第1話 異世界、思ったより雑だった
※この物語は、
無双したい主人公の話ではありません。
異世界の常識にツッコミを入れながら、
「危ないことを減らしたい」
それだけを基準に行動する主人公が、
なぜか世界のほうから過剰評価されていくお話です。
・主人公は基本的にやる気がありません
・戦闘より判断を優先します
・シリアスになりすぎないコメディ寄りです
気楽に読んでいただければ幸いです。
第八十六営業日連続残業の帰り道で、俺はトラックに轢かれた。
──らしい。
というのも、痛みとか恐怖とかは特になく、気づいたら真っ白な空間に立っていたからだ。
「えーっと、聞こえてる? あ、よかった」
正面に、光っている人型がふわふわ浮いている。
天使とか神様とか、そういう分類の存在だと思う。たぶん。
「えー、では説明しますね。あなたは不幸な事故で亡くなりました」
「不幸っていうか、まあ、はい」
「そこで! お詫びに異世界転生をプレゼントします!」
軽い。
テンションが福引の当選発表くらい軽い。
「え、ちょっと待って。異世界って、説明それだけですか?」
「大丈夫大丈夫。行けば分かります」
「いやそれ一番信用できないやつ……」
抗議する間もなく、視界がひっくり返った。
──次に目を開けたとき、俺は草原に倒れていた。
空は青く、空気は澄んでいて、身体は妙に軽い。
どうやら本当に異世界らしい。
「……まあ、生きてるだけマシか」
立ち上がって周囲を見渡すと、石造りの街道と、小さな町が見えた。
ファンタジーのテンプレみたいな景色だ。
「とりあえず、人がいるところ行くか」
歩いて町に入ると、剣を腰に下げた人や、ローブ姿の人が普通にいる。
ああ、うん。完全に異世界だ。
しばらく歩いていると、広場の端で人だかりができていた。
「また失敗か……」
「魔力が足りないんだよ」
「才能ないんじゃないか?」
覗いてみると、若い男が杖を構えて、何かを唱えている。
目の前には小さな石。
「──火よ!」
杖の先が光る。
……が、何も起きない。
石はそのままだ。
「……失敗だな」
「やり直しだ」
周囲からため息。
俺は首を傾げた。
「え、今ので終わり?」
つい、声が出た。
全員がこっちを見る。
「何か?」
「いや、その……魔法、なんですよね?」
「当たり前だろ」
「えっと……」
俺は少し考えてから言った。
「その詠唱、毎回同じ結果になります?」
「は?」
「条件変えてないですよね。距離も、対象も、魔力量も」
男が眉をひそめる。
「魔法なんて、気合と才能だろ」
「……再現性ないの、怖くないですか?」
ざわ、と空気が揺れた。
俺は近くに落ちていた小石を拾う。
「ちょっといいです?」
杖はない。
でも、さっき見た感じ、やってることは単純だった。
集中して、イメージして、力を流す。
要はエネルギーの出力制御だ。
「……」
石に向かって、必要最低限だけ熱を与えるイメージ。
──パチッ。
小さな火花が散り、石が赤く熱される。
……成功。
周囲が、静まり返った。
「え?」
「いま……?」
「杖なしで……?」
俺は慌てて手を振る。
「いやいや、今のはたまたまです。偶然」
「偶然で魔法は発動しない!」
「いや、理屈的には──」
説明しようとしたが、誰も聞いていない。
全員、俺を見ている。
なんか、嫌な予感がする。
「禁忌だ……」
「詠唱を省略するなど……」
「理を無視している……」
いや、理屈でやったんだけど。
「えっと……普通に考えたら、こうなると思うんですが」
「普通……?」
誰かが呟いた。
その声が、やけに重かった。
「……あなた、名前は?」
「あ、カナメです」
「カナメ殿……」
殿?
俺は空を見上げた。
(この世界、思ったより雑じゃないか?)
そう思った瞬間、背後で誰かが小声で言った。
「神が遣わした存在なのでは……」
やめてほしい。
本当にやめてほしい。
俺はただ、再現性がないのが怖いだけの元社畜だ。
なのに。
どうやらこの異世界では、それが“普通じゃない”らしい。
──第1話・完
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