決断。
ー時雨視点ー
「そのまま静かにしているのよ。」
そう言って、響さんが飛び出してしまった。
後を追おうとすると、凪と紫音に止められた。
「駄目!!」
「どうして?!早くしないと響さんが危ない!」
「駄目よ、駄目なの。姉様の気持ちを、覚悟を無駄にしないで!!」
小さくもはっきりとした声で言われた。
紫音は大きな紫色の瞳に涙を浮かべながらも、俺の事を引き留めていた。
凪も怯えた目をしながらも、必至に俺のことを引き留めていた。
俺が浅はかだった。
何の思いも汲もうとしなかった。
ここは響さんに任せよう。
そう思った。
だから響さんが、怒鳴られても手首を掴まれても、
声を押し殺して泣く紫音を抱きしめ我慢した。
しかし、バチーンと言う音が聞こえた瞬間。その我慢も尽きた。
思わず飛び出そうとしたが、それより先に凪が飛び出していた。
後を追おうとするも今度は鈴音に止められた。
「凪兄から言伝。
響さんの事は僕が守るから、時雨は他の皆を守って。
こっちに必要なのは僕じゃない。僕より時雨の方が必要だ。だからお願い。って。」
そう言った鈴音も双子も紫音も皆不安そうだった。
不安なのは俺だけじゃない。
今の俺に出来ることはなんだ。
武装した人間が二十人。
こちらは戦えない者約五人。怪我人一人。
俺と凪だけじゃ無理だ。
鈴音や桜花、双子はもちろんのこと、紫音も戦えないだろう。
この状況では皆を危険に晒す。
それならば今の最善は……
俺は五人を連れて、崖から飛び降りた。
ー凪視点ー
最初は時雨の事止めていたけど、止めるべきは僕の事だった。
我慢しなければならなかったのに。
響さんに傷を負わせてしまった。
頬を真っ赤に腫らし、口から血を流す響さんを見た瞬間飛び出していた。
でも、後悔はしてない。
我慢なんてしなくていい。
もうあの時みたいに無力ではいたくない。
今響さんを助けるべきは僕だ。
時雨じゃない。
僕だって男だ。
強くはないけど出来ることはある。
俺は男に固く丸めた雪玉を投げつけた。
雪玉は男の目に当たり、男は悶絶した。
受け止めた響さんは、気を失ったのかぐったりしていた。
「お、お姉ちゃんを殴らないで下さい。
生意気を言った事は謝ります。
だから、どうか売り払わないで下さい。
病気の家族が家で待ってるんです。
だから、だからどうか、家に帰らせてください。お願いです。」
おそらく、聞いては貰えないだろうが、そう要求した。
すると、別の男が前に出てきて言った。
「うん?まだガキが居たのか。
そうだなー。
そいつは無理な頼みだな。
特にお前今こいつに怪我させただろ?下手したら一生ものの傷だ。
どうやって責任取るんだ?」
「……治療します。」
「治療?そんなん要らねーんだよ。俺は責任を取れって言ってんだよ。」
「だ、だから、治療するんじゃないんですか。」
「あーはっはっはっ!お前は阿呆か?それとも馬鹿か?
仕方ねぇな。分かりやすく言ってやるよ。
金だよ。金をよこせ。」
「そんな、急に……
今すぐは出来ませんが、必ずお渡しします。いくらでしょうか。」
「あー?そんなもん即金で百万に決まってるだろ?
いつか?そんなもん許される訳ねぇだろ?
帰りたいなら、今払って帰りな。」
「む、無理です。持ってません。」
「だろうな笑。
まぁ、俺達も鬼じゃない。妥協案といこうじゃないか?」
「妥協案ですか?」
嫌な予感がした。
「身を売れ。簡単だろう?
そうだな、お前達揃って綺麗な顔してるからなぁ。
五十回だ。一人五十回我慢すれば帰れるぞ。
どうだ?いい考えだろう。」
「安心しな。場所は俺達が用意してやるよ。
金の管理もな?だから大人しくついてきな?」
嫌な予感は的中した。
なんて最低なのだろう。
言葉の衝撃で、思わず目の前が真っ暗になりかけた。
「……無理、で、す……。それは出来ません。」
ようやく絞り出した声は震えていた。
「あぁ?よく聞きな小僧。世の中なぁ、何でも嫌じゃどうにもなんねぇんだよ。
てめぇのした事はてめぇで責任を取らねぇとな。
俺達は妥協してやったんだ、これ以上の妥協はねぇ。
さっさと選びな?金か身売りか。今なら好きな方を選ばせてやる。」
逃げる?
いや、無理だ。響さんを担いでは逃げきれない。
どうしよう。
怖い。
力を使えば多少の時間稼ぎにはなるだろう。
だけど、使えば神族であることがばれてしまうだろう。
ばれてしまえば、僕達の事を人間であると思っている今でさえ、この態度だ。
状況は悪化こそすれど、改善はしないだろう。
気配からして時雨達は岩の後ろにはもう居ない。
時雨の事だから上手くやってくれただろう。
俺は時雨にはなれない。
時雨みたいに強くない。
響さんみたいに頭の回転もはやくない。
怜燈兄さんみたいな機転もきかない。
どうしたら、どうしたらいいんだ。
いくら考えても答えは分からなかった。
「はい、時間切れー!さぁガキども、一緒に行くとしようか?
安心しろ。最初はお姉ちゃんの方から優しく可愛がってあげるからなぁ。」
そう言いながら、男が僕に手を伸ばしてきた。
その瞬間、堪えていたものが溢れかえる感覚がした。
「僕達に触るな!!!」
そう叫んだ、僕の体から突如として水の膜が出現し、男の手を拒んだ。
「ちっ、こいつ気術を使いやがった。
おい!お前ら手伝え!こいつは水を使う!土か風で対抗しろ!」
男がそう声をあげると、
今まで後でにやにやしていた男達が、少し顔を引き締め、
僕達の周りを半円を描くかのように取り囲んだ。
これ以上話し合おうとしても無駄だろう。
そう思い、僕は立ち上がった。




