第27話 保守派の警戒
その日の空気は、昨日までと少し違っていた。
露骨ではない。
だが、確実に。
学院を歩くと、視線が合っても逸らされない。
代わりに、測られる。
(……警戒フェーズに入ったな)
革新派が動けば、必ず反動が来る。
それが組織というものだ。
昼過ぎ、イーサに呼ばれた。
「保守派の教授が」
「あなたと話したいそうです」
「……複数人で?」
「ええ」
逃げ道がないやつだ。
場所は、学院長室の一角。
重厚な木製の机。
壁一面の書架。
座っていたのは、三人。
全員、年配。
表情は硬いが、敵意はない。
「時間を取ってもらって、感謝する」
中央の教授が、そう切り出した。
「こちらこそ」
「要件は?」
単刀直入に聞く。
教授は、少し間を置いてから言った。
「君を、排除するつもりはない」
予想より穏当だ。
「だが」
「学院の中枢に、関わらせるつもりもない」
それは、むしろありがたい。
「理由を、聞いても?」
「君は」
「正しすぎる」
一瞬、意味が分からなかった。
「正しい判断は」
「常に、組織を不安定にする」
「特に、この学院ではな」
続く言葉は、冷静だった。
「我々は」
「未完成な人間を、抱えている」
「学生も、教師も」
否定できない。
「そこに」
「完成された基準を持ち込めば」
「多くは、ついてこられない」
だから、排除しない。
だが、近づけない。
合理的だ。
「君が、危険人物だとは思っていない」
「むしろ」
「一番、事故を嫌う人間だ」
評価が、意外と高い。
「だが」
「君の存在は」
「学院の“普通”を壊す」
その通りだ。
俺は、静かに答えた。
「それでいいと思います」
「……ほう」
「俺も」
「学院を変える気はありません」
「ただ」
「危ないものが、危ないと分かる人が」
「一人くらい、外にいた方がいい」
教授たちは、互いに視線を交わす。
「君は」
「我々を敵に回すつもりはない」
「ええ」
「味方になるつもりも?」
「ありません」
即答した。
数秒の沈黙。
「……分かった」
中央の教授が、頷いた。
「君は、学院の外に置く」
「関与は、限定的にする」
昨日の結論と、同じだ。
「革新派が、接触したな」
「はい」
「断ったのも、知っている」
情報は、回る。
「賢明だ」
「期待を、背負うべきではない」
それを、保守派が言うのが面白い。
立ち上がり、話は終わった。
廊下に出ると、イーサがいた。
「どうでした?」
「敵では、ありませんでした」
「ええ」
「彼らは」
「守る側です」
学院の中庭を歩く。
学生たちの声が、遠くから聞こえる。
いつも通りの風景だ。
(……変わらないな)
だが、内部では確実に、
線が引かれた。
俺は、線の外。
それでいい。
「中に入ると」
「壊れるからな」
誰かが。
それが俺でないことを、
少しだけ安心しながら。
──第27話・完
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