氷の少女。
ー蓮華視点ー
……待って、置いてかないで。
はっ……また目が覚めてしまった。
あれからどれくらいの時間がたったんだろうか。
ふと外をみると、その景色はいつもの景色とは違った。
誰かいる。誰かいる!
ー怜燈視点ー
出られない。
何も考えずに入ってしまったこの場所から、
抜け出せなくなってしまった。
どうしよう。
きっとみんな心配してるはず。
何か外に伝える方法は、出る方法は、
「……キコエ、マス、カ?」
突然声が聞こえた。
「誰?どこにいるんだ?」
「……ココ、ココ二……イマス。」
「どこ?どこに……」
得体の知れない、不思議な声に困惑した。
「……イマス。イマス。ココニイマス。」
か細くも、透き通った声だった。
しかし、何度問いかけても帰って来るのは同じ答えだった。
「……イマス。ココニイマス。アナタノウシロ。……タスケテ。」
何度目のやり取りだったか、答えが変わった。
俺の後ろ、そこにあるのは……
「蓮華ちゃん?蓮華ちゃんなのか?」
「……!ソウ!……ソウデス!レンカ……レンカデス!」
声はそう言った。確かにそう言ったのだった。
「蓮華ちゃん!初めまして、俺の名は怜燈。
君のお兄ちゃんに頼まれて来たんだ。
君を助けて欲しいって。」
「オニイチャン。
フブキ、オニイチャン?……イブキ、オニイチャン?」
「……!二人に!二人に頼まれたんだ!椿ちゃんも心配してる。
だから、一緒に行こう!」
「……イヤ。イカナイ。イカナイデス。」
「どうして?」
「マタ、ステラレル。オイテイカレル。……コオラサレル。
サミシイノハ……モウイヤ!」
そう言った途端、氷塊から凄まじい吹雪が起こった。
「イヤ!イヤ!モウイヤ!!
ドウシテ、ドウシテ……ナンデ、ナンデ、ヤメテ、
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。オイテカナイデ、ヒトリニシナイデ……」
声は叫び続けた。
それは、彼女の悲痛な叫びだった。
幼くして、裏切りを知り、孤独を知った彼女の叫び。
十二年。
独りでいるには、あまりにも長すぎる時間だった。
独りは寂しい。苦しい。助けてほしい。
そんな言葉すら紡ぐことが許されなかった少女の想いが、
今、溢れ出していた。
「イヤ、イヤ、ヤメテ……クルシイ。モウイヤ……」
「……君は独りじゃない。もう独りじゃない。
もう独りにはしないよ。
置いてったりなんかしない。君の傷が癒えるまで、ずっと傍にいるから。
だから、だから、出ておいで。
一緒に行こう。」
長い沈黙の後声が聞こえた。
「……ヒトリ、ジャナイ……?」
「うん。」
「ヒトリ二シナイ……?オイテイカナイ……?」
「うん。約束するよ。」
「ヤクソク……」
「あぁ。神に誓ってもいい。」
「……イラナイ。ソンナノイラナイ。
ダカラ……ダカラ、ヒトリニシナイデ。」
「わかった。君を独りになんかしない。」
「さぁ。目覚めの時間だ。雪野 蓮華ちゃん。一緒に行こう。」
「……ウン。」
ふっと、目の前が明るくなった。
閉ざされていた世界に、光が差し込んだ。
次の瞬間、俺の腕の中に女の子が降ってきた。
蓮華ちゃんだ。約束の子だ。
降ってきた蓮華ちゃんは気を失っていた。
慌てて呼吸を確かめると、ただ眠っているだけだった。
「よく頑張ったね。もう一人にしないよ。おやすみ。」
聞こえてないだろうが、彼女に声をかけ俺は吹雪の中へ進んで行った。
さっきは俺を拒むかのように吹き荒れていた吹雪が嘘のように消えていた。
そして暗く曇っていた空は晴れ渡り太陽が輝いていた。
もうすぐ花畑を抜ける。
そう思い顔を上げると、そこには一柱の神が立っていた。




