第25話 勝手に広まる解釈
その日の俺は、特に何もしていなかった。
学院の食堂。
昼時。
端の席で、普通に飯を食っている。
「……量、多くないか?」
パン三つ。
スープ。
肉。
学生向けとは思えない配分だが、味は悪くない。
だから文句は言わない。
――その頃。
俺の知らないところで、話は勝手に進んでいた。
「昨日の実習、見たか?」
「見た見た」
「あの人、下がったよな」
学生たちが、ひそひそ話している。
「爆発する前に、一歩下がった」
「つまり、あの瞬間が“境界”だったんだ」
「何が起きるか、全部分かってたんじゃないか?」
盛られている。
「いや、違うぞ」
別の学生が、真顔で言う。
「あれは“関与しない”という意思表示だ」
「高度な判断だ」
高度じゃない。
単に危なそうだっただけだ。
「じゃあ、止めなかったのは?」
「敢えて、だ」
「自分が止めると、学ばないから」
そんな深いこと、考えてない。
食堂の反対側では、教師同士が話している。
「最近、学生が距離を取るようになったな」
「ああ」
「彼の影響だろう」
俺、何も言ってない。
「危険な瞬間を見極めろ、ということか」
「いや」
「危険“未満”を見ろ、という教えかもしれん」
勝手に教義化されている。
そのとき。
「……カナメさん」
声をかけられて、顔を上げる。
見覚えのある学生。
昨日、質問していた彼だ。
「何か?」
「その……」
言い淀んでから、聞いてきた。
「危なくなる前に、下がったのって」
「どうやって分かったんですか?」
俺は、少し考えた。
答えは、簡単だ。
「音です」
「……音?」
「空気の張り方が、変わったので」
それだけだ。
だが、学生の目が輝く。
「やっぱり……!」
「やっぱりじゃないです」
否定したが、遅い。
「音、ですか……」
「じゃあ、私たちも――」
「無理だと思います」
即座に言った。
「慣れてないと、分かりません」
正直な話だ。
だが、学生は勝手に納得した顔をする。
「修行が、足りないんですね」
「違います」
「精進します!」
違う方向に行った。
イーサが、いつの間にか隣に立っている。
「また、解釈が増えましたね」
「増やしてないです」
「存在しているだけで、増えます」
最悪の特性だ。
午後、学院内を歩くと、
妙な変化に気づいた。
実習場で、学生たちが距離を取っている。
無理に踏み込まない。
様子を見る。
(……あれ?)
確かに、安全側ではある。
だが、理由が違う。
「“あの人”が下がる位置を、真似してるらしいぞ」
「でも、基準が分からない」
「雰囲気だ、雰囲気」
一番危ないやつだ。
俺は、思わず額を押さえた。
「……やっぱり、広まるよな」
「ええ」
イーサは淡々と答える。
「解釈は、制御できません」
夕方。
宿に戻り、ベッドに倒れ込む。
「……何もしないの、難易度高くないか」
言葉を選んでも、
選ばなくても、
行動しなくても。
世界は、勝手に意味を付ける。
そして、その意味は――
大抵、本人の意図から一番遠い。
俺は、ため息をついた。
「……次は、誰が止めるんだろうな」
それが俺でないことを、
願いながら。
──第25話・完
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




