第17話 指摘だけで、手は出さない
問題は、俺が何もしていない時に起きる。
それはもう、確率の話だと思う。
危ないものが放置されていれば、いつか誰かが触る。
この日は、学院の外縁部にある実習区画だった。
「共同演習の準備です」
調査官の一人が言う。
「学生と教員が合同で行います」
見学者扱いの俺は、少し離れた場所に立っていた。
イーサも、同じ距離感だ。
(……配置、雑だな)
魔法陣が三つ。
結界が一つ。
起動順が、被っている。
(重ねる意味、ないだろ……)
だが、まだ“今すぐ”ではない。
革新派の教授が、学生に指示を出している。
「いいか、手順通りに!」
「多少の誤差は、才能で補え!」
嫌なフレーズだ。
保守派の教員が腕を組む。
「問題ない。昔からこうだ」
「実績がある」
それ、検証してないだけでは。
演習が始まる。
魔力が流れ、魔法陣が光る。
結界が、少し遅れて起動。
(……遅い)
俺は、地面を見た。
振動。
結界の縁が、わずかに歪む。
まだ、止める段階じゃない。
だが――
「次、第三段階!」
教授の声。
(それ、やると――)
俺は、一歩だけ前に出た。
「……今、第三段階に入ると」
声は、普通。
叫ばない。
「結界の位相が、重なります」
場が、静まる。
「何だと?」
「誰だ?」
教授が、俺を見る。
「証拠は?」
「ありません」
「では――」
「結果だけ、言います」
俺は続けた。
「結界が不安定になって、制御不能になります」
革新派の教授が、鼻で笑う。
「根拠のない不安だ」
「続行する」
まあ、そうなる。
イーサが、口を挟まない。
調査官も、止めない。
(……あ、これ“見る”やつだ)
第三段階、起動。
――ズン。
空気が、重くなる。
「……あれ?」
学生の声。
結界が、震え始めた。
「魔力が、戻らない!」
「制御が――」
俺は、少しだけ声を張った。
「今、停止してください」
「全員、距離を取って」
指示は、それだけ。
教授が、歯噛みする。
「止めろ!」
起動が止まり、結界が解除される。
直後、魔法陣の一つが弾けた。
幸い、誰も近くにいなかった。
沈黙。
保守派の教員が、低く言う。
「……危なかったな」
「偶然だ」
「いや」
視線が、俺に集まる。
「……言いましたよね」
俺は、肩をすくめた。
「結果だけ」
革新派の教授は、唇を噛んだ。
「なぜ、最初から止めなかった」
「止める権限、ありませんでしたので」
「……!」
イーサが、静かにメモを取る。
演習は、中止になった。
説明と、言い訳が飛び交う。
俺は、少し離れて立っていた。
(手、出してないよな……)
言っただけ。
実行したのは、彼らだ。
帰り道、イーサが隣に来る。
「今の判断」
「どう思います?」
「……正解かどうかは、分かりません」
「ですが」
彼は、淡々と続ける。
「あなたは」
「奪いませんでした」
「判断も、成果も」
それが、評価らしい。
宿に戻ると、どっと疲れが出た。
「……指摘だけって、地味に消耗する」
でも、これでいい。
俺が全部止めたら、
彼らは何も学ばない。
そして、世界はまた同じ事故を繰り返す。
(それは、もっと面倒だ)
夜、窓の外を見る。
学院の灯りは、まだ消えていない。
きっと、会議だ。
俺のいないところで。
──第17話・完
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