第26話 革新派の接触
その日の午後、俺は呼び止められた。
「少し、時間をもらえないか」
声をかけてきたのは、革新派と呼ばれている教授の一人だった。
年は四十代半ば。
身なりは整っているが、目がやたらと熱い。
(あー……このタイプか)
経験上、面倒な人種だ。
場所は、研究棟の応接スペース。
人目はあるが、話はしやすい。
「単刀直入に言おう」
教授は、椅子に座るなり切り出した。
「君の考え方に、非常に興味がある」
でしょうね。
「理屈」
「再現性」
「安全性」
「我々が、ずっと軽視してきた分野だ」
そこまでは、正しい。
「君が協力してくれれば」
「学院は、大きく変われる」
来た。
「新しいカリキュラム」
「実験手法の見直し」
「失敗率の低下」
夢のある話だ。
多分、善意もある。
だからこそ、即答した。
「断ります」
教授は、言葉を失った。
「……理由を聞いても?」
「責任を取りたくないからです」
教授の眉が、ぴくりと動く。
「それは、逃げでは――」
「違います」
俺は、静かに否定した。
「俺が関われば」
「変化は、俺の名前で起きます」
「失敗も、成功も」
教授は、口を閉ざす。
「それは」
「この学院にとって、健全じゃない」
少し、言葉を選んだ。
「改革は」
「内部の人間が、内部の責任でやるべきです」
「外部の俺が、正解を渡すのは」
「一番、長続きしません」
教授は、悔しそうに歯を噛んだ。
「だが」
「このままでは、事故が――」
「起きます」
俺は、あっさり言った。
「確実に」
沈黙。
「だからこそ」
「俺が介入しない方がいい」
教授は、しばらく考え込んだ。
「君は」
「世界が壊れるのを、見ていられるのか」
重い問いだ。
俺は、少し考えてから答えた。
「壊れそうなら」
「止めます」
「でも、壊れていないものを」
「俺が作り替える気はありません」
教授は、深く息を吐いた。
「……君は、冷たいな」
「よく言われます」
本当は、冷たくない。
ただ、責任の押し付け合いを知っているだけだ。
立ち上がり、頭を下げる。
「話は、それだけですか?」
「ああ……」
部屋を出ると、廊下でイーサが待っていた。
「お断りしましたね」
「ええ」
「即答でした」
「長引くと、期待されるので」
イーサは、淡々と頷く。
「革新派は」
「あなたを“希望”として見ています」
「やめてほしいですね」
夕方。
学院の中庭を歩く。
学生たちが、遠巻きにこちらを見ている。
噂は、もう回っているだろう。
(味方にならなくて正解だな……)
味方になれば、
敵も、責任も、増える。
俺は、空を見上げた。
「……中立って、楽そうで一番きついな」
誰の期待にも、応えない。
だが、誰の失敗からも目を逸らさない。
それが、今の立場だ。
──第26話・完
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