表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反逆勇者の娘です  作者: ナナホシ
序章 トレランス家のハイネ
1/5

プロローグ

 眼が覚めると、そこは少女――星河 奈々芽にとって見慣れた世界ではなかった。

 格子状に区切られ、それぞれに竜の紋章が金色で薄く描かれた天井。深い翠の壁紙が貼られ、落ちついた雰囲気のあるクラシカルな壁。さらに遠くに見える無垢な木目調のオートクチュールや、その上に置かれた果実を模した硝子のランプシェード。周りにあるすべてが、少女の知っている昨日までの世界――父親に押し込められた埃っぽい屋根裏部屋とは違っていた。


「うぎゃ……?」


 一体、ここはどこだろう。


 そう声を出そうとして、奈々芽はハッとした。大声を上げた直後のように、喉が言うことを聞いてくれない。息苦しくはないが、何か食べ物でも詰まらせたようだった。彼女は思わず喉に手をやるが、そこでもまた背筋を冷やす。

 彼女の目に飛び込んできた手は、酷く小さかった。しかもジャガイモがつながったような丸っこい手だ。どうみても、幼児か赤ん坊のあのふにふにと柔らかな手にしか見えない。奈々芽は十四歳、とうにそんな手は卒業して、大人のほっそりとした手になっていたはずだ。しかも、幼いころに煙草を押しつけられて出来た小さなやけどの跡が、今の彼女の手には見当たらない。右手の親指の付け根にあった、ケロイド状の豆粒ほどの物体がきれいさっぱりと消えうせている。


「おんぎゃー! うぎゃあ!」


 わけがわからず叫ぶ奈々芽。すると彼女の方に、翡翠の髪を長く流した女性が近づいてくる。眼は目尻の方がやや下がり気味ながら大きく、瞳は澄んだ鳶色。唇はぷっくりと艶やかで、淡い桜色をしている。鼻筋は高くまっすぐに通っていて、鼻先がスッと上がっていた。


 優しそうな人だな。


 女性の温かな気配に安心したのか、奈々芽の泣き声がやや収まった。そうしているうちにその女性は奈々芽の身体を抱きかかえると(・・・・・・・ )、耳に心地よいソプラノで囁く。


「ハイネ、どうしたの? 恐い夢でも見たの?」


 奈々芽の身体を包み込んだ手は暖かく、折れてしまいそうなほど細いのにしっかりと彼女の全身を支えた。ここにきて彼女は、混乱しつつも現状をおぼろげながら理解する。


 私は赤ん坊で、この人はお母さんらしい――と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ