第12話 調査という名の、お節介
その日、ギルドの空気は朝から落ち着かなかった。
理由は単純だ。
見慣れない人間が、多すぎる。
装備は整っているが、冒険者のそれとは違う。
動きが揃っていて、無駄がない。
(ああ、これ完全に役人だ)
俺は掲示板の前で、目立たない依頼を探していた。
「採取……配送……」
視線を感じる。
昨日より、さらに露骨だ。
「カナメさん」
呼ばれて振り返ると、リナが立っていた。
顔が、ちょっと硬い。
「何かありました?」
「……会ってほしい人がいます」
「断る選択肢は?」
「あります」
「本当ですか?」
「……形式上は」
昨日と同じ言い回し。
嫌な予感しかしない。
ギルド奥の応接室。
昨日の男に、もう一人増えている。
今度は、ローブ姿。
魔法使い……というより、学者だ。
「改めて名乗ろう」
ローブの男が言う。
「私は、魔法学院・第三研究局の調査官だ」
研究局。
嫌な単語だ。
「今日は、試験ではない」
「調査だ」
「……違いは?」
「形式上はある」
また形式上か。
「あなたが行った行動」
「ダンジョン封鎖」
「魔法運用の是正」
「非常に興味深い」
学者の目が、光っている。
純粋すぎて、逆に怖い。
「才能を前提にしない魔法理論」
「再現性を重視する判断」
「現場での即応力」
やめてほしい。
評価を並べられるのは、胃に悪い。
「それで?」
俺は先を促した。
「単刀直入に言おう」
「あなたを、学院に招きたい」
「断ります」
即答した。
二人が、同時に瞬きをした。
「理由は?」
「面倒なので」
「……正直だな」
都市管理局の男が苦笑する。
「だが、強制ではない」
「今は、な」
今は。
「では、代替案だ」
学者が言う。
「短期の観察」
「あなたの日常に、我々が同行する」
嫌な予感が、現実になった。
「……それ、監視では?」
「調査だ」
「言い換えてません?」
「形式上は違う」
統一してるな、この世界。
「期間は?」
「未定」
「目的は?」
「安全確認」
曖昧すぎる。
俺は、深く息を吸った。
「一つ、条件があります」
「ほう?」
「俺に、何かを“させよう”としないでください」
「指示も、命令も、期待も」
「普段通りにします」
二人は、顔を見合わせた。
「……それで、何が分かる?」
「分かるかどうかは、そっちの問題です」
しばらく沈黙。
やがて、学者が頷いた。
「いいだろう」
「君の“普通”を、見せてもらおう」
最悪だ。
応接室を出ると、リナが待っていた。
「どうでした?」
「お節介が、正式化しました」
「……やっぱり」
外に出ると、例の二人が距離を取って付いてくる。
尾行、というほど露骨ではないが、分かる。
(平穏、どこ行った……)
その日の依頼は、荷物運びだった。
都市への配送。
「危険度・低」
掲示板には、そう書いてある。
俺は、ちらりと後ろを見る。
「……付いてきます?」
「調査なので」
「仕事の邪魔は?」
「しない」
信用するしかない。
街道を歩きながら、俺は考える。
戦っていない。
教えていない。
改革もしていない。
ただ、危ないものを止めただけだ。
(それだけで、ここまで来るのか……)
夕方、都市の門が見えてきた。
その向こうにあるのは、
学院。
組織。
もっと面倒な世界。
俺は、肩をすくめた。
「……調査って、いつ終わるんです?」
「さて」
都市管理局の男が言う。
「君次第だな」
最悪の答えだった。
こうして俺は、
断ったはずなのに、
確実に次の段階へ――
足を踏み入れつつあるらしかった。
──第12話・完
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