第4話 初依頼、難易度設定がおかしい
仮登録とはいえ、冒険者になった以上、仕事は受けられる。
ギルドを出てすぐ、俺は掲示板の前に立っていた。
「討伐、採取、護衛……」
どれも似たような紙切れが並んでいる。
難易度は星の数で示されているらしい。
「初心者は星ひとつから、ですね」
横に立つリナが教えてくれた。
「昨日のスライムは?」
「星ひとつです」
「……なるほど」
あれが基準なら、まあ安全そうだ。
俺が選んだのは、近郊の森に出没するゴブリンの討伐。
星ひとつ。
初心者向け、と太字で書いてある。
「これで」
「はい。では、こちらにサインを」
受付を済ませ、森へ向かう。
今日はリナは同行しないらしい。
「一人で大丈夫ですか?」
「まあ、様子見なので」
本音を言えば、誰かと行く方が面倒だ。
森に入ると、空気が少し重くなる。
視界も悪い。
(索敵が甘いな……)
そう思った直後、茂みが揺れた。
「ギャッ」
緑色の小柄な人影が飛び出してくる。
ゴブリンだ。
錆びた短剣を振り回しながら突っ込んでくる。
(突進一択……?)
横に避ける。
足元ががら空き。
落ちていた枝を拾い、膝裏に軽く打ち込む。
体勢が崩れたところで、首筋に一撃。
倒れた。
「……弱くない?」
いや、俺が強いとかじゃなくて、行動が単調すぎる。
これ、本当に危険生物なのか?
さらに二体。
同じ動き。
同じ結果。
(集団戦の概念、ないのか……)
全部で五体。
十数分で終わった。
血の付いた短剣を確認しながら、首を傾げる。
「これで星ひとつ……?」
ギルドに戻ると、ちょうど別のパーティが帰還したところだった。
三人組。
全員、息が荒い。
「くそ……」
「星ひとつだぞ……?」
「話が違う……」
どうやら同じ依頼だったらしい。
俺が討伐証明を提出すると、受付の女性が目を丸くした。
「……全部?」
「はい」
「お一人で?」
「はい」
ざわ、と空気が動く。
「え、あの依頼……?」
「ベテランでも苦戦するやつだぞ」
「新人が……?」
いや、苦戦要素あったか?
奥から、いかにも歴戦という雰囲気の男が出てきた。
筋骨隆々、傷だらけ。
「……お前が、ゴブリンを一人で片付けたって?」
視線が鋭い。
この人が、ガルドか。
「そうですが」
「武器は?」
「枝と石です」
「……ふざけてるのか?」
怒っている、というより困惑している顔だ。
「ゴブリンは、数で押す」
「隙を突く」
「根性で押し切る」
彼は語る。
全部、昨日聞いた理論と同じ匂いがした。
「なるほど」
「……で?」
「それ、再現性あります?」
ガルドが黙った。
「同じ条件で、同じ結果が出ますか?」
「……」
「毎回、誰かが怪我しますよね」
一瞬、場が静まり返る。
「理屈で戦場を語るな」
「命懸けなんだぞ」
正論だと思う。
でも。
「命懸けだからこそ、減らしたいんです」
「……」
ガルドは、俺をじっと見てから言った。
「一度、模擬戦だ」
「遠慮します」
「逃げるのか?」
「効率が悪いだけです」
火に油だったらしい。
「明日だ。逃げるなよ」
「……考えておきます」
その場を離れながら、俺はため息をついた。
(なんで初日からこんなに絡まれるんだ……)
背後から、ひそひそ声が聞こえる。
「新人なのに……」
「理屈で戦うって……」
「危険思想じゃないか?」
危険なのは、この世界の基準だと思う。
宿に戻り、ベッドに倒れ込む。
「平穏って、どこにあるんだろうな……」
そう呟きながら、天井を見つめた。
明日、面倒なことが起きる予感しかしなかった。
──第4話・完




