第6話 検証してみたら、全部通らなかった
俺が気づいたときには、もう遅かった。
ギルドの裏手、訓練場。
昨日の模擬戦の余韻がまだ残っている時間帯だ。
「……だから、その立ち位置だと危ないって」
俺は頭を抱えた。
目の前では、数人の冒険者が円陣を組んでいる。
中心には、魔法陣らしきもの。
誰がどう見ても、嫌な予感しかしない光景だ。
「カナメのやり方を再現すればいいんだろ?」
「詠唱省略、イメージ集中……」
「理屈でやれば成功するって話だ」
いや、そんな雑な要約じゃない。
「待ってください」
俺は一歩前に出た。
「順序、全然違います」
「細かいことはいいから!」
よくない。
リナが不安そうに俺を見る。
「大丈夫なんでしょうか……」
「大丈夫じゃないです」
断言した。
次の瞬間、魔力が暴発した。
「うわっ!」
「熱っ!」
爆発、というほどではない。
だが、制御できていないエネルギーが周囲に散った。
幸い、軽い火傷と転倒で済んだが――
全員、青ざめている。
「……今の、危険ですよね」
「危険です」
「でも、やり方は同じじゃ……」
「違います」
俺は、深く息を吸った。
「まず前提として、昨日のは“俺ができること”であって、“誰でもできる方法”じゃない」
「……」
視線が集まる。
「再現性っていうのは、条件を揃えて、誰がやっても同じ結果になることです」
「気合とか、才能とかを前提にしたら、それは成立しません」
誰かが、ぽつりと呟いた。
「……じゃあ、俺たちは、ずっと」
「ええ」
「失敗前提でやってました」
沈黙。
ガルドが、少し離れた場所で腕を組んでいた。
昨日より、険しい顔だ。
「じゃあ、どうすればいい」
「簡単です」
俺は地面に、簡単な図を描いた。
「手順を固定する」
「失敗条件を先に潰す」
「危険な工程は、最初から排除する」
当たり前のことだ。
元いた世界なら。
「……それは、魔法を縛ることにならないか?」
「命を守る縛りです」
誰も、すぐには返事をしなかった。
リナが、恐る恐る言う。
「じゃあ……昨日みたいなことは、真似しちゃダメなんですね」
「少なくとも、説明なしでは」
俺は、はっきり言った。
「やるなら、責任持って教えます」
「でも、勝手に真似するのは、やめてください」
その言葉に、周囲の空気が変わった。
――禁忌。
そんな単語が、誰かの口から漏れた。
「理屈で魔法を扱うなんて……」
「危険すぎる」
「でも……安全でもある……?」
評価が、割れている。
嫌な兆候だ。
その日の夕方、俺はギルド上層から呼び出された。
「……報告は受けた」
机の向こうの男は、疲れた顔をしていた。
「君の理論は、有用だが……扱いづらい」
でしょうね。
「君の方法を、無許可で広めることは禁止する」
「助かります」
本音だった。
「だが同時に」
男は、俺をじっと見た。
「君自身の行動も、記録対象とする」
つまり、監視強化。
「……分かりました」
部屋を出ると、リナが待っていた。
「大丈夫でしたか?」
「まあ、想定内です」
彼女は少し困った顔をした。
「みんな、カナメさんのこと……」
「どう思ってます?」
「……分からない存在、だって」
それは、結構きつい評価だ。
宿に戻り、ベッドに腰を下ろす。
「検証しない文化に、理屈を持ち込むと……」
だいたい、こうなる。
(やっぱり、この世界の常識……)
信用するには、危なすぎる。
そして多分、俺はもう“ただの新人”ではいられない。
そんな予感だけが、静かに現実味を帯び始めていた。
──第6話・完
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




