすら可能にする

そうなれば治安も平和もあったものじゃない。そんな狂気的な思考をするくらいだ。

頭が悪いか狂人のどちらかだ。

狂気じみた思考で勝負をしてくると思ったが違ったあんたはいたって普通の人間だ!

狂人じゃあない。」


睨み見下しても全く怯まず見透かすように論じ。

ミレディも表情変えず一歩も引かない様子だが燃えるような瞳は風にあおられるように揺れていた



「この王政は個人ではなく国そのものの決定、ハートレリアの殺生与奪の権利は先代国王

ミレディの父親が決めルール改変なのです」


ルルティアが白いハンカチで口元をポンポンと叩きながら二人の間にそっと入るように口を差す。

ユウマは胸倉を掴まれたまま首をルルティアに向けた。


「じゃあ国で最初に決めた王政は相手に譲渡出来るってことなのか?」


「はい。譲渡可能です。ただミレディの場合は親からの譲渡、というよりは単にジョーカーから勝手に引き継がれたというほうが形式的に近いかもしれませんが・・・」


「それってどういう―――」


「殺されたのよ。自らの権利でね!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ