後悔。
ー鈴音視点ー
怖い。
嫌。
何も見たくない。
知りたくない。
止めて、もう何も見せないで……
アウラから貰ったこの眼は、私に全てを見せてくれる。
今までは、新しくて綺麗な世界を視ることが、とても楽しくて嬉しかった。
けれど、今日は怖いだけだ。
「答え合わせをしよう。」
そう言って、花畑の奥に消えていった怜燈兄が視えなくなってから悲劇は起こった。
悪そうな大人が来て、私達を庇おうとしてわざと姿を見せた響姉を殴った。
響姉を助けようとして、出て行った凪兄のことも集団で痛めつけた。
怖い。
私より怖い思いをしているのは、あの場に置いてきた二人のはずなのに。
私は心配するどころか、恐怖に心を支配され、自分じゃなくて良かったとさえ思っていた。
最低だ。
あの二人はみんなの為に自分を犠牲にしたのに、私は何も出来なかった。
いや、しようともしなかった。
自分可愛さに二人を見捨てた。
後悔してもしきれない。
でも、怖くて体は動かなかった。
そして、私に追い打ちをかけるかのように、風は私に世界を視せてくるのだ。
「はぁ、やっと大人しくなった。こいつガキのくせに異様に強かった。」
「だよな。攻撃はほとんどしてこないくせに、防御は鉄壁だったな。
将来が末恐ろしいわー。」
「その将来を駄目にするくせに、何言ってるんだよ。」
「あっ、ばれた?」
「ばればれだよ。」
「「「あーはっはっはっ!」」」
「あー笑った笑った!旦那ーもう帰りません?
今年もどうせ、はずれですよー。それに子供ならほらここに。
さっさと帰って美味しい酒でも飲みましょう!」
「それもそうだな!命令はガキを連れてこいだ。
誰をとは聞いていない。こいつらでいいだろう。
さぁ戻るぞ!さっさと案内しろ!!」
「は、はい!!!」
そう言って男達は、二人を連れて去っていった。
いや、もう嫌。
もうやめて。これ以上何も視せないで、
もう何も視たくない。
ー桜花視点ー
どうしよう。
私のせいだ。
私が崖から落ちかけたばっかりに。
響姉さんと凪兄さんが、どうしたら。
責任を取らなくちゃ……
ー紫音視点ー
姉様。
私達を庇って姉様が飛び出してしまった。
状況的には、きっとあれが最善だったのかもしれない。
だけど、だけど、もっと何か別の方法があったかもしれない。
みんなで逃げたら、逃げられたかもしれない。
もし今日、この場所に来なかったら、
皆で怜燈兄さんに着いていっていたら、
そんな可能性の話が、私の頭の中をぐるぐると回っていた。
「待て!桜花!どこに行くんだ?!落ち着け!」
そんな声にはっとして顔をあげた。
時雨が焦った顔で桜花の前に立ち塞がっていた。
桜花は、そんな時雨を押し退けるかのように前に進もうとしていた。
「紫音!!紫音!お願いだ!桜花を止めてくれ!
すごい力なんだ!!抑えきれない!」
そんな時雨の声に、急いで私は桜花を後ろから羽交い締めにした。
それでも桜花は、進もうとしていた。
止められなかった。
「桜花、ごめんなさい。」
「夢狂」
そう呟いて私は、桜花を眠らせようとした。
だけど、桜花は眠らなかった。
その力はもう、人の領域を超えていた。
「桜花!しっかりするんだ!
この雪では下手に歩き回ればもう帰れなくなる!」
「桜花!しっかりして!姉様は大丈夫だから!落ち着いて!!」
「姉さん、響姉さん!ごめんなさい。
私のせいで……今助けるから。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
私たちが呼び止めると、桜花は希薄な声でそう呟いていた。
そうか、桜花は自分のせいだと思ってるんだ。
だけど、そうじゃない。だから伝えなくちゃ……
「桜花!よく聞いて!桜花のせいじゃないわ!
桜花は悪くないわ!誰も桜花を責めたりしないわ!だから落ち着いて!!」
そう言いながら桜花を抱きしめた。
桜花の小さな体は、震えていた。
まだ進もうとしていたけれど、それも少しずつ収まってきた。
進もうとしなくなったのを確かめて、私は桜花の目を見た。
桜花は、紅赤色の瞳から大粒の涙を流して泣いていた。
「ごめんなさい。紫音姉さん。
私のせいで響姉さんが、凪兄さんが。
私が落ちたりなんかしなければ。」
そう泣いていた。
「桜花。よく聞いて、さっきも言ったけど貴方のせいじゃないわ。
誰も後に崖があるなんて知らなかったわ。
それに、桜花が叫んでくれたから、見つかっちゃったけど、他の皆は落ちなかったわ。
桜花のおかげで、誰も落ちて怪我しなかった。
だから、ありがとう。」
「で、でも、私がもっと後ろを見ていたらこんなことにはならなかった。」
「そうね、そうかもしれない。
でも、そうじゃなかったかもしれないわ。
結果なんて、実際に起こってみなきゃ分からないわ。
だから、そんなに思い詰めなくていいのよ。」
「け、けど……」
「……そうね、今は辛いかもしれないし、苦しいかもしれない。
桜花の気持ちは、桜花にしか分からないわ。
私達が出来ることは、寄り添って抱きしめてあげることしかできないの。
でも、桜花が反省して後悔していることはよく分かった。
だから、それを次に活かせばいいのよ。
失敗は誰にでもある事よ。
失敗を活かせないなら、桜花は悪い子なのかもしれない。
けど、桜花はちゃんと活かせるでしょ?」
「うん……」
「偉いわ。流石私達の妹よ!だから大丈夫!元気を出して!
これからどうするかは、皆で考えましょう!わかった?」
「わかった。もう危ない事はしない。」
「そうだな!偉いぞ!桜花!!」
そう言って、時雨兄さんが桜花の頭を撫でていた。




