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不思議と国とアリス  作者: かのえらな
一章【♥】真っ赤な国とアリス【♣】
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序章第1話【女王と国とアリス】

 むかし、むかし―――

 こんな文面から始まるおとぎ話を聞いたことはあるだろうか。

 

 それはきっと誰かが何かを救うお話

 

 それはきっと誰かが何かに救われるお話

 

 その物語に出来てくる英雄やヒーロー、ヒロイン、救世主は時に、

 旅で出会う仲間と共に鬼を倒す

 戦いの中で成長し魔王を倒す

 悪を懲らしめ姫様を助け出す

 などなど。勇敢にも恐怖や脅威に立ち向かった素晴らしいお話なのではないだろうか。

 

 そんな数多の、今も尚語り継がれる英雄譚の結末は決まってその対峙との対価に約束された平和が物語の終わりを飾っている。


 ―――幸せに暮らしたとさ。

 ―――平和になりましたとさ。

 ―――二人はいつまでも愛し合いました。


 それは他の者には出来なかったことを成しえた成果、その者の物語にふさわしい結末。

だがここで一つ、

その英雄達の最後の後はご存じだろうか。

あったとするなら、さらにその続編の続きはご存知だろうか。


最後のその後―――


 それは彼ら英雄が人々や世界を救ったあと、そして平和を手に入れたあと、

 例えば、極端にわかりやすくいうのであれば英雄の死後、他界した後とでも言おう。

 英雄たちが消えた後その世界はどうなっているのだろう。

 物語、武勇伝、その語られた話に残された世界の者たちはどうなるのだろうか。

 これはそんな英雄の去った後の世界の物語



 書き起こしは


 こう始めるとしよう・・・





 ―――むかし、むかし・・・と









 目に前に伏せられたカードが二枚、どちらかを選ばないといけない、

そして伏せられたカードの1枚には「生」もう1枚には「死」のどちらかが描かれており

選んだカードの文字通り自分の生死が決定される。どうしたらいい。


 「さあアリス、選んで頂戴、貴女の選択が全て!これはゲームではなく裁判!、

貴女の生と死を賭けた公平なゲームによる裁判!」


 傲慢な声が彼女をなぶる。

 

 「何が公平だ!こんな分かりきった勝負、選ぶ前から結果が見えている勝負なんて勝てる訳がない。」


 そう、これは公平などではない。どちらも「死」のカードが伏せられていることを知っている。

そしてそれは裁判などという意味の分からないあたかも平等を装っている勝負。


 自分を取り囲み結果を不安そうに見つめる各々の庶民達はこのカードに伏せられたインチキを知らない。

 呟きこうべを垂れる少女に錆びた足枷が笑うかのように金音をたて、手枷でそれを隠した。

 

「時間よアリス、左のカードか、右のカードか好きなほうを選んでいいの、好きな方を・・・ね?」


 ニタリと笑うその真っ赤な唇は上品な言葉づかいとは裏腹にいやらしく汚い笑みを浮かべている。 

 大広間、決戦場とも呼ばれているこの場所には多くの観衆を集め皆金髪の長い髪の少女の動向を見つめ静まり返っている。

 上を見ても連なる壁の段々から傍観者立ちが顔を覗かせその視線から逃れることは叶わず、

 視線を前へ戻せば、石壁の丁度真ん中にくり抜かれた女王の間と呼ばれる場所に脚を組み優雅にも踏ん反る主君

 その横に築かれた大きな砂時計は上の粒子をもう飲み干そうとしていた。

 

「自分の人生なんて誰にも頼めない」


アリスと呼ばれる少女は一歩前に出るとカード取ろうと手枷のついた両手を差し出した

 その時だった。

 

「頼もーう!!!!」

 

 緊張に張りつめ、冷えた空気に怒声が響く   

  



――――――――――――――――

                  




 ―――青い空、流れる綿雲、春風にも似たこの暖かい若草の匂いはなんだか懐かしい。 

 目の前に広がる風景はいつから見たものかぼんやり考えることを止め、体を起こす。


 「寝ていたのか・・・っ!」

 

 痛みが走る方を見ると制服が破れ膝が擦り剥けている。

よく見ると膝だけではない、肘や肩、脇腹の辺りまでも服がほつれ砂や泥が付いていた。

体中の神経が気づいたように遅れて痛みを知らせる。

 

「っくっそー・・・超絶痛いじゃねーか」


 どこから庇えばいいのか分からずよろよろと立ちがると、

 ようやく青空意外の情報が入ってくる。

 先ほどから寝転がっていた場所は一面が手入れされているであろう整備された芝生が広がり、

 芝生の広がりを見渡せば、星、三日月、丸、針金を無造作に曲げたような変わった形に剪定された木々が並んでいた。

 その先を更に見ようとするも、囲むように一面赤い壁で辺りを閉ざされそれ以外に情報を得られるとすれば、先にみえるこれまた赤く染められた扉くらいだ。

 

「豪邸の庭かなにかか?なんでこんな場所に。」


 彼―――ニノマエユウマは記憶を疑い始める。

 

「ん、と。休み時間に寝ていた学校の校舎で確か・・・ウサギを見て・・・」


 記憶が次第に蘇る、校舎の裏庭で一匹の白兎を見かけたこと、

 そのウサギが

「どうしよう!?もう時間がないよ!誰でもいいから早く・・・」


などと言葉を喋り、こちらに気が付いたと思ったら挑発的な行動を仕掛けてきたこと


(今思えばウサギがあるはずのない中を立て、普段触ることもないであろう自らの尻をこちらに向け一心不乱に振ってきたのか)


 いや、今そんなこと考えている場合ではない、再び記憶を手探りに探す。

 そのウサギ生け捕りにしまいと追いかけ木の根元に逃げたウサギは、根の間を通り根の深く穴蔵に逃げた。

その逃げた穴倉を覗こうとかがんだところ何者かに背後から蹴り落とされたのだ、

 穴はそんなに大きなものではなかった。

 それこそウサギが一匹どうにか入れるかの小さな穴。

 それから先のことは思い出せない。

 とにかくずっと落ちて行くかのような、

 何かに向かうようなそんな時間がただ、長かったようにも短かったような

残るのはそんな不確かな確か。


 それで目が覚めたらこれだ、何が何だかわからないというのはまさにこれだ。

 

「とりあえず人だ、こんだけ立派な屋敷だ、従者の一人くらいはいるだろう。」


 背中に蹴られた感触を再度確かめながら立ち上がり歩きだすと、先の赤い扉のドアノブに手をかけた。

 中は石畳が乱れなく敷き詰められ、真紅の絨毯が真っ直ぐに伸び、広い廊下に広がる。

 凹凸もない綺麗な石壁が天井高くまで列をなし、

 一定間隔に窓の日のこぼれ日を確認することが出来る。

 だが優しく絨毯に差すこぼれびを邪魔するようにところどころに赤い華、

 赤く塗られた動物のはく製、赤い額縁に閉じ込められた風景画、歩くも歩くもその色は休むことなく視界に入り込んでくるのが煩わしい。

 歩く音さえ赤に飲まれ静寂すら音で聞こえるほどに廊下は静かだった。



 歩く途中何度も扉も見つけ開いてきた。

 だが誰もいない。

 初めは遠慮深く丁寧なノックから小声で挨拶し、扉の様子を伺うことを繰り返したがもう数えきれない程の扉を開けていたころには礼節など忘れ、挨拶と共にノックもせず扉を開き歩いていた。 

 同じ場所をぐるぐると歩いているだけなのではないかと自分を疑い始めた時、

ようやく今までと異なる扉を見つけた。   

 その扉は高い天井に届くほど大きく扉というより門に近いものだった。 

 一通り扉を見渡すと特に気にかけることもなく先までのようにその扉を押し開け始めた。

 扉の動かんとする抵抗の地鳴りと共に扉の先で微かだがざわめきを感じる、誰かがいるのは間違いない。

 その確信が扉を押す力を強くする、扉の向こうの景色を見るより口が先に動いた。

 

「頼もーーう!!!」


 思っていたより声が響いた、

 だが扉の先に向けた訊ねの念をから返ってきたのはきたのは訊ねの念だった。 

 それも数えきれないほどの群集から一斉に向けられた驚きと何かに怯えたような目線それとこいつは誰だという単純な疑念。

 ひとしきり観衆を見つめ、状況の整理もつかぬまま立ち尽くす。

 次第に辺りからざわめきとともに声が漏れだし、声は徐々に大きくなり始めた。

 だがそんなふためきを気にする思いは曇天が突風に吹き飛ばされたように一瞬で見えなく

 そして耳に入る風の音も浚うように彼女の存在は五感を浚い去った。

 目の前に輝くそれに見惚れたからだ。

 現れたのは金色でふわりと背を隠すように腰まで伸びた髪

 小さな頭部の上には大きな白のリボンが結ばれているメイド服なのだろうか

 白を基調としたフリルと膨らんだレースのスカート肘や太ももが見えるが白に包まれながらも肌の色は珠のように白い。

 覗かせる肌を恥じらうように空色と白のソックスが太ももまで上げられ、足首も手首も頭のリボン同様の小さなリボンがあしらわれている。

 その純白は頭の先からローファーの靴先まで油断なく彼女を包んでいる。

 自分が今ままで見たもので例えるなら、

 そう【人形】だ。

 振り返りその大きく動く開く黄昏の色の瞳でさえ、

 それは宝石の輝きで人間なのではないのだと思わせるほどに、彼女は眩しくユウマに映った。


「あの・・・こ――」

 何から聞いたらいいいのか思考が宙に舞ってかえってこない。  

 そして思考もままならないまま異様な情報が迫る。

 彼女は繋がれていた。両手は四角の木で形取られた手枷に留められ、

 天窓から差す光か彼女の白に照らされてからか、脚に繋がれた鎖の銀は鈍く燈かってみせた。 

 気付けば足が勝手に動いていた、彼女を乱暴に繋ぐそれを許してはならないと体がそうさせる。

 例え状況が分からずともそうあってはいけない。

 微かに何故こんな事態が起きているのか、だれがこんな事したのか

 などと思いを巡らせてはみたがそんなことは今はどうでもいい。

 自分がこれは違うと思ったらそれは違う。理由はそれで十分だった。

 だが彼女への石段に足を運ぶ瞬間に、怒号がざわめく観衆のざわめきと脚の歩みを地面に打ち付けた。


「捕えよ!アリスの一味ぞ!」


 ハッと我に返り、声のするほうに顔を上げる

 良く見ると金色と白の彼女の陰に隠れて確認できなかったが、

 切り出された石壁から身を乗り出し 細飾を施された石のバルコニーの格子を叩く女性の姿があった。

 驚きと怒りの表情が少し離れたこの場所でも確認できるほどに彼女の表情は歪みに満ちていた。

 しかしその美貌の片鱗は隠せない。

 

 髪は眼前の少女のように長いが頭頂部横で結われ、

サイドテールとも見て取れるその髪は彼女の傍らでしたたかに揺れる、

金髪の彼女と違いその髪は怒りを大きく表現するがの如く真紅染まり、力強く傍らに居座る。

 

 その妖美は余すことはなく、結われた髪の反対にはハート型の宝石が装飾された金色に輝く王冠が傾けられていながらも存在を主張していた。

 

 その身に纏う真紅のドレスは露出を隠すこともせず、大きく膨らんだ胸部の上半分を大きく晒し、

 手すりから見える脚線は怒号にはためき、白い素肌はいやらしくも可憐に下心を欺こうとする。

 

だがその気品を裏切るように彼女の振る舞いは乱れ、辺りは先より増して紅い緊張に飲まれていく。

 ふと物音に気づけば、周囲には真紅の甲冑に身を宿し、

 フルプレートにより容姿を鋼に隠した兵士に囲まれ、

 体を動かす事を許さんと同色の槍が八方から突きつけられていた。


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