表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十色の追想  作者: 詩庵
出会い編。
39/53

約束。

ー怜燈視点ー

雪に沈んだ村。

やっぱりここだ。この村だ。

約束を果たさねば。


「怜燈。ひとつ頼まれてくれないかな。」

「何を?」

「もしね、君がこの先……自由に生きれるなら妹を助けて欲しいんだ。」

「え、どうして、僕なんかに。」


「君だから。怜燈だから頼んでるんだ。」

「自由になんかなれないよ。ここからは逃げられない。」

「じゃあさ、

僕達が逃がしてあげる。

だからさ、ここから自由になれたら

十二年後の十二月二十五日。

雪に沈んだ村の北側の山に行って欲しいんだ。

行ったらわかるから。

妹を。蓮華を助けて欲しいんだ。」


「どうして、吹雪お兄ちゃんが行かないの?」

「神誓約を結んでしまったんだ。だから俺達はここから出られない。

だから、唯一ここから出られる怜燈にお願いしたいんだ。」


「……わかった。蓮華ちゃんは必ず助けるよ。だから僕と約束して欲しいんだ。」

「いいよ。蓮華を助けてくれるんだ。

僕に出来ることなら、何でも約束しよう。」

「じゃあ、生きていて欲しい。何があっても。

いつか必ず貴方の事も助けるから。待っていて欲しい。

この約束を守ってくれるなら、吹雪お兄ちゃんのお願い叶えてあげる。」

「……わかったよ。ありがとう。待ってるから。何があってもずっとここで。」

「ありがとう!」

「さぁそろそろ時間だ。始めるとしようか。」

「吹雪、ほんとにやるのか?あれは負担がでかすぎる……

俺はともかく、今のお前は耐えられるのか?」

「耐えてみせる。約束したんだ。

それに夢が出来たんだ。僕はもう一度生きて蓮華に会う。それまで死んだりなんかしない。」

「……わかった。吹雪がそう言うならやろう。」


「「雪嵐!」」

彼らがそう叫んだ途端、急激に部屋の温度が下がった。

世界が凍りつき、吹雪が吹き荒れた。

思わず目を閉じてしまった。

次に目を開けた時には、部屋の壁はなかった。

そして堀も凍り、まるで一本の道が出来たかのように前が拓けていた。

俺を繋いでいた鎖も破壊され、俺を縛るものは何も無かった。


「はやく!人が来る前に行くんだ!」

「わかった。約束忘れないでね!!」

「あぁ!だから蓮華の事頼んだよ!」

「……任せて!」

そう言い俺はその場から逃げ出した。

脱走を手助けした者がどうなるか、俺は知っていたのに。

あの人はまだ生きているだろうか。

まるで、俺の兄みたいに躊躇いなく自分を犠牲にする、

お人好しだったあの人は……


響達に出会う前の話だ。

ある街に滞在していた俺は、どこから情報が漏れたのか、奴隷商に捕まってしまった。

そこで出会ったのが吹雪お兄ちゃんだった。

灰水色の少し毛先に癖のある髪に、氷みたいにきらきら輝く瞳がとても印象的だった。

吹雪お兄ちゃんも最近ここに連れてこられたらしかった。


お兄ちゃんは、一人でいた俺の事を気にかけて、

何もすることのない時間によく話しかけてくれた。

お兄ちゃんには、二卵生の双子の弟とまだ幼い妹がいた。

妹の椿ちゃんは、吹雪お兄ちゃんにべったりだったけど、俺ともたまに話してくれた。

「ねえねはね!とっても優しいんだよ!椿にね!お菓子わけてくれるの!

その前はね!この髪飾りくれたの!ねえねの手作りなんだよ!すごいでしょ!」

「うん!すごいね!とっても綺麗だ!」

「でしょ!!」


三歳とは思えないほど発音の上手な椿ちゃんは、よく「ねえね」の話をしてくれた。

最初は「ねえね」が誰かわからなかった。

だけど、ある時吹雪お兄ちゃんが教えてくれた。


「椿の言うねえねは、僕の七つ下の妹の事なんだ。

訳あって、雪山に一人置いてきてしまったんだ。」

そう言った吹雪お兄ちゃんはとても悲しそうだった。

どうしようもない事情があったのだろう。


そんな会話もしながら吹雪お兄ちゃんは、故郷の話もいくつかしてくれた。

「僕の故郷はね、今は雪に埋まっちゃったんだけどね、とても綺麗な花が咲くんだ。

雪蓮花って知ってる?」

「ううん。そんなに綺麗なの?」

「あぁ!とっても綺麗なんだ!

一年に一度しか咲かないし、咲いても数時間で散ってしまうんだけどね。

その散る姿さえ綺麗なんだ!」

「いつか見てみたいな!」

「怜燈にもいつか見せてあげたいな。」

「一年に一度っていつ咲くの?」

「十二月二十五日の日の出と共に咲き始めて、日の入りと共に散るんだよ。

それにね、僕達のいた村は雪が止むことが一度もないって言われてるんだけど、

十年に一度、雪蓮花の咲く日だけは快晴なんだ。

だから時を告げる花って呼ばれてるんだよ!」

「素敵な花だね。」

「うん。」

そう言った吹雪お兄ちゃんは、また悲しそうな顔をした。


俺が捕まったここは、多分いい所ではない。

奴隷商に良いも悪いもあるかとは思うが、それでも善し悪しがある。

ここは環境は良い方だが、客層は最悪なのだろう。

夜になると、吹雪お兄ちゃんと弟の伊吹お兄ちゃんは、偉そうな男にどこか連れて行かれた。

そして夜が明けてから、傷だらけになって帰ってきた。


体は綺麗に洗われていたけど、生々しい傷が全身に広がっていた。

それなのに、彼はいつも笑顔だった。

傍にいる俺達に泣き言ひとつ言わず、いつも笑顔だった。

彼は夜になる前いつも俺に、体調の悪い振りをするように言った。

そして、俺を連れていこうとする男から守ってくれた。

そのせいで酷い事を言われても守ってくれた。


「あの子は急にこんな場所に、連れて来られたせいで体調を崩してしまってるんです!

無理をさせては今後に響きます。貴方様方も商品を駄目にしたくはないでしょう?

あの子の分も僕が働くので、今日も勘弁していただけないでしょうか。」

「あぁ?今日もかよ。たく使えねーな。体調を回復させるのもお前の役目だろうが?

まぁいい。その分お前が働くなら許してやろう。今日も励めよ。」

「ありがとうございます。」

きっと、ろくな事をされていないだろうに……


ある日、

「僕も働くよ。」

そう言った。

だけど吹雪お兄ちゃんは、

「いいんだよ。怜燈のように幼い子はあんな事しない方がいい。

お兄ちゃんに任せておきな。」

そう言われてしまった。それを聞いていた伊吹お兄ちゃんは、

「正気か?!吹雪!これ以上は無茶だ、お前が壊れてしまう。

お前もお前だ!怜燈!お前がここにさえ来なけれ」

「黙れ!伊吹!黙るんだ!」

俺に対して何かを言いかけた伊吹お兄ちゃんの言葉を、吹雪お兄ちゃんは遮った。

今までに見たことのない顔をしていた。


「怜燈。何も気にしなくていいんだよ。今日も椿の相手を頼めるか?」

そう言って、迎えに来た男と出て行ってしまった。

こんな日々が一ヶ月程続いた頃だった。

吹雪お兄ちゃんが俺のことを逃がすと言い始めた。


「何を言ってるの?!僕を逃がす?そんなの駄目に決まってる!

奴隷は逃げた者もその手助けをした物も同罪で、重罪だよ!危険すぎるよ!」

「……どうして怜燈がそんな事知ってるんだ……」

「……奴隷だった事があるからだよ。

軽蔑した?吹雪お兄ちゃんに守ってもらってたくせに本当は全部知ってる事。

知ってて守ってもらってたこと。」

誰にも言った事なんてなかったけど、俺は昔、奴隷だった事があった。

聖燈兄ちゃんが、自分の事を犠牲にしてまで救ってくれたけど、

いくら人の子より成長が早くとも三歳の子供に一人で生きて行くこと、

逃げ延びる事は困難だった。

正体がばれ、捕まり色々な事をさせられた。

芸や気術をやらさせるなんて事は可愛いもんで、自分より大きい獣と戦わされたり、

色を売ることもさせられた。

体も心も限界にきていた時に月に助けてと願ったら、

俺の体は光の粒になって檻から抜け出していた。

気づくと遠くの地に来ていた。


逃げては捕まる。

捕まっては逃げる。

そんな日々を繰り返して生きてきた。

だから知っていた。


苦しいのも、辛いのも知っていたのに、

俺は怖くてほんとの事を言わなかった。

「……ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。

またあんな事をされるのが怖くて、何も知らない振りをしてました。ほんとにごめんなさい。

今日からは僕も働くから、だから、僕の事見捨てないで、一人にしないで。」

「……そっか。ごめんね、怜燈。気づいてあげられなくて、ごめんね。

怜燈の事僕は捨てたりなんかしないよ。

そんなに長く過ごした訳じゃないけど、僕は怜燈のこと、ほんとの弟みたいに思ってる。

怜燈はそう思ってない?」

「ううん。僕も、皆の事家族みたいで……大好きだよ。」

「そっか!そう思ってくれて嬉しいな。

伊吹も本気で怒ってる訳じゃないよ。ほら仲直り。」

「ごめん。怜燈、辛くてお前に八当りしてた。」

「嘘をついてた僕の方が悪いです。ほんとにごめんなさい。」

「怜燈は悪くない。悪いのはこんな所に連れて来た奴やあんな事やらせる奴らだ。

だからもう謝るな。」

「……ありがとう。」

「仲直り出来たみたいで良かった。二人共、もうわだかまりもないだろ?」

「「うん。」」


「怜燈。ひとつ頼まれてくれないかな。」

これが、俺の昔の記憶。

誰かのために自分を犠牲にしてしまう、優しすぎる吹雪お兄ちゃんとの記憶。

吹雪お兄ちゃん。

やっと、お兄ちゃんとの約束を果たせる。

だからどうか、

生きていて欲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ