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十色の追想  作者: 詩庵
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月の光と蝶の聲。

ー響視点ー

私が桜花に出会ったのは、あの事件から二年後のある街だった。


桜花は、強く引っ張られて転んでも、すぐ立ち上がり歩いていた。

虚ろだった。


思わず桜花を連れていた男に声をかけると、男は今から売り飛ばすところだと答えた。

男は当たり前のように言い放ち、立ち去ろうとした。

私は関係無い。

それでも、足は動かなかった。

男もイライラし始め、私は凍りついたかのように固まってしまった。


すると、紫音が男の目の前にかなりの大金を出した。

「その子買うわ。」

思わず紫音を見ると、紫音は「その子と離れたくないんでしょ?」と言うような目をしていた。

そして、さも当たり前のような顔でにこりと笑った。


すると男はさっきまでの不機嫌だった表情を急に軟化させ、へりくだり始めた。

猫撫で声に、低姿勢。

何とも言えない気持ちを向けていると、

男はすごい速さで連れていた桜花の縄を解いた。

紫音と一言二言、言葉を交わしてお金を受け取り去って行った。


改めて見ると少女はとても痩せていて、傷だらけだった。

少女と目を合わせた。

少女は見つめ返してくれた。だけど瞳に私は映っていなかった。


道の途中で私は、少女の名前が無いことを知り、

ちょうど目の前にあった桜の花と、少女の桜色の瞳の色から桜花と名付けた。


それからは紫音と共に桜花の手を引きながら、私達の仮住まいに帰った。

道の途中、私達の自己紹介をした。

紫音から桜花の事を聞いた。

息が詰まった。

少女の身に纏った布の下には、真新しい痣がいくつもあった。


男に聞いた話なら、少女は四歳になるらしかった。

しかし、その身体は小さく年相応には見えないくらい弱々しかった。

そろそろ住まいが見えてきた。怜燈兄さんにどう言おうか…


ー紫音視点ー

「姉様?」

姉様と街に買い物に行った時に、一人の男に連れられているボロボロの少女を見た。

少女を見てどうこうしようとは思わなかった。

だけど姉様は、食い入るようにその子を見つめていた。

そして、急に男の元へ行ったかと思うと声をかけていた。正直かなり驚いた。

慌てて私も姉様の所に行き、「その子を買うわ」と言っていた。


争い事の苦手な姉様が震えながら、その子を「救いたい」という目をしていた。

理由はそれだけで十分だった。

姉様が幸せなら、それで良かった。


人を買うなんて、普通なら有り得ない。

爪が皮膚に食い込んだ。

だけど、演じるしかなかった。

「十分でしょ?」

当面の生活費をさも余裕のある様に男に見せつけ、少女を買い取った。


ー怜燈視点ー

二人と出会ってから私達は曲芸師や、治療師、薬草売りをして生計を立てて生活していた。

「流石は土の大陸。今日も豊作だ!夕飯は豪華にしてもらおう!」

響と紫音は、山の麓の街まで生活用品の買い出しに行っていた。


いつも質素な生活をさせてしまっているから、今日は好きなものを買っておいでと金を渡していた。

だけど、まさか人を買って戻ってくるとは…...。

「響、紫音……これは一体全体どういうつもりだい?」

そう聞くと響は、

「えっと……この子が、その、連れてかれそうで、仕方なくって、悪気はなくて、その、ごめんなさい。」

今にも泣き出しそうな声で、そう返ってきた。


責めたつもりはなかったが、二人はとても不安そうな音をしていた。

その一方で、二人に連れられた少女の音は、不気味なくらい静かだった。


「……ごめん。ちょっときつい言い方になっちゃったね。

怒ってないから二人ともそんな顔しないで。

とりあえず、響はその子、えっと名前は?」

「えっと、名前はなかったみたいだから、さっき桜花って名前がいいかなって、

思って呼んでたのだけど、変かな、?」

桜花。響らしく、綺麗な音だと思った。

「ううん。素敵だ。響、桜花ちゃんの容態を見てあげて。

大丈夫そうなら身体を洗ってからご飯にしよう。

紫音!ご飯と火の用意を頼んだよ。」

「「わかった!」」

そう言った二人は、さっきまでの様子が嘘のようにテキパキと動き出した。

二人が動き出したのを見届けて、俺は近くの川まで水を汲みに行った。


ー響視点ー

勢いで連れて帰ったものの、怜燈兄さんの動揺した顔を見た瞬間、鼓動が速まった。

兄さんが「え……?」と言う目で、私を見つめた気がした。

「響、紫音……これは一体全体どういうつもりだい?」

兄さんがこちらにゆっくりと歩み寄って来た。

何も入っていないはずなのに、胃から気持ち悪さが溢れてきた。

身体が強張った。

その一方で、桜花の手を離すことは出来なかった。

怜燈兄さんは私の様子を見て、何か思ったのか私に桜花の容態を見るよう言った。


こんな幼い子にどうしてそんなことが……

桜花を治療しながらも、「ありえない……」

そう思うと、術が乱れてしまった。

しばらくして、怜燈兄さんが水を持って帰って来た。

「桜花の容態は?」

「栄養失調よ。それに……傷も酷いものだったわ。」

「そうか、それなら今日は身体を軽く拭いてからご飯だけ食べて寝よう。」

怜燈兄さんはそう言って、お湯を沸かし、桜花の髪を洗い、身体を優しく拭き始めた。

途中で私と代わると、今度は綺麗な着物を持ってきてくれた。

桜花が綺麗になった頃、丁度紫音が夕飯を持って入ってきた。

「「「いただきます」」」

「……」

私達はご飯を食べ始めた。

桜花は最初、戸惑っていたのか、何も食べようとしなかった。

私がそっと口元にご飯を近づけると、ゆっくりと食べ出した。

ほっとした。

反応は薄いものの、ちゃんと食べたのだ。

それだけで、不安が押し流されるようだった。


ー桜花視点ー

「怜燈」と呼ばれていた少年は、私のことを大切なものを扱うみたいに接してくれた。

久々に見た、まともなご飯は、とても美味しそうだった。

気を使ってくれたのか、固形物がなく柔らかくされていた。

怒鳴られない、叩いてこない。

どうするといいの……?

勝手に動いたら、痛い思いをするんじゃないか。

私は動けずにいた。

そんな私に三人は怒ることなく、響さんは私にご飯を食べさせてくれた。

甘い……

ご飯って美味しいんだ。


ご飯の後は、怜燈さんが食器の片付けをしているうちに、響さんが布団をひいて寝かせてくれた。

響さんが歌を唄ってくれた。初めて聞く子守唄はとても綺麗だった。

三人で使う布団は少し狭かったけど、暖かかった。

この夢が、ずっと続けばいいのに……

布団を握る手が、強くなった。


ー響視点ー

二人が、微かな寝息を立てているのを確認して私は布団から出て洞窟の外に出た。

外に出ると、夜風が少し冷たかった。

「眠れないの?」

怜燈兄さんにそう声をかけられた。

「うん、落ち着かなくて、」

そう答えると、「そっか……」と怜燈兄さんは言って私に上着をかけてくれた。

「今日は色々あったもんね。大丈夫。響は間違ってないよ。」

短い言葉だけど、その言葉に救われた。

胸の奥につっかえていた後悔が、ゆっくりと解けていった。

「明日の夜にはここを立とう。そろそろ潮時だ。」

怜燈兄さんにそう言われた。

「わかったわ。いつもありがとう。怜燈兄さんおやすみなさい。」

そう言って私は布団に戻り、穏やかな気持ちで目を閉じた。


ー怜燈視点ー

「わかったわ。いつもありがとう。怜燈兄さんおやすみなさい。」

そう言って響は戻っていった。その足取りは蝶が舞うかのようだった。

まただ、また手が震えていた。

人が増える。

それは逃げる上では致命的な弱点だ。

弱った子供も連れて逃げ切れるのか……

しかし、見捨てればきっと自分を許せなくなる。

空には満天の星が輝いていた。

気づくと手の震えは小さくなっていた。


きっと兄さんも、そう言っただろう。

「明日の月はもっと綺麗だよ、兄さん。」

そう呟いた私の影を、月は優しく照らした。

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