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十色の追想  作者: 詩庵
出会い編。
9/55

あれは雨の止まない秋の終わりだった。

冷たい雨が降り続く、秋の終わり。

俺は、家を取り囲む軍勢を見た。

様々な名家の旗。長く鋭い槍。

今にも門を突き破ろうとしていた。

そのことを告げると、父は一瞬顔を曇らせた。

しかし、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべ、

「時雨。押入れに入ってなさい。父さんが開けるまで出てくるんじゃないぞ。」

そう言って俺を、押入れに押し込んだ。


しばらくして、押し入れに隠れていると外から沢山の悲鳴や怒声が聞こえてきた。

剣のぶつかり合う音。

何かが壊れる音。

誰かの断末魔。

日常からかけ離れた音。

あまりの恐怖に俺は泣きながら耳を塞いでうずくまった。


どれくらい経った頃だろうか、押し入れの戸が開き血まみれの父と真っ青な顔の母が現れた。

「お父様!お母様!」

俺は二人に声をかけたが、二人は返事をせず走り出した。

そして、俺に一本の刀を強く括りつけて、家近くの谷に突き落とした。


冷たい……

急な出来事に、息を吸い込んでしまった。

水が肺に流れ込んだ。

苦しい……

谷の底には川があり、即死は免れた。

だが、身動きが取れなかった。

薄れゆく意識の中で最後に聞こえたのは、母の「生きて!」という言葉だった。


目が覚めると俺は布団に寝かされていた。

一瞬全て夢だったのではないかと思ったが、見覚えのない部屋がそれを否定した。

呆然としていると、部屋の戸が開き一人の初老の老人が入ってきた。


老人は俺に一杯の水の入った湯呑みを渡し、ここに至った経緯を話し出した。

「私の名は鬼鐵だ。好きに呼ぶといい。」

老人はそう名乗った。


鬼鐡さんは、

「ここは天狗山。和国の北西にある小島だ」

と言った。

俺は、浜辺に流れ着いていたのを助けられたそうだ。


あの軍勢については、俺の家を謀反の罪に問い攻めてきた国の軍勢だと言った。

父は討ち死に、母は追い詰められ自害したそうだった。

家の人間は俺を除き全滅した。

長きに渡り国を支えてきた家紋は、あっさりと崩れたのだ。

俺は一人になった。

誰もいない……

国を、こんな横暴をした皇帝を、怨んだ。


しかしそれを止めてくれたのは鬼鐡さんだった。

鬼鐡さんは俺に言った。


「怨みに飲み込まれるな。

 怨んでも死んだもの達は戻らぬ。憎悪は憎悪しか生まぬ。強くなれ。

 強くなければ、失うのみ。守る力をもて。」


あまりにも静かで淡々と、それでいて強い言葉に俺は衝撃を受けた。

鬼鐡さんは一通の手紙を見せてくれた。

手紙にはこう書かれていた。


時雨へ

この手紙を読んでいるということは、おそらく私達はこの世にいないでしょう。

幼い貴方にこんな苦労をかけてしまう事になり申し訳なく思います。

ー中略ー

恥ずべきことは一切ありません。誇りを持って生きてください。

あなたのことは鬼鐡さんに頼んであります。

きっと貴方の大きな助けになるでしょう。

貴方のことです、きっと罪を晴らそうとすることでしょう。

しかしそれは、今ではありません。

今は生きる事だけを考えてください。

それが、貴方にこんな苦労をかけてしまった父と母の願いです。

貴方が健やかに成長することを願います。

                  母より


手紙にはこうなる事を予想していた母からの思いが書かれていた。

復讐は望まない。

優しい母らしい言葉だった。

だけど、

“それだけは約束出来ない”

そう思った。

だが今は時期尚早。

力を蓄えよう……


それから俺は、鬼鐡さんの家で暮らし始めた。

最初は慣れない生活に苦労したが、その大変さが救いだった。

大変さは、家族を失った辛さを忘れさせてくれた。


鬼鐡さんは俺に剣術も教えてくれた。

その剣術は「気刀流」と言い、

「適応を繰り返す剣術」

そう教えられた。

それを師匠(鬼鐡さん)は、全て伝授してくれたのだ。

師匠との生活に慣れ、気刀流もそこそこに使いこなせるようになり数年がたった、ある日

俺は、一人の少年に出会った。

少年の瞳は、澄み渡る海の青をしていた。

「助けて……」

彼は縋るような目でそう言った。

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