全ての始まり
「では、文化祭委員は瀬戸君にお願いしたいと思います」
・・・・え?
ぼけーっとしていた。そりゃあもう、全力で。
何たって今は、毎年恒例行事である、自習という名の文化祭委員を決めようという時間。
そういう類いの催し物は、存在感0の俺なんかが出る幕じゃないというのが、例年暗黙の了解でまかり通ってきたのに。
なのに、何だこの状況は。
ポカンと口を開け、一体どういうことだと済ました顔をして黒板の前に立っている学級委員に視線を向ければ、そいつは凛とした顔で言った。
「あみだくじでの、決定事項です。文句言わないでください」
・・・・言ってないだろう、まだ。
長い髪を一つに結び、腕を組んで俺を鋭い眼差しで見つめるのは、このクラスの学級委員、坂倉千尋。
少々きつい性格の彼女は、スポーツ、成績ともにトップクラスという、俺とは違う世界にいる人。
おまけに顔も美人で、まさに完全無欠。俺とは、一生関わることのない人物な筈だった。
……あの日までは。
事件が起きたのは、今からちょうど1ヶ月前。
その日はテスト返却の日で、俺はうっかりと彼女の前に答案用紙を落としてしまったのだ。
心優しい彼女が、俺の答案用紙を拾う。そこまでは良かった。そこまでは。
しかし次の瞬間、俺のテストの点数を見た坂倉の顔が、一気に青ざめた。俺の方が点数が良かったのだ。完全無欠の彼女より。
親切心で拾ってくれた彼女の優しい顔が、みるみるうちに鬼の形相に変化していったのを、1ヶ月たった今でも鮮明に思い出せる。
ああ、おぞましいよ。
それ以来彼女は、何かと俺に突っかかるようになってくてしまったのだ。
・・・・つーか、別に良くね?
一つくらい、取り柄持たせてくれたってバチ当たんなくね?
「瀬戸くん!返事してもらってもいいですか!?」
「・・・・はい」
高校2年生、17歳。
友達も趣味もなし。
勉強だけが、唯一暇潰しという、青春?え、何それ美味しいの?状態の俺、瀬戸健は、弱々しく返事をした。
☆☆☆☆
「お前も、災難だな。バービーなんかに好かれて」
「別に。好かれてはないけど」
まんまと文化祭委員という、やりたくもクソもない称号を与えられた俺に、前の席の戸田直人がくるりと振り返り同情の眼差しを向けてきた。
・・・・同情するなら、変わってくれ。
そんな思いと共にじっと戸田を見つれば、何故か、照れてうつ向く戸田。
何だコイツ、気持ち悪いな。
俺の目の前で頬を染めているこの男は、唯一クラスで俺に話しかけてくる変わり者。まぁ、端から見りゃ俺のが変わり者なんだろうが。
着崩した制服と、焦げ茶色の髪。勉強は出来ないがサッカー部の副キャプテン。
ここまでモテる要素が揃えば、そりゃあ人生楽しいことだろう。
ちなみにバービーというのは、坂倉のあだ名らしい。バービー人形みたく可愛らしいからだそうだが、バービー人形の顔なんざ、正直覚えちゃいない。
「つーか、健ちゃん。文化祭、何やるか分かってるの?」
「分かってない。そして、何故君が俺の事をちゃんづけしてるのかも分かってない」
「なーんと!」