第18話 結論は、いないところで出る
その頃、俺は何をしていたかというと――
普通に、洗濯をしていた。
宿の裏庭。
桶に水を張り、服を押し洗いする。
「……地味だな」
でも、嫌いじゃない。
誰も話しかけてこないし、評価も動かない。
理想的だ。
――一方、その時間。
魔法学院の最上階では、臨時会議が開かれていた。
「共同演習の件、報告は以上だ」
重い空気。
長机を囲むのは、学院長、教授陣、都市管理局の代表。
「結果として、事故は起きていない」
「だが、寸前だった」
「指摘がなければ、被害は出ていた」
革新派の教授が、渋い顔で言う。
「彼は、なぜ最初から止めなかった」
「分かっていたなら――」
保守派が、静かに返す。
「止める権限がなかったからだ」
「それに」
「止めたのは、我々だ」
沈黙。
「……問題は、そこだ」
学院長が、口を開いた。
「彼は、教えない」
「導かない」
「だが、奪わない」
机を、指で叩く。
「結果として」
「我々自身が、判断させられている」
その言葉に、数人が顔をしかめた。
「危険ではない」
「だが、制御もできない」
都市管理局の代表が、淡々とまとめる。
「組織に組み込めば、歪む」
「排除すれば、損失が大きい」
イーサが、最後に口を開いた。
「評価を、報告します」
視線が集まる。
「彼は、極めて安定しています」
「判断基準が一貫している」
「感情によるブレがない」
淡々と、だが明確に。
「危険を減らすために」
「動くか、動かないかを選ぶ」
「その選択を、他者に委ねる」
学院長が、目を閉じた。
「……つまり」
「教育する対象ではない」
「だが、排除すべき存在でもない」
結論が、形を持ち始める。
「彼は、学院に属させない」
「正式な役職も、地位も与えない」
誰かが、ため息をついた。
「だが」
学院長は、続ける。
「学院の重大案件に限り」
「彼の意見を、聞く」
命令ではない。
責任も、押し付けない。
「聞くだけだ」
「従うかどうかは、我々が決める」
それが、落としどころだった。
「異議は?」
誰も、手を挙げなかった。
――決定。
一方その頃、俺は。
「……よし」
洗濯物を干し終えて、伸びをしていた。
風が気持ちいい。
「今日は、平和だな……」
その夕方、イーサが宿を訪ねてきた。
「結果が出ました」
「聞いてませんが」
「それでいいのです」
彼は、簡潔に伝える。
「あなたは」
「学院にも、都市にも属さない」
「だが、完全な部外者でもない」
嫌な予感しかしない。
「要するに?」
「“意見を聞かれる人”です」
それ、地味に厄介だ。
「拒否は?」
「可能です」
「本当に?」
「……記録上は」
やっぱり。
イーサは、最後にこう言った。
「あなたは」
「制度の外に置かれました」
「それが、最も安全だと判断されました」
安全、か。
夜。
部屋で、椅子に座る。
「……結論って、いつも俺の知らないところで出るな」
でも、悪くはない。
縛られない。
命令されない。
ただ――
(聞かれる、か……)
それはそれで、面倒だ。
窓の外では、学院の灯りが静かに消えていく。
俺は、布団に倒れ込んだ。
明日もきっと、
俺は普通に過ごす。
そして世界は、
俺を“普通じゃない場所”に
勝手に置き続けるのだろう。
──第18話・完
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