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1.悪夢の始まり

ーー緊急ミッション発生ーー

この場を上手く切り抜けて、当初の目的であるお茶会脱出を実行せよーー


…今の状況を一言で言うとこんな感じだ。

どんな状況か?

目の前には屈強そうな衛兵さん、後ろにはこの城の侍女さん。一見すると、私は痴話喧嘩の仲裁をしてるみたいに見える。

実際は前の衛兵に絡まれた後ろの侍女さんを守っているだけなのだ。それだけなのに私たちは妙に注目を集めてしまっている。

まぁおそらくその原因はほぼ間違いなく私だから、「ジロジロ見るな」…とか言えない。

多分、私が皇太子殿下の花嫁選びのお茶会に呼ばれた人間、すなわち次期王妃候補として城に来ているお嬢様…なのに、まして派手に動けないはずのドレス姿なのに、衛兵さんに華麗な一撃をお見舞いしてしまったからだろう。


…それにしても、少し不躾に見過ぎではないか。大人しそうな侍女さんが泣き出しているし…

まぁ、早くこの目の前の衛兵を成敗してさっさと帰るとするか…

か弱い女の子にちょっかいかけて乱暴しようとしたヤツをどうシメようか…ふむ、これはなかなかヤりごたえがありそうだ。不謹慎だが、王宮に着いてから借りた猫状態だったから少し暴れるとするか。


もともと私はお妃になりに王宮に来たのではない。逆に『お妃にならない、というかなっても他の女性に押し付ける』ために来たのだ。だから別に暴れて株が下がったとしても何の心配もない。というかむしろ歓迎する!


だって、もし仮に王妃様になれたとしても、愛がなければ幸せになれない。多くの側室と寵愛を奪い合う為に人生を費やすのは馬鹿らしい。一度きりの人生なら、もっと有意義に使うべきだ。

…とカッコつけてみたが、実のところ、私は伯爵家の令嬢といっても見かけ倒しで、実は山育ちだから、こんな人の多い都会に居たくないだけなのだ!

アイラブ田舎!!ベリーマッチ!!

しかも趣味は読書(帝王学や土木技術など)や剣術、馬術(もちろん横乗りなんてしなたあ!あれは邪道だ!)だから、どうやってもお花が好きで~とか、趣味は刺繍なの!とかいう普通のお嬢様になれるわけがない。

私が次期王妃など、明らかにおかしいのである。


ただ…ここがめんどくさいのだが、腐ってもコレは次期王妃候補を選ぶためのお茶会。

いくら私が身分が高い伯爵家の令嬢だからって、王家絡みの催しだから出席しないというわけにはいかない。


「次期王妃なんて無理です!!側室とドロドロした争いを一生繰り広げるのは嫌です!!」


とかそのまま言ったら私は…うーん良くて出禁(貴族社会からの村八分)、最悪実家の侯爵家ごと取り潰し…になるだろう。どんなに結婚がイヤでも私のワガママだけで実家まで巻き込むのはゴメンだ。だから実家のあるエルトリア地方から一週間かけて王宮まで来ているのだ。

わざわざそれだけのために一週間かけて王都まで来たのか~…と、少し虚しくなる…からこれはあまり考えないようにしよう。


おっとそんなコトを考えていると逆ギレした衛兵さんから右ストレートが!それをひらっと避けてすかさず足払いをお見舞いする。


…なんだか楽しくなってきた。だって十日かかる道のりを無理して一週間でやってきたから、ゴハンと寝る時以外はずーっと馬の上にいたのだ。

お淑やかに振る舞うよりはマシだけど、ちょっと暴れ足りなかったりする。


それにしてもこの衛兵さん弱い割には少々しつこい。

いくら暴れ足りないとはいえ、さっきから単に殴り掛かってくるだけだから、いい加減私も飽きてきた。…そろそろキメるか。

皇太子殿下アイツがこちらを向くのに合わせて不届き者に鉄槌を下すーーただ一発、鳩尾に拳を叩き込むだけ。それだけで、勝負は着いた。…全く、こんなのが衛兵で大丈夫なのか。

まぁ、後は侍女さんを医務室に送り届けるという名目でここから抜け出すだけだ。…さっさと終わらせてしまおう。


「大丈夫ですか? 衛兵になにか乱暴でもされていませんか?」


「……あ、あの……」


  一応筋書きどおりに聞いてみたけど、侍女さんは震えていて答えられる感じではない。

どうやらこちらが誰だが分かっているようで、どう答えるべきか戸惑っている様子。

思ったとおり、彼女はこのまま医務室に送り届ければ良さそうだ。


「怖かったでしょう? 今医務室に連れて行きますから安心して下さいね。 腕が立つ私が付いて行きますから。」


そう言ってさらっと言って侍女さんを連れていく。ーーあくまでも彼女を心配する優しいご令嬢として。


彼女と医務室まで連れていく道のりで少し話をした。彼女の名前はストレアといい、今年で王宮に勤めて三年になるそうだ。そして、なんかやたらと感謝された。


「…せっかくのお茶会なのにこんなことに巻き込んでしまい申し訳ありません!」


「別に気にしていないわ。 貴女が無事で良かった。」


「そんなこと仰らないでください!!

貴女様のようなお心の広い方こそ次期王妃に相応しいのに! それなのに私のせいで…」


「…ありがとう。 でも殿下は奥ゆかしい方がお好きのようよ。 だから私は無理ね。」


「そうですか……しかし……」


なんか侍女さんからの視線が気になる…けど、まぁいいか。とにかくこれで王宮とおさらばだ!願わくば、二度と来ることがないように!!


…と終わらないのが世の定め。

おかしい…私は医務室を出たハズなのに、目の前には今一番会いたくない、というより会うハズがない皇太子殿下その人が。…しかもお一人で。なんで?


皇太子、ジークフリート殿下。それが私の目の前にいる男性の名だ。

思わず目を奪われるようなほど鮮やかな金髪は邪魔にならないようにか短く揃えてあり、彼の瞳は極上の翡翠のような碧色。皇太子らしく上品でかつ整った顔立ち。しかもとても賢そうで、でもひ弱な感じはしない。実際優秀な官吏でありながら王都の武術大会では毎回優秀しているというツワモノだ。

一言で言うと、ものすごいイイオトコである。結婚するかもしれない相手じゃなかったら、もっとお話したり、願わくばお手合わせして頂いても良かったか…


ん?なんか妙だ。私の予想ではまるで珍獣かのように見られたり、もしくはイイ笑顔でお帰り下さい的なことをバッサリ言われてるハズ。なのになぜかジロジロ見てくる。

こっちは興味持たれると困るのだが……しかし、身分の低い私が勝手に話しかけることも、勝手に与えられた部屋に帰ることもできないから、無礼だと知りつつも自然と皇太子殿下を見返してしまう。

それにしても一体何なのか。ケンカなら受けて立つぞ!


…そう思って目を逸らさなかったのが、いけなかったのか。皇太子殿下はキレイなお顔にものすごく意地悪な笑みを浮かべてこう言った。


「…名は何と言う?」


「…エルティーア・ユリウス・ハーヴェストです。」


「ふむ…変わった名だ。 …まぁいい。

エルティーア、お前を我が妃にする。 喜べ」


…うん?空耳か?

だってあり得ない。私が妃とか。全くどんなジョークだ。この笑みの感じからして、一目惚れとかではないだろう。まして、私はさっき派手に暴れた後だ。

だったら、導き出される答えは一つ。


「これが巷で噂のドッキリですか。体験するのは初めてです。…ご期待に添えずに申し訳ありませんが、コレには引っかかり…」


「?!…待て、どうしてそう考えるのだ。ここで今何が行われているか、知らないとは言わせないぞ。」


「?…殿下の花嫁選びのお茶会のことですか?それがどうしたと…」


「そうだ。ここは俺の花嫁選びのお茶会だ。ここに来るということはお前も妃になる気があるのだろう?なら俺がお前に声を掛けたのだから少しは喜んだらどうだ。」


「…申し訳ありませんが、私はお誘いをお断りするためにここに来ました。それに、あのような淑女らしからぬ振る舞いをした私を妃にするなど、あってはならないことです。殿下のお気持ちは単なる気の迷いかと。一度、頭を冷やされては?」


「……お前はこの俺を気の迷いとのたまうか。無論、気の迷いなどではない。さっきのお前の立ち回りを見てお前なら妃の重圧に耐えると考えた。が、その恐れを知らぬ無鉄砲さ…ますます気に入った。

明日、お前を花嫁に決めたことを皆に知らせる。…簡単に断れると思うなよ。」


言いたい事を言うだけ言って、皇太子殿下アイツは去っていった。

…冗談じゃない!!私は田舎でのんびり暮らすと決めたんだ。こんな無理矢理結婚させられてたまるか!

断れないなら…逃げ出せばいい。それころ誰かに攫われたかのように。

出来るなら今すぐ逃げ出したいが、もう暗くなる。暗い中を十分な装備無しで逃げるのは自殺行為だ。今から出掛けるのは不自然極まりない。仕方ない、明日早起きして出発しよう。










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