夜明けのしらべ。
「怜燈、また染めるの?せっかく綺麗なのにもったいないわ。」
「金髪だと目立つだろ?それに俺、黒も似合うだろ?」
怜燈との旅は、驚きの連続だった。
彼は、優雅で美しい見た目とは裏腹に、野生的だ。
食事は基本的に、生か焼いたのか消し炭にしたのかわからない何か。
お風呂は、洗うというよりも水浴びに近かった。
「嘘でしょ……」
目の前の光景が信じられなかった。
お風呂は兎も角としても食事だけは譲れなかった。
紫音は初めて料理を見た時、
「姉様、これは何に使うものなの?」と聞いてきたほどだった。
私が食事を作ると、怜燈は目を輝かせて「こんな美味しい料理は久しぶりだ!」と喜んだ。
ただの、焼いただけの魚にここまで言うなんて……
驚いた。だけど、怜燈の人らしい一面を知ることができたようで心が躍った。
旅を始めても怜燈とは、ずっと一緒にいるわけではなかった。
怜燈は、昼も夜もどこかに行っていた。
ただ帰ってくるときは、疲れの残る顔をしながらも、いつも食材を持っていた。
そのほとんどは、木の実や川魚だった。
しかし、どう見ても売り物だろうと思う野菜が紛れていたのだ。
おそらく彼はお金を持ってはいない。私達の持つお金にも手を付けた気配はなかった。
考えられる答えは一つ。
盗んでいるのだろう。
胸が痛むより、すっとした。
人の物を盗むなんて、決して良いことではない。
だけど、生きるためには仕方ないのかも……
確かに、大人びているとはいえ身体は幼い。お金を稼ぐのも容易ではないだろう。
それに私達の分まで、そう思うと心苦しかった。
私達はお金を稼ぐことにした。幸いにもできることはあった。
私は治癒能力を使えたし、紫音も薬草の知識に長けていた。
怜燈からの了承も貰い、私達は昼間治療師の真似事を始めた。
置いたお椀には、銅貨が積み上がっていた。
まず私達の容姿は人の目を引くのだ。
私と紫音は町でも評判の器量良しだった。
しかしそれ以上に怜燈は人の目を引いた。
染めた濡れ羽色の髪が艶めき、笑顔は人々を魅了した。
そして、人との会話も上手かった。
ほとんど捏造に近い、身の上話をさも本当のように語るのだ。
道を一歩間違えれば彼は詐欺師だったかもしれない。
何かあった時は、その時に考えよう……
そして一番驚いたのは、怜燈の移動能力だった。
私達は満月の晩になる度に国を移動した。
景色が流れるように移り変わったと思うと、次の瞬間には別の土地にいた。
彼は「満月の晩にしか使えなくて不便」だと言ったが私達の中では、奇跡とも呼べる所業だった。
怜燈のおかげで、一度も国や大陸間の移動で捕まることはなかった。
怜燈との旅は驚きの連続だったが、楽しさに満ち溢れていた。
三人で食べるご飯は、暖かく美味しかった。
いつしか私達は怜燈のことを「怜燈兄さん」と呼ぶようになっていた。
怜燈兄さんもその想いに応えるかのように、大切に扱ってくれた。
兄さんの自然で暖かい優しさが、
紫音に毛布をかける姿も、
私を撫でる優しい手も、
父様や母様みたいで好きだ。
気がかりなことはあったけれど、幸せだった。
幸せは永遠ではない。
そうわかっていても永遠を願わずにはいられないほどだった。
二度目の桜が舞う頃、私は一人の少女に出会った。
足元がおぼつかない程痩せ、傷だらけの少女から目が離せなかった。
その瞳は暗く濁り、何も映していなかった。




