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最近魔王の扱いが悪い? 原典の時点で悪いが?

作者: 園日暮


 あっ、これ、どこかから呼ばれているな。これがよく聞く異世界召喚ってやつかな?

 そんな感触があり、流れに身を任せ、光に包まれる。


 まだ光に包まれている。かろうじて地面に見えるのは、魔法陣らしきものだろうか。

 あんなのもので異世界召喚できるのだろうか。


 「よくぞ来たな賢者よ。さあ、お主の叡知で魔王なのに悪い、わがはいの待遇を改善するのじゃ」


 そこにはピンクのほっぺが眩しい、立派な幼女がいた。




 

 「最近魔王の扱いが悪いのじゃ。遺憾なのじゃ。そこで異世界から魔王に詳しい者を召喚することにしたのじゃ」


 召還したのはこの世界の魔王です。


 呼び出された少年は自分を「はー君」と呼ばせます。

 そして、魔王のことは「まおちゃん」と呼びます。


 「馴れ馴れしい」「威厳がない」と不満な魔王こと、まおちゃん。

 待遇改善のためには議論に議論を重ねないといけない。いちいち堅苦しい会話だと議論がはかどらない。

 少年の意見の前に苦情は却下されました。


 まおちゃんはあまり押しが強くない魔王のようです。


 それでまおちゃんは、はー君に魔王の格を取り戻すための相談役になって欲しいと頼むのでした。


 「なるほど。確かに自分は魔王については詳しいね。魔王の出てくる話を、1000()は読んだからね」

 「おお~、それは大したものじゃ」


 はー君はまず状況を確認しようとします。


 「……まず聞いてもいいかな。まおちゃんにはどんな魔王パワーがあるの? 配下の四天王とかは? 人類を殺戮して略奪した土地は?」


 どれもないとの答えです。


 「……あ~~~~。……あ! 召還とかは使えるんだよね。こう、異世界から獰猛なケダモノを呼び出して使役するとか……」

 「……お主を呼び出したのが初めての成功なのじゃ」


 「……う~ん、もしかして、向こうの意思を無視して一方的に召還できないのかな、ひょっとして」

 「……」


 どのへんが魔王なのだろう。

 それを言わない程度の配慮がはー君にもありました。



 まおちゃんが生まれた時、母親が亡くなりました。

 その後ほどなくして父親も亡くなります。

 それからも身近な人たちが次々と亡くなります。


 外傷はなく、死因は不明。


 この異世界の文明レベルでは、人々は迷信で現象を原理付けようとします。



 かつてこの世界には、世界中を恐怖で染め上げた存在がいました。それが魔王。


 魔王は獰猛なモンスターや凶悪な魔族を引き連れ、この世界を恐怖と暴力で支配していました。


 しかし、時は流れて、魔王も魔族もすでに伝承の中の存在になっています。

 そう、他と違う子供に張り付けるレッテル程度の存在に。


 幸いと言っていいのかは疑問ですが、この島は食料が豊富で気候も温暖。

 その辺には栄養が豊富な果実が余るほど実っています。

 危険な獣なども生息していません。

 植物だけで十分に栄養が取れるので、わざわざ動物を狙う獣はいないのです。

 まさに南国の楽園。できすぎた環境です。


 子供一人でも生きていけてしまう環境だったのです。


 住人たちはなんの気兼ねもなくまおちゃんを集落から追い出し、まおちゃんはそれからずっと一人で生きてきました。


 その末にたどり着いたのがこの場所です。


 壁は土壁がむき出しで、床もあちこちに汚れやひび割れが放置されています。

 天井もあちこち崩落しており、日の光には困りません。

 はー君は召喚された瞬間に地下牢というワードが頭に浮かびました。

 危険な存在が召喚された時のため、召喚する場所を選んだのかと思ったのです。

 まったくそんなことはありませんでしたが。


 そこでまおちゃんは魔導の書を見つけたのです。

 皮肉にもここはかつて魔族の住処だった場所。それで住人たちは近寄らない土地になっていたのです。

 その魔導書の内の一冊を元に――時間だけはたくさんあったので――異世界召喚の魔法を使ってみたのでした。



 といった具合に、これまでの経緯を聞いたはー君。


 「……なるほど、それで魔王の知識を求めて自分を召喚したと。

 ――といっても、あまり期待に添えないかもね」

 「なんじゃと、魔王に詳しくないのか」

 「う~ん、そこはちょっと自信がなくもない。けどね、この世界に限らず、うちの世界でも魔王の扱いは悪いんだ。それも最近とかじゃなくて、元から」


 「……なんじゃと。……それでもじゃ。たくさん魔王の話を知っておるなら、かっこいい話とかもあるじゃろ。そういうのを参考にするのじゃ」

 「そうかい? では……」


 はー君は語り始めるのでした。


 「まず、『第六天魔王』の話から」

 「おお! 強そうな名前じゃな」

 「この魔王は世界を渡ることができます。その力で六つのも世界で、魔王として君臨しているのです」

 「ほう、六つもの世界で……、それは期待が持てそうじゃのう」


 この世界の住人であるまおちゃんにも伝わるように、はー君は言葉を選んで話し始めます。


 「そうですね~~、『聖人』……いや『聖者』。 そう『聖者』かな。

 修行を積んで、神の域にまで達してようとしている『聖者』。その前に障害として『魔王』が立ちふさがるのでした」

 「『神にならんとする聖者』!! そうじゃのう、『魔王』の相手ともなると、そのぐらいの『格』が必要じゃな」


 まおちゃんはご満悦です。


 「『魔王』は『聖者』の邪魔をすべく……」

 「うむうむ」


 「えっちな幻を見せて修行を妨害したのです」

 「ほう、そうか、えっちな幻を……」


 「……えっちなまぼろし?」

 「えっちな幻を」

 「……」


 「淫猥な幻術を……」

 「言い直せば良いというものではない! なんじゃそれは」

 「相手の嫌がることを的確に見抜き、躊躇なく実行する。性という人として生まれ落ちて逃れようのない三大欲求の一つを突いて、揺さぶる。なんと恐ろしい。まさに恐怖の魔王。この話はそういうことを教えてくれるのです」

 「そ、そうなのか?」


 まおちゃんは配下もいなければ友達もいない。

 必然対話スキルが磨かれていません。


 「いや、やはり何か違うような気がするぞ。他に、他にはないのか、その……えっち……なの以外で」

 「ありますよ。『郷里くにの母親が泣いているぞ~ 』という幻を見せて……」

 「幻しかないのか! そやつは!」



 「……なんか、こう、額からビームを出して辺り一面焼け野原にしたとか……そういうエピソードはないのか?」


 まおちゃんはどうやら幻など、格の低いセコイやり方と思っているようです。

 彼女は幻もビームも使えませんが。


 「そういう話は知らないな~」


 がっかりくるまおちゃんに、はー君は、これ別の話に出てくる魔王なんですが、と続けます。


 「人間なんかに本気出した時点で負け。格の違う存在のはずなのに本気になるなんて、まるで同格みたい、というのもありますよ。きっと第六天魔王もそんな感じで、本気を出したら負けだから、からめ手を使ったんじゃないかな。人間ごときには本気にならないもの。それが魔王というもの」

 「そうなのか?」


 「そも、第六天魔王の扱いはこれに限らず、全体的に良くなかったりするんですよね。これはまだ『聖者』とちゃんと敵対している分()()というか……。

 第六天魔王の別名に、他化自在天という名があるんですが、こいつが良くない」


 なんだか、はー君はヒートアップしてきたようです。


 「この名はまさに、神の策謀の証なのだよ」

 「う~む、神と魔王が戦うのか? それなら聞いてみたいが……」


 まーちゃんは、魔王が神と激闘を繰り広げる展開を期待しているようです。


 「神々の頂点に立つ存在とは、すべてを生み出した存在。つまり魔王すらも、この世に存在しているだけで神が生み出した存在となってしまう。さらにその神は至高の存在で、すべてを見通していなければならないのです。つまり魔王の悪行も、すべてその神の掌の上でなくてはならない」


 「うぬ~、なんという傲慢な神。そんな神とは相いれぬな。それで六天魔王は神と戦うのじゃな」

 「……いえ、残念ながら。第六天魔王はさっきも言った他化自在天という名の、神の配下の神の一人にされてしまったのです」


 はー君はがっくりと肩を落としながら語ります。


 「魔王がいくら悪行を繰り広げようと、それはすべて神の予定通り。神が魔王を生み出した瞬間から把握されていた予定調和。主に、人に試練を与えて成長させるための行動とされちゃうことが多いね~。

 つまり、魔王は、そうやって、神の配下の、マッチポンプ役のひとにされてしました。

 これはひどい」


 はー君は悔しそうです。


 「なんじゃ、それは! そんなことが許されてよいのか!?」

 「別に戦って負けたとかいう話はないですが、こんな境遇になってしまっているのだから、完全敗北したことは疑いないでしょうね。口惜しや」

 「くぅ~っ、魔王が負けた」


 まおちゃんも魔王に感情移入して悔しがります。

 二人の様子は魔王マニアのようです。



 「……その後、他化自在天にされてしまった魔王はすっかりマッチポンパー。天津神――ああ、よその国の神との間を取り持つ役なんかをやらされたり、あげく武士に信仰されたりしてまうの。……あ~、武士ってのは……チョー強い蛮族みたいなものかな」


 悪意があります。

 はー君は武士が嫌いなのでしょうか。


 「よその国の神に威圧して契約を提携させつつ、その土地の人間に、お前は神が認めた支配者だぞ、と保証して。まさに神のパシリ。それだけでは飽き足らず、神が認めた人間の支配者を守護なんかまでしてしまう。

 こんなことだから人間に信仰されちゃうんだよ。神社まで建てられて……。

 もはや、魔王のアイデンティティー崩壊」


 はー君は頭を抱えます。


 「ただ代償を求めての信仰だから、人の欲を掻き立て、神に行くはずの信仰を横取りするって言い換えれば、魔王っぽくない?」

 「……なんだか、魔王というより小悪党みたいで、いまいち憧れんのう」

 「何をおっしゃる。巨悪から小悪まで、すべて兼ね備えてこそ魔王ってもんじゃないかな」




 「……さて、それはさておき……恐ろしいことに、この扱いの悪い第六天魔王が、なんと自分の世界の魔王の原典とでもいうべき存在。……つまりその後のいろんなお話に出てくる魔王も、この第六天魔王の影響が濃く――――総じて扱いが悪い!」

 「うむ~~う~~」


 まおちゃんは、そろそろ失望してきました。

 そんなまおちゃんとさておき、はー君の語りは続きます。のりのりです。


 その後の魔王はやられ役としてのポジションを確立した。

 魔王が悪行の限りを尽くし、その後で正義の勇者とかにやられる。


 「まさに第六天魔王のマッチポンプ役を受け継いでしまった。マッチポンプ魔王が量産されてしまったのです」

 「うぬ、なんでそんなことに。なんと理不尽な」

 「なんで……って、いや? それは魔王が悪い奴だからじゃない?」

 そんな所はドライなようです。


 「別に魔王の扱いが悪くないパターンの話もあるよ。ただ、それはそもそも魔王が悪い奴じゃなかったりするんだよね」


 魔王様はとてもいいひと。その配下も愉快な仲間たち。

 いい人たちなので、理不尽な差別や暴力に苛まれても、最終的にはハッピーエンドに行きつく。

 他には、魔族の王だから魔王。魔族はみんな心優しい人。優しい世界。


 「ただ、それは名前が同じだけの別物だよね」


 それは魔王だけど、魔王じゃないとはー君は言います。

 はー君なりのこだわりはあるのでしょう。

 まおちゃんは、そんな魔王の姿にもちょっと心惹かれたそぶりが見えました。


 「さらにフレーバー扱いっていうのもあるよ。これはもはやおまけ。おまけ魔王」


 お話の中に魔王が存在しますが、主題は別というお話です。

 メインのお話は主題の方なので、メインでない魔王は、主題のついでにナレーションとかで倒されてしまいます。


 「うぬ、ひどい扱いじゃ」

 「特に魔王倒したらえっちができるから魔王倒すみたいなのがね~~~~~、えっちの前座よ。……かぁッ~~~、それだけは許せない!」


 はー君は感情を露わに嘆きます。


 「百歩譲ってえっちな誘惑を跳ねのけて勝つならいいよ……。でもえっち目的で戦うなら負けとけよ! 魔王のえっちな誘惑に屈して負けろよ!

 ちきしょう!!」


 どうやらはー君は魔王とえっちには強いこだわりを持っているようです。

 まおちゃんは、スンとした目ではー君を見ています。

 はー君が熱くなるのに反比例して冷めて行っているようです。



 「……ともかく、魔王っていう名前は原典から派生先まで、ろくな目に会わない。いわば、呪われた名!」


 なにか間違っているようで、間違っていないような理屈をはー君は強弁します。


 「でも、でも、うちは魔王だから……魔王でないと……」


 まおちゃんの様子がおかしいです。

 なんでそんな魔王にこだわるのでしょう?



               声


 誰からも相手にされず、ずっと一人で生きていたまおちゃんの脳裏に、ある日、声が響きわたったのでした。

 物心ついてよりずっと一人きりだったまおちゃんに、ただひとつの他者(?)との交流。

 その声はまおちゃんを魔王と呼び、この場に隠された魔導書まで導いたのでした。


 「あ~、それはマズイ。よくない」


 はー君は顔をしかめます。


 まおちゃんは声を仲間。或いは魔族の生き残りや幽霊と捉えていました。


 「……うん。召喚魔法の本があったこと、この島の環境。それらを踏まえると……」


 かつてここには魔族か、或いは魔王が住んでいたのかもしれません。謎の魔導書は魔族の残したものかもしれません。この島の環境は、有り余る強大な魔力で都合のいいように変質させた結果であるかもしれません。

 そして、長い時の中でそれら忘れ去られた。


 「……そうかもしれないけど、自分が思うに、その声は   神  じゃないかと」

 「え~~~」


 まおちゃんには納得がいきません。

 「なんで、神が魔王に」

 「さっき話したでしょ。第六天魔王が神の作るシステムの中に取り込まれたって。それと同じだよ」


 その声は魔王であるまおちゃんを導いて、自分の思う通りの行動をさせようと目論む。たぶんマッチポンプとして人類を苦しめて、倒される役目を。

 はー君はそう主張します。

 

 或いは魔王とは、最初からこの世界を創生した神のような存在が用意した、生物を適度に間引くためのシステムでしかないのかもしれません。

 そのために魔王としての力を、()()()()()()()()()()

 正しく、神の目的のためのマッチポンプ魔王。



 「……だからね、こんな演技の良くない名前はね、……改名した方いいわよ、あなた。良くないわ。画数も総画も良くないし、なにより霊縁画が悪いわね。あなたが力が使えないのもそのせいよ」


 はー君は怪しげな占い師のようになって、怪しげな造語を繰り出し、まおちゃんを誘います。

 その姿はとても怪しいです。

 しかし、まおちゃんは、この世界の魔王も神のマッチポンプかもしれないという言葉に動揺しており、冷静な判断が出来ません。


 「うむ~。そうした方がいいのかのう」

 「そうよ、改名すべきよ。ほら悪霊の神々とか地獄の帝王とか、もっと縁起のいい名前に変えたほうがいいわよ」


 ちっとも縁起の良さそうにない使い古し(ユーズドネーム)をおすすめしてきます。




 …………その後も二人の会話は続いたのですが、その過程は記しません。

 結論として、まおちゃんは今、コタツに入っています。


 「やっぱり、腰を据えてじっくり話すには、落ち着ける環境が必要だよね」と、はー君がどこからか出してきたのでした。


 コタツは機能の問題ない働いていますが、電気は通っていません。だけど何故か感電だけはします。

 よく意味の分からない仕様です。


 「なんじゃ? どうやったんじゃ、今のは」

 「異世界に召喚されるとチートスキルが身につく。そんな話を、自分はいっぱい読んだことがあるのです」

 「へえ~、それでか。便利なものよのう」


 まおちゃんはコタツがお気に召して、すっかり入り浸りです。

 すっかり判断力もガバガバです。

 はー君は「そんな話を読んだ」と言っただけで、自分が「召喚された時にチートスキルを手に入れた」とは口にしませんでした。


 その後も、みかん、テレビ、人をダメにするクッション、何故かネットに繋がるパソコンなど……、はー君はたくさんの物を出していきました。




 そして、そんな生活が続いた結果、まーちゃんはすっかり堕落してしまいました。



 「もう魔王とかどうでもよいのう。なあんでそんなことにこだわっていたのじゃろう。ネットさえあれば、ここで一生コタツ星人になって暮らして良いわ」


 すっかり、そんな心境になってしまいました。

 今はテレビで見たものを、AI画像生成で再現しようとして、「ぜんぜん、違う~」と笑い、それを「○○○○で生成してみた」の大喜利でアップロードして、反響を楽しんでいます。



 いつの間にかはー君がいなくなっているのにも気づきません。



 はー君はまだこの世界にいました。

 まおちゃんからの方から見えないけれども、はー君の方からは楽しそうなまーちゃんの姿がよく見えます。


 すると、見る見るうちに、はー君の姿が変わっていきます。

 この島の環境で元から血色がよかったですが、はー君の出したお菓子でさらにぷにぷにつやつやになったほっぺ。 

 そう、今のまおちゃんの姿そっくりになってしまいました。



 「はぁ~~~~、やっぱり人の子の堕落は快感だな」


 まおちゃんの姿をしたそれは、化楽の笑みを見せます。


 「これでまた一つ、化身が増えた」


 本性をむき出しにしてわらうそれ。

 とても、まおちゃんと同じ姿をしているとは思えません。

 

 「化身と成ったことで、この世界の魔王の能力も自分のものに」


 まおちゃんの姿をしたそれは、そう言って、自らのものになった能力を分析し始めました。



 その能力は、脳を破壊する能力。


 この世界の魔王の力は、生き物の脳をいじり、その生物の破壊衝動、凶暴性を著しく増大させるというものでした。


 動物の脳を破壊して、凶暴なモンスターに。

 人間の脳を破壊して、凶悪な魔族に。


 しかも、この性質は確実に子孫に受け継がれるのです。さらに、それだけでなく、代を重ねるごとに、より凶暴性を増していき、肉体もよ、り凶暴性を発揮できるように進化していくのでした。


 かつてこの世界に現れた魔王はこの力を駆使し、大軍団を作り上げ、暴力と恐怖でこの世界を支配しました。

 ですが、代を重ねるごとに強くなる破壊衝動は、ついには身内にも牙を向くようになり、自滅の形で魔王軍は消滅しました。


 或いは魔王が神のマッチポンプならば、ここまでがワンセットなのかもしれません。


 まおちゃんの周りの人間が次々と死んでいったのも、未完成なこの能力を無意識に使った結果だったのかもしれません。


 まだ力を十分に使えなかったまおちゃんには、知る由もないことでしょう。

 そして、その力は奪われてしまったことで、永久にそれを知る機会はなくなりました。


 「は~~、また、世界を救ってしまった」


 まおちゃんの姿をしたものは悦に浸っています。


 「魔王は安穏とした一生を手に入れ、自分は堕落を堪能し、新たな力まで得た。さらに世界は魔王の脅威から救われた。わがあるじも――あのお方も満足だろうね」


 それはもう本物のまおちゃんを振り向きもしませんでした。


 魔王が本当にこの世界の神が生み出したものであるとするなら、魔王がいなくなっても、破壊神や邪神に名前を変えただけの存在が新しく生まれてくるでしょう。


 それはそんなことにはまるで興味を示さず、さらに高らかに謡いあげます。


 「さらに! このままこうやって力を積み重ねていけば! いつか我が主にすら! 手が届き得る日が来るかもしれないねえ! いやあ! まさに全方位にWIN-WINの結果かなあ!

 いつかは! そう! そうだなあ……、56億7千万年後ぐらいまでには ね!」


 まおちゃんの姿をしていながらに、原型のないほどに口を歪めて嗤うそれは、そう言い残し、()()()()()()()()()()()()、自らの在るべき世界へと帰っていったのでした。



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― 新着の感想 ―
ゆるふわな日常系から一転、まさかの展開に完全に意表を突かれました。はー君が実はとんでもない存在だったという結末には、鳥肌が立ちましたね。魔王の扱いが悪いという話からの神のマッチポンプ説、そして最終的に…
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