第24話 事故未満
結論から言うと、事故は起きなかった。
だからこそ、余計に厄介だった。
場所は、学院の実習場。
屋外で、結界も張られている。
表向きは、安全対策が万全な場所だ。
(……表向き、な)
学生たちが、実習の準備をしている。
基礎魔法の応用。
複数人での同時起動。
教師が声を張り上げる。
「よし、始めるぞ!」
「細かいことは気にするな!」
「成功した者に合わせろ!」
嫌な指示が、三連続だ。
俺は、実習場の端に立っていた。
イーサも、同じ位置だ。
(立ち位置、ここで正解だな……)
魔法陣が光り始める。
魔力の流れが、少しずつ乱れる。
(位相、ずれてる)
(同期、取れてない)
だが、まだだ。
今すぐ止めるほどではない。
学生の一人が、声を上げる。
「先生、魔力が――」
「気にするな!」
「続行だ!」
その瞬間。
――バチッ。
小さな放電音。
結界の縁が、一瞬だけ歪んだ。
(……あ、これ一段階上だ)
俺は、無言で一歩下がった。
イーサも、同じ動きをする。
「……何か?」
調査官が、こちらを見る。
「距離を取っただけです」
「理由は?」
「今は、答えません」
次の瞬間。
魔法陣の一つが、不完全な形で弾けた。
「うわっ!」
「熱っ!」
爆発ではない。
だが、魔力が周囲に散る。
幸い、軽い火傷だけで済んだ。
教師が、慌てて制止する。
「中止!」
「全員、下がれ!」
静寂。
誰も、大怪我はしていない。
結界も、破れていない。
だから――
「……問題はなかったな」
教師が、そう結論づけた。
(出た)
学生たちは、顔を見合わせる。
納得していない者もいる。
俺は、何も言わない。
言う立場ではない。
イーサが、小さくメモを取る。
「“事故未満”ですね」
「ええ」
「一番、対策されにくい」
その通りだ。
実習後、学生たちがざわつく。
「今の、危なかったよな?」
「でも、先生は問題ないって……」
「じゃあ、次も同じでいいのか?」
疑問は、残る。
だが、答えは与えられない。
俺は、実習場を離れる。
(ここ、いつか事故るな……)
だが、その“いつか”が来るまで、
誰も本気で変えない。
宿に戻る途中、イーサが言った。
「あなたは」
「一歩下がりましたね」
「はい」
「止めませんでした」
「まだ、壊れていないので」
彼は、淡々と頷いた。
「それが」
「あなたの基準ですね」
基準があるだけ、マシだと思う。
部屋に戻り、椅子に座る。
「……事故未満って、扱いづらいな」
起きていないから、問題にならない。
だが、確実に積み重なる。
この学院は、
そうやって今日も――
**壊れずに、危険を溜めている。**
──第24話・完
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