第21話 学院という場所
魔法学院は、思っていたより静かだった。
もっとこう、魔法が飛び交っていたり、
爆発音が常にどこかから聞こえたりするものだと思っていたが、
実際は違う。
広い中庭。
整えられた石畳。
規則正しく配置された建物。
(……見た目は、まともだな)
だから余計に、油断できない。
「ここが、魔法学院です」
隣を歩くイーサが、淡々と説明する。
案内役というより、同伴者だ。
「今日は、特に予定はありません」
「それは助かります」
「見学のみです」
つまり、俺は異物として放り込まれている。
門をくぐった瞬間、視線を感じた。
学生。
教師。
職員。
全員、ちらりとこちらを見て、
すぐに視線を逸らす。
(あ、これ完全に“触っちゃいけないやつ”だ)
空気が、微妙に遠い。
「……歓迎されてませんね」
「正確には」
イーサは言い直す。
「扱いに困っています」
そっちの方がしっくりくる。
学院内を歩く。
講義棟、研究棟、実習場。
どこも整っている。
だが、微妙な違和感が積み重なっている。
(動線、悪いな……)
(ここ、魔力溜まるだろ……)
(柵、形だけだな……)
気づくことは多い。
でも、言わない。
今日は何もしない日だ。
最初に案内されたのは、立ち入り禁止区域だった。
「……え、ここ?」
「はい」
「禁止区域ですよね」
「だからです」
意味が分からない。
「ここは、危険なので」
「人が来ません」
「結果として、一番安全です」
なるほど。
俺は、少し安心した。
「ここ、落ち着きますね」
「そう言う人は、初めてです」
禁止区域の外では、
学生たちが実習の準備をしている。
魔法陣を描き、詠唱を確認し、
教師が指示を飛ばす。
(……あれ、順番逆じゃないか?)
いや、今日は言わない。
イーサが、俺の方を見る。
「何か、気づきましたか?」
「いくつか」
「言いませんね」
「今日は、見学なので」
彼は、小さく頷いた。
「それでいい」
講義棟の廊下を歩くと、
ちょうど授業が終わったところだった。
「……あれが?」
「そうです」
「噂の……」
声が、背後から聞こえる。
小さいが、確実に。
(噂、もう学院内に回ってるのか……)
食堂に入ると、空気が一段変わった。
会話が、一瞬止まる。
俺は、端の席に座る。
「目立たない場所、助かります」
「計算されています」
それ、褒めてます?
昼食は、普通だった。
味も、量も、普通。
だから余計に、
周囲の視線が浮いて見える。
(何もしないだけで、注目されるのか……)
午後は、特に予定もなく、
学院内を適当に歩いた。
気づけば、また立ち入り禁止区域の近くに戻っている。
「……ここ、やっぱりいいな」
「安全基準が、あなた向けです」
イーサの評価が、よく分からない方向に行っている。
夕方。
「今日は、これで終わりです」
「もう?」
「ええ。初日は、何もしないのが一番です」
全面的に同意する。
宿へ戻る道すがら、俺は思った。
学院は、整っている。
知識も、歴史も、実績もある。
でも――
(“危なくない理由”を、誰も説明できない)
それが、この場所の正体だ。
だからこそ、
ここは一番、危ない。
俺は、静かに息を吐いた。
「……長居はしたくないな」
その願いが通らないことを、
俺はもう、経験で知っている。
──第21話・完
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