花畑のその先に。
ー紫音視点ー
「じゃあ翔ぶぞ。」
「「「うん。」」」
そう言った怜燈兄さんの身体は、きらきらと輝き始めた。
そして次の瞬間ぱっと目の前が明るくなったかと思うと、私達は雪原に立っていた。
「いつもより速い?」
そう聞くと、
「あぁ。いつもと比べるとそこまで移動してないからな。
さぁ。登るぞ。」
怜燈兄さんは迷わず歩き始めた。
まるで、どこに行くべきか分かっているかのように。
三十分も歩いた頃だろうか。
怜燈兄さんが急に立ち止まり振り返った。
「着いたよ。ここだ。」
そう言われ、今まで雪に足を取られないよう下を向いていた顔を上げた。
そこにはこの世のものとは思えないような、花畑が広がっていた。
「綺麗……」
「これが、雪蓮花。とても美しい。」
「わー!すごい!!」
みんな思い思いに言葉を呟いていた。
思わず雪蓮花に手を伸ばそうとすると、
「触っちゃ駄目!!」
と、後ろから思いっきり引っ張られた。
驚いて振り返ると、姉様が焦った顔で私の服を引っ張っていた。
「姉様?どうしたの……?」
「あっ、急に引っ張ってごめんね、紫音。
その、雪蓮花なんだけど私達は触れることはできないの。」
「どうして?」
「花に拒まれているからよ。」
そう呟いて、姉様は雪蓮花について教えてくれた。
「雪蓮花は、とても美しく、万能薬にも成りうる花よ。
でも、決して摘む事はできないの。
もし触れようものなら、あっという間に身体が氷ついてしまうわ。」
「……?じゃあ、どうして万能薬って言われてるの?」
「花を摘むことが出来る者がいたからよ。さぁ、答え合わせといきましょう。兄さん。」
ー怜燈視点ー
そう言って、響がゆっくりこちらを振り返ってきた。
その姿はまるで、全てを知る者。
森精種を超えた「ハイエルフ」の姿そのものに見えた。
「……そうだな。ここまで付き合わせたんだ。答え合わせをしようか。」
俺は、そう言わざるを得なかった。
ー響視点ー
怜燈兄さんは「答え合わせをしよう。」
そう言うと、雪蓮花の花畑に向かって歩き出した。
「危ないわ!」そう叫ぶと、
「大丈夫だよ。」
兄さんは立ち止まり、そう返すと再び歩き出した。
兄さんが凍ってしまうのではないか、怖くて思わず目を瞑ると、
「姉様!見て!!すごいわ!」
紫音に袖を引っ張られ、前を見ると、
雪蓮花が兄さんの足元からゆっくりと左右に動き始め、道を作っていくのが見えた。
そして、兄さんがその道を通るとまた元の場所に戻っていった。
その様子はとても神々しかった。
ー怜燈視点ー
「危ないわ!」
響にそう言って止められた。
それはそうだ。
選ばれた者しか触れることも、摘む事もできない花だ。
でも、進まなくてはいけない。
正直とても怖い。
でも、約束だから。
「だい、じょうぶ、だ、よ……」
響達を不安にさせないように、震える声をめいっぱい抑えてそう返した。
一歩を踏み出した。
すると、不思議な事が起こった。
花畑が動き始め、道を作り出したのだ。
淡く光を受けて虹色に輝く雪蓮花は、七分咲の花弁をゆっくり揺らしていた。
花畑の作る道はまるで、俺の行きたい場所を知っているかのようだった。
気づけば俺は、一人で霧の中にいた。
道はまだ続いている。
進まなければ。
(俺は出来る。)
そう自分を鼓舞し、俺は歩き続けた。
すると、だんだん霧が薄くなり次の瞬間、ぱっと目の前が明るくなった。
そこは、崖の下だった。
高さからしたら、十メートル前後だろうか。
崖の下で、彼女は一輪の雪蓮花を咲かせたまま凍っていた。
その姿は、十二年前のままなのだろう。
そして、その心も。
約束の場所はここだろう。
やっとここまで来た。
吹雪お兄ちゃん。
ようやくお兄ちゃんとの約束を果たせそうです。




